5章ー12 脚本家は嘲笑う
「殺された、ねぇ……」
翌日。今日は仕事のある日。いつも通り、忙しいながらも合間を縫って二人で休憩していたとき。レオが突然そうつぶやいた。
昨日、ハルさんに聞いた話は衝撃的だった。ハルさんは、二人をくっつけるために、そして、貴族の争いを無くすために、悲劇を作ろうとしている。だが、それは本当に可能なのだろうか。いや、もっというと、悲劇……若い男女の自殺で、争いが執着するものなのだろうか。
ただ、レオが気になっているのは、悲劇のほうではない。ハルさんが言っていた失言のほうだ。あの場では冗談だ、と言われ深く追求することができなかったけど、ハルさんは確実に「王は殺された」と言っていた。
僕も、それについては、どうしてかわからないけど何か違和感がある。あのしっかりしたハルさんが、失言なんてするわけない、という人に対する違和感なのかもしれない。
「覚えているか、ユー。ジュライは、王様が無くなったのは、病気だって言っていた」
そうだっけか?と首をひねる。少し、呆れられた。僕は覚えていません。
そんな僕とは裏腹に、レオはしっかり覚えていたらしい。
「ほら、あのとき……ジュライが自分の苗字のことを語ったときだ。それを王子は殺されたと……。病気と殺害、間違えるものか?」
間違えやすい事項かと言われれば、どうだろう。王様が殺されたなら、殺されたと記憶するような気もするが……。
逆に、不自然な病気だったら、殺されたと邪推するかもしれないが、少なくとも、ハルさんやジュライさんは、そんな憶測で話をする人とは思えない。
「役に引きずられただけだって、言っていたじゃないか。うっかり殺しと病気間違えることもあるよ」
そう僕は言ったけれども、レオはまだ納得していないみたいだった。そっぽを向いている。
「どこまで本当だか知らねぇよ、王子は平気でうそをつく」
「じゃあレオは何だというんだ?」
「……俺は、王子が何か知っているんじゃないかと思って」
「……仮に殺されたとして、今一番に争っているのは、モンタナ家とキャピトル家。単純に考えると、王を殺したのはどちらかの派閥、ということになるけどレオはジュライさんが関け」
「私がどうかしたかい?」
二人で話し込んでいると、後ろからジュライさんが声をかけてきた。
ハルさんの友人として慣れているのか、ただ単に忙しくて誰も入ってくるのを咎めないのか、よくジュライさんは裏方にも入るようになった。今日は珍しく、その両腕に抱えるくらいの、大きな花束を持っている。いい香りがつかれた体に癒しをもたらしてくれる。
「いや、何でもないです!決して変なことはしてません!」
ちょうど僕が、ジュライさんについて話しているときに来るものだから、心臓が止まるかと思った。今の会話をジュライさんに聞かれるのは個人的にマズイ。なんたって、王の殺害にジュライさんが関係しているのか、って言うところだったのだから。
「かえって怪しいな。何か、私の噂でもしていた?さっきくしゃみが止まらなくなったのは君のせいか」
文言は僕を責めるものだが、冗談めかすように話していて、とても優しいものだった。明らかに挙動不審な動きをしているのに、ジュライさんは、笑い話にしてくれようとしているのがわかる。
改めて、やっぱりさわやかな青年だなぁと感心せざるを得ない。今日来ている服も黒一色でバッチリ決めている。ほどよく鍛えられた体躯に黒が映えて格好いい。さわやかさ3割増しだ。
こんな人が王様殺害に関わったとは思えない。やっぱりレオの言っていることはおかしいのでは、と僕は思う。レオはどう思っているか知らないけど。
「前、ジュライが言っていただろ、王様が死んだって。それどうしてだったんだ?」
やっぱりレオは何か納得いってないらしく、ジュライさんからさりげなく情報を集めようとしている。少し、棒読みだ。薄々感じていたが、レオには演技の才能が全くない。
どうだったかな、と言いながら思い出すようなしぐさをしながら答える。
「心臓の病気だったって聞いた気がするけど、何分子供のころの噂しか聞いていないからはっきりとはわからないな。そのあとすぐに政治が混乱していたし、死因を追及するどころじゃない、という状況だったのかな」
「へぇ、そうなんだ」
ぎこちない顔で笑顔を浮かべるレオ。やっぱり不自然だよ。あまりジュライさんに、この会話を長く続けて欲しくなかったために、話題の転換を図ることにする。
「それで、ジュライさんは何でここに?ハルさんならまだ稽古中ですよ」
「ああ、違う。今日はユウスケ君たちに用があって。これから暇だったら一緒に来てほしい場所があるのだけど」
「ここの仕事終わったらいいですよ。僕らは早めに上がれますし」
コミュニケーションのとれない新人はやることがなくてつらいよ。ジュライさんの頼みだ、やることもないし、ハルさんにさえ許可を取れば行ってもいいだろう。周りが働いている分、罪悪感はすごく感じてしまう。
「じゃあ、終わったらついてきてくれ」




