1章ー5 誰のためのプロローグ
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誰もいなくなった空間で、彼はひとりごちる。
夜も更けているというのに電気をつけていない暗闇の中、PCの画面から放たれる光が、その場にいる彼の輪郭を浮かび上がらせる。青白い光は、不健康に白い肌をより不気味に映し出している。
「なんだか、会話に違和感があるんだけど、君、何かした?」
『 』
彼は暗闇のなか、話しかけた。全く電気をつけていないという状況から当然のことではあるが、この部屋の中には彼以外は存在しない。
正確に言うと、話し相手は、いると言えなくもない。それも、複数。ただ、話し相手に、意思の疎通を必要としないことが前提となるが。
「彼は事故って言っていたけど……」
『 』
「まぁいいや、いずれわかるよね」
返答は帰ってこない。もっとも、彼は誰かに返答を求めているわけではない。彼の世界は、すでに彼で完結しているのだから他人の意見などはなから眼中にない。彼の中では他の存在など取るに足らないものであり、彼こそが自分が信じる唯一の神であった。
彼は、口元に、笑みを浮かべる。
「僕からは、逃げることなどできないのだから。野崎悠佑君」
彼は、笑顔を向ける。この場の話し相手の一つに。
たとえ、それが、物言わなくなった死体であっても。