6章ー10 ≪ゆぅ≫と【ユー】
【これが……】
手に握るナイフから伝わってくる、感情、記憶。
僕の知らない、知り得ない記憶。彼の記憶そのもの。
《思い出したか、U》
【あぁ、はじめて知ったよ】
息も絶え絶えに、本物の野崎悠祐は言っている、ように思っている。
この世界には実在など存在しない。僕が、Uが、どう電子情報を読み取り、映像、音声として電子空間上に構築したのか、それ次第で幾様にも変わりうる。
世界が電気的情報で構成されているというのなら、それを変えるのは、容易い。
なるひど、世界をかえるチカラとは、仕組みさえわかってしまえば大したものではない。
すべてがデータでしかないのなら、そりゃ、死んだはずのロマーナさんだって生き返るさ。
書き換えるんだ。すべてをありのままに。元の姿に。
僕が念じるだけでボロボロと彼の体を突き刺していたナイフが崩れていく。
それを認識したときにはすでに目の前にいたはずの野崎悠祐の姿はなくなり、僕の体もなくなる。ただ真っ黒な空間に、文字と記号がチカチカと繰り返して消えては現れる。
これが僕の本当の居場所、電磁的記録の世界。
ああ、寂しいね。今まで見ていたのは、すべて、すべて!幻みたいなものだったのだ。
最初から最後まで、死者の夢にすぎなかったのだ。
《これが野崎悠佑の本当の記憶、本当の人生だ。わくわくしただろ?最高にオモシロイ人生じゃないか》
【本当はそんなの思ってないくせに】
《さすが、僕のコピー。よくわかっている》
【あぁ、今ならわかるよ
君は……いや。僕は、元々は野崎悠祐じゃなかった】
≪そう、僕がオリジナルの野崎悠祐。日本で同時多発的に発生した爆弾テロ事件により殺されて、そして、奴の策略により、記憶だけの存在として保存された。
君は、そんな僕の記憶を解析し、思考回路を完全に分析されて作られた存在。僕の記憶という魂を、コピーされた人工知能の一つだ。
色々やりやすいようにと、君が入っているコンピュータのメインコンソールにアクセスして多少のプログラムを変える権限を持った、ね≫
【その力が、リライトと呼んでいたもの。この世界は、複数のプログラムによって構成されたデータ……ゲームみたいな空間の集まりだ。カセットをかえるように、違う世界に行くことはたやすい】
≪そして、お前は、終には僕を消すんだ≫
【どういう……】
≪なぁ≫
もう一人の僕……いやオリジナルのゆぅは、ゆっくりと問いかけた。
≪人の脳をいじくって、神様気分で楽しかったかい?――なあ、自称神様の人間様よ≫
≪彼≫の問いかけに、すべてのやり取りを観察者気分で記録していたのだろう、自称神様は応えた。
『一つ、考えてみよう』




