SS.解脱
夏が恋しくて……夏小説第2弾。ネタが少々下品ですみません。
それは非常に暑い日で、炎天下で熱されたアスファルトからは陽炎が漂い、遠くには水たまりのような蜃気楼が見えた。
梅雨明けしたばかりの空には大きな入道雲がむくむくと立ち上がっていて、やかましく蝉が鳴いていて、まさに夏本番だった。
期末テストも終わり、あとは夏休みを待つだけ。短縮授業で昼前には学校が終わる。
夏服のポロシャツを肩まで捲りあげてノースリーブ状態にして、靴下も脱いで裸足にスニーカーのだらしない事この上ない格好の私は、コンビニで買った棒アイスを舐め舐めしながらだらだらと帰り道を歩いていた。
家の近くの公園に通りかかった時、幼馴染が眩しそうに目を細めながら空を見上げているのに出会う。
「この暑い中、なに突っ立ってんの?」
「鯨が空の中を飛んでんだ」
「くじらぁ?」
視線を追うと、大きな飛行船がゆったりと空を泳いでいた。確かに鯨に見えないこともないが。
「……あっつぅ~! もう無理!」
私はすぐに音を上げて近くの木陰に避難した。陰はいい風が吹いていて、それに合わせて木漏れ日が揺れている。
未だに炎天下に突っ立ったまま空を見上げている彼に呆れ混じりに声をかけた。
「あんたなんでそんなに涼しい顔してるわけ? 頭可笑しいんじゃない?」
「暑さ、寒さなんてのは煩悩があるから感じるんだ。心頭を滅却をすれば火もまた涼し。煩悩を追い出して解脱し、涅槃の境地に達すれば暑さなんて感じなくなるもんだ」
……なんかすごく馬鹿にされた気がする。つまり、私は煩悩だらけだと。
「ねえ、ちょっと」
彼がこちらを向いた瞬間、ぴらりとスカートを捲って見せた。
「おおぅっ!?」
視線が釘付けになった彼に意地悪く笑って言ってやった。
「あんただって煩悩有り余ってんじゃん」
Fin.