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神様計画~カミサマプロジェクト~  作者: きたぴよ
5章 脚本家は嘲笑う
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5章ー1 脚本家は嘲笑う

やっとできたので更新します。長かった……


【1】



「ユー、ついたぞ」

 白く、眩い光に目がくらむ。ああ、移動が終わったんだな、とわかる。隣には、ちゃんとレオがいる。ああ、よかった、本当についてきてくれたんだ。

「そうみたいだね」

 僕は目を開ける。僕の頼れる旅のお供、レオがそこにいた。


「ここは……どんなところなんだろうね」

「わからない、どこかの街みたいだが……とにかく今すぐ死ぬ心配はなさそうだぞ」

「レオがそう言うなら安心だな」

 僕は死亡フラグから始まった日々を思い出してため息をつく。そんな僕をレオが腑に落ちないといった顔をしてみている。移動中に何かあったのだろうか?


 目の前には、様々な商店が並んでいる。ここは市場なのだろう。老若男女、皆商品を眺め、買い物をしている。

 店先に飾られている、文字は読めないが、アルファベットのようなものが使われているみたいだ。建物はレンガで作られ、間口は狭いものの2階立ての家が所狭しというように並んでいる。街を歩く人々は、女性は足首まであるふわりと広がるスカートのドレスを、男性はシルクハットに、タキシードのようなものを着ている人が多い。全身真っ黒にぼろぼろのローブを被っているレオ、同じく似たような黒いズボンに黒いジャケットの僕たちはカラフルな人々のなかではどうしようもなく浮いている。


 どことなく昔の西洋チックな雰囲気を感じる街並みだった。少し、元の世界のことを思い出して懐かしくなる。僕自身は西洋に住んでいたことなんて全くない、日本人だけれど。


 ただ、感慨にふけっている暇もなかった。僕たちには、死亡フラグとは違うけれども、重大な問題があったからだ。

「さて、どうする?このままだと俺たち食料もないまま野宿だぞ?」

「失って初めて衣食住の大切さってわかるんだね」

「常識もな」

「せめて言葉がわかればいいんだけど、この世界でもわかるという保証はないしなぁ」

 僕たちはこの世界に来たばかりの新参者、言葉もわからないし、通貨も持っていない。この世界で生きていくうえで必須となる常識もない。イーとアイの世界では神の眼が中心であったことを知らなければ地雷を踏んでいたように、この世界では何をやっていいのかもわからない。

 改めて、ここからは注意深く行動しなければならない。


「おら、そこに立ってっと邪魔だよ」

「す、すみません!」

 と、途方に暮れていると、ガタイのいいおじさんにぶつかられてしまった。勢いが強く転んでしまう。他にも何人もの人にぶつかりながらおじさんは歩いていた。迷惑な人だな、とか見た目から怖そうなおじさんにぶつかってしまった、ということよりも、言葉が通じたことに感慨を覚えていた。


「大丈夫かユー」

「うん、それより言葉は通じるみたいだね」

「文字は読めないのにな。話し言葉が分かれば少しは動きやすくなる」

「まず、どうしようかね……」

「そうだな……格好も浮いているし、変に目立つのは避けたい」

 イーとアイがいたところは、基本的に学生服、全身真っ黒の人間でも浮くことはなかった。それだけ、現地の人が似たような洋服を着ていたからである。イーは軍服もどき、アイはドレスであったがそれは例外だ。住人たちは普通に日本の大学生や社会人の恰好をしていた。

 ここも、テイストは洋服なのだがいかんせん時代が違う。まるっきり、中世のヨーロッパのように歩く人の大部分が裾の広がったロングスカート、男はシルクハットのある燕尾服。髪型も、ブロンドの髪で頭に山でも作ってんですかと言いたいくらい、変なのばかりだ。

 そんな中に、真っ黒黒すけが二人。おそらく、地球基準で考えると、僕とレオと、この街の人々では人種から違う。早くなじむような恰好をしないと、変に警察とかに目をつけられても困る。


 と、しゃがみながら僕が考え込んでいると

「君、大丈夫かな?どこか具合が悪いのかな?」

 誰かに話しかけられてしまった。頭上でレオも目をぱちくりさせて驚いている。

 こんな不審者丸出しの人間に話しかけてくる人がいたとは。


「え、ええと。具合は大丈夫です。ありがとうございます」

「そうか、ならいいんだ。なかなか見ない格好だが、君たちも遠くから舞台を見に来たんだろう?」

 そういって、好青年に僕は手を貸してもらって立ち上がった。見た目に似合わず、ところどころマメのある、鍛え上げられた手だった。


 話しかけてきた人は、本当に善意だったらしい。レオが武器を持っている相手に一切警戒を見せていないことから、それが伺えた。

 こげ茶色の髪を短く丁寧に切りそろえている、レオよりは年下だろう、さわやかな好青年だ。街の中を歩いている人よりもいっそうしっかりした服を着て、腰からは一本の剣を下げている。鞘には丁寧に施された装飾がたくさん飾られている。全体的に、豪華な装飾が多いことから、お金持ちか、けっこうな地位にありそうだ。


「舞台?」

「あれ、違うのか?」

 耳慣れない言葉が出た。それは何、と言ってしまってから、これは『地雷』だったかな、と青ざめる。レオも、慌てふためいてフォローをしていた。


「俺たちは旅の者で行く当てもなくさまよっていたんだ。だからここに来たのは初めてで……」

 レオも言ってからあまりいい言い訳ではないと気づいたらしい。いや、確かにこれ以外言いようがないのだけれど……。

 だが、明らかに怪しい言い訳であったのにも関わらず、目の前の好青年はそれを信じ込んだらしい。


「旅の者か!それは大変だったな!どうかこの街を楽しんでいってほしい。いいところが沢山あるんだ」

 この人、天然記念物並みの善人なんじゃないかな。僕とレオは同じようにハトに豆鉄砲を食らったような顔をしているはずだ。


 そんな僕たちの動揺をよそに、このさわやか善人は続ける。

「そうだ、どうだろうか。これも何かの機会だ、私がこの街を案内するというのは。君たちはこの街に不慣れだろう?」

 違う。ただの善人じゃなかった。超が付くほどの善人だった。またの名をお人よしともいう。

もっとも、この世界に疎い僕たちが、こんな降ってわいた機会を逃すという選択肢はない。咄嗟にレオとアイコンタクトで会話してこの超善人の話に乗ることにした。


「いいんですか!ぜひお願いしたいです!」

「ぜひ頼みたい」

「そうか!嬉しいよ。私の名はジュライ・キャピトルという。ジュライと呼んでくれ」

「僕はのざ……ユウスケ・ノザキです!」

「レオだ。家名はない」

 僕たちが名乗ると、ふと、超善人こと、ジュライさんが驚いた顔をする。だがすぐに、一層さわやかな笑みを浮かべていた。

「じゃあ、ユウスケとレオ。よろしく頼むよ。早速街を見て回りたいところなのだが、開演の時間が迫っている。先に舞台を見てからでもいいか?」

「さっきも言っていましたね、舞台って」

「ああ、最近この街にもできたんだ、演劇の舞台がな。それを見に行きたい。大丈夫、君たちもきっと楽しめると思う」

「楽しみな舞台の前だというのに、僕たちに気を使ってくださってありがとうございます」

「いいんだ、情けは人のためならず、っていうだろ?それに偶然にも、チケットが余っていたんだ。一人で行って空席を作るのも忍びなくて連れ添えそうな人を探していたところなんだよ」

 そう言って、ひらひらと懐から取り出した紙切れを3枚風にたなびかせる。

 なんて、都合のいい人、都合のいい展開なんだろう!そう思いながらも、僕たちはジュライさんについて行った。


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