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神様計画~カミサマプロジェクト~  作者: きたぴよ
4章 囚われの姫君、囚われの心
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4章―17 囚われの姫君、囚われの心

「ウイルス化した住人は全部もとに戻したよ」

「ありがとう、ユー」


 イーがアイを抱きしめたままそう答えた。『リライト』では、もう街の広場にはウイルスはいない。全員、住人に戻した。


 結局、全部で何人いたのだろうか……わからないだけの数の人間が、ウイルス化の処置―すなわち信託―を受けていた。これが、街の各地で暴れていたとなれば、相当な被害だっただろう。少しは、被害軽減に貢献できたと信じたい。


 ただ、それでも、突然現れたウイルスに驚き、街は居なくなった今でも、混乱している。死傷者も出ている。ズキリと、僕のなかで何かが傷んだ。


 正気に戻ったアイが、イーを突き放し、その左頬に強烈にビンタをする。パチンといい音が響いた。殴られた本人もだが、僕たちもいきなりの行動に目を丸くしている。


「馬鹿!何をしているんだよ!どうして、大人しく生きてゆかないんだ!私のことなんか、放っておけよ!馬鹿!馬鹿!」

 馬鹿と言いながら何度も、何度もイーに拳をぶつける。細い腕にポカポカ殴られたところで、元軍人のイーにはまったく痛くはない。ただ、アイの感情を受け入れるために、すべて受け止めていた。

 アイのその眼から涙があふれだしていた。


「馬鹿……なんで、アイのところに来るんだよ……なんで、来てくれるんだよ……」


 すっと、拳を下ろした。嗚咽交じりの叫びの中で、アイの本音が見えてきた。


 アイだって、本当は、ずっと、ずっとつらかったんだ。

 それを聞いて、イーは心から安堵し、もう一度、アイを優しく包み込むように抱きしめる。


「俺が、アイに会いたかったから来たんだ」

「アイが……私がこれを喜ぶとでも思ったの?こんな、世の中を滅茶苦茶にして、あげく私だけが自由になろうなんて」

「いいや、思わないな。アイはこの住人たちを大事にしていた。だから、これは、アイと一緒にいたいと思う俺の身勝手なエゴでしかない。それが、この混乱を引き起こしている。それは重々承知している。俺は、許されないことをしている」


 それでも、と大きくイーは息を吸い込んだ。思いのたけをありったけ伝えるために。


「何度繰り返しても、俺はこの結末を選んだ、世界のすべてを敵にまわしても、世界を壊してでも、俺はお前と一緒に自由になりたかった。お前がいなきゃ、俺の生に意味はないんだよ」


「……私、自由になって……いいの?イーと一緒に居たいって、望んでもいいの?」

「一緒に、自由になろう。好きだ、アイ。大好きだ。――している」

「私も……――している……」


 ズキズキと頭が痛む。ところどころ、何を言っているのかわからない。


 だが、二人は、今、最高に幸せだ。


 レオが、二人に向けて背を向ける。部屋を出て、二人きりにしてやるのだ。僕もそれにならい、足音を立てないように、静かに部屋を出る。


「イー……連れて行って。この牢獄の外まで」

「二人一緒なら、もう何も怖くない。絶対に、離さない……!」

 二人は口づけを交わした。それをレオとユーは知ることはなかった。









 ガタン、と部屋の扉が開く音がした。

 もおうこの神の眼にて、抵抗する者はいないと、正直油断していた。急に開けられた扉に先には、主教が立っていた。

 走っていたのか、息を切らせ、法衣も主教のイメージからは想像つかないくらい乱れている。


「……愚かな!」


 部屋の中を一瞥した主教は、ぜぇはぁと荒い息のまま告げる。たった一言で、その怒りが伝わってくる。

「ああ、まだ邪魔する奴がいたのか」


 イーは、せっかくの時間を邪魔されたことに怒りを隠しきれていない。ゆらりと、立ち上がり、主教を睨みつける。

 そして、アイのほうに笑顔を向けて、にこやかに言う。


「アイ、二人と先に外に行っていてくれ。俺はコイツと話をしてくる。ユー、レオ、事前に打ち合わせた場所まで連れて行ってくれないか」

「了解した」

「任せて」


「イー、話って……!」

 僕たちに、大切な、片時も話したくないであろうアイを任せてまで話をつけるという。アイは、イーのいう「話」の意味が解っていたのだろうか。顔を青ざめさせていた。


「大丈夫、すぐ終わらせてくるから。ユーとレオならしっかり守ってくれる。よろしく頼むぞ?」

 にこりと笑顔で僕たちに念押ししてから、イーは主教の首根っこをつかみ別の部屋に移動していた。

 ここに居ても仕方がないと判断し、レオがアイを背負い、僕がリライトを発動、僕がリライトによりあらゆる面で警備をしながら、崩壊の一途をたどる神の眼を出ていく。


 アイがつぶやいた言葉は、僕たちにも聞こえることはなかった。


「話なんて通じる相手ではないのに……」



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