表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様計画~カミサマプロジェクト~  作者: きたぴよ
4章 囚われの姫君、囚われの心
32/75

4章―10 囚われの姫君、囚われの心

 この世界に来てからどれくらいたっただろうか。しばらくの間は特に変わったできごともなく、アイのいる部屋と、僕たちの宿との往復をしていた。そして、僕たちの行動にはウイルスが出ない限りイーさんも一緒だ。おそらく、僕たちの監視等を兼ねているのかもしれない。が、それを感じさせないくらい自由にさせてもらっている。町の探索と称して、好きな場所に観光させてもらっているのだ。


 そして、レオはイーさんに銃をもらっていた。レオの身体能力の高さを見込んでイーが対ウイルスように初心者でも使いやすいものをと、直々に見繕ったらしい。イーの使っていいた銃のお古らしいが、整備が行き届いており、使用に全く問題はなかった。

どこの馬の骨ともわからない僕らだが、こうやって武器を持たせられるとは、よっぽど信頼されている。それがなんだかうれしくなって、レオはイーさんの指導のもと、はりきって使い方を覚えている。さすが世界最強だっただけあって、飲み込みの速さは尋常じゃなかった。覚えが早くてイーが感心していた。


 ん?僕?僕は何ももらってないよ。ウイルスにあったらとりあえず逃げろだってさ。わかっているよ、僕が有事のさいには、普通は、足手まといになることは。


 イーさんが神の眼に帰ってからは、僕とレオで、筋トレと『リライト』の秘密の特訓をしている。僕自身、この力のことを全くわかっていないために、イーやアイさんには内緒にしている。下手に警戒されても、僕たちもどうしようもないからだ。

 基本的には、レオがやってみてほしいことを指定して、僕がそれを再現できるか試す、それの繰り返しで行われている。火の玉を作れ、雷を落とせ、そういう大雑把な指示が来る。

『リライト』については、まだまだわかったことは少ないが、とりあえず、レオの世界の魔法で起こすことのできる現象……たとえば、風を起こす、火を起こす、雷を落とす、氷を作る、自分が瞬間移動する、といった事はだいたい任意に再現できるということはわかった。おかげでますます『リライト』が何なのか、なぜ僕がそのような力をもっているのか、わからなくなったわけだが。


 ご飯を食べるときは、朝はホテルの朝食を二人で食べるが、それ以外なら、たいていイーさんも一緒だ。その結果というか必然というか、いつもご飯はイーさん馴染みのソフィおばあちゃんの店に行っている。だが、僕も、もちろんレオもすっかりここの味が気に入ってしまったため全く苦にならない。二人でメニューを制覇しようと躍起になっているくらいだ。だが、この店は裏メニューというのが膨大にあるらしく、まだまだ制覇には時間がかかるそうだ。少なくとも1年は通えと、イーは言っていた。




 今日もまた、おなかを減らして、開店したばかりであろう、店のドアを三人でくぐって中に入る。いつもなら「いらっしゃい、ああ、また来たんだねぇ」という暖かい声が聞こえてくるはずなのだが、それがない。


 あれ、どうしたんだろう、と思ったとたんに、目の前の料理をするカウンターがぐにゃりとひしゃげた。


 正確には、目の前のカウンターから奥、すべてが無くなっている。かわりには、黒い、細長い、足のようなもの。


 店の半分がつぶされている。ウイルスだ。ウイルスが店をつぶしたんだ!


 とっさのことでも、日ごろから鍛えている二人はすぐに反応した。イーは即座に銃を抜き牽制に一発はなってから距離をとり応戦、レオは僕を抱えてウイルスから距離をとる。

「レオ、俺に協力してくれ。ユー、近所の人の避難誘導を」

 端的に支持を飛ばすイーさん。それに応と承諾し迷いなく動いた。

 レオはイーさんからもらった銃をすでに使いこなしている。まだ命中はイーさんほどではないが、ウイルス相手に牽制の効果は十分だ。イーさんとの連携も一緒に訓練していただけあってすでに息がぴったりだ。やっぱりこの超人たち、元々のスペックが違うな。


 たとえ、戦闘では僕は動けないとしても、イーさんに任された役割がある。僕もぐずぐずしてはいられない!

「こっちです!二人が戦っている間に逃げてください!押さないで!」

 近所の住民たちを大きなモニターのある一番広いエリアまで誘導する。方向音痴な僕でも、広場の場所はわかるようになるくらいに、町の散策を続けていたのが功を奏した。


 ウイルスの発生地点、僕たちがさっきまでいたソフィおばあちゃんの店はすでに原型を留めていないくらいにつぶれてしまっている。もし、この中に、人がいたとしたら……。

 と、悪いことを考えてしまったときに、ふと違和感に気づく。


「ねぇ、ソフィおばあちゃんはどこ」


 たしか、昨日はこの時間帯は店を開いていると言っていた。だから僕たちはここにきているのだけれども、その肝心のおばあちゃんの姿が見えない。

 避難している人たちの中には見当たらなかった。まさか、と完全につぶれた店を見る。どうしよう!

 考えたらだめだと思いながらも、最悪の結果を想像してしまう。緊張で体中から汗が、止まらない。


「イーさん、ソフィおばあちゃんが見つかりません!今日はもう帰ってきているはずなのに!この店の下敷きになっているのかも」


 僕は銃を構えすでに応戦しているイーさんに大声で話しかけた。そうでもしないとこの混乱のなかじゃ聞こえない。聞こえづらかっただろうけど、イーさんは、ちゃんと僕の声を受け止めてくれたらしい。


 だが、イーさんの返答は僕の予想の斜め上をゆく。


「誰だ、そのソフィおばあちゃんとは」


 そのとき、僕とレオだけが驚愕した。まさか、あれだけ毎日通っていた店の店主のことを、この人が忘れるわけがない。忘れるわけがないのに。

 避難誘導した人のなかにも店の常連はいた。僕たちの会話を聞いていたようだが、「ソフィおばあちゃん」のことは頭に疑問符を浮かべており、誰一人知らないようだった。


 レオも、動揺して、弾を大きく外した。外した弾の近くにいた軍人に怒られた。


 ウイルスが発生する理由はわからないって、アイさんは言っていた。そして、誰も発生する瞬間を見たことがない。


 そもそも、そんなことがありえるのだろうか。家一軒を軽く凌駕するくらいの大きさのある怪物だぞ。どこかに棲息しているならすぐにわかるはずだ。それを、誰も知らないって、巫女の力におぼれて研究が甘いというどころの話ではない。


 そして、まるですっぽりその人だけ記憶から抜け落ちたかのように、誰もソフィおばあちゃんのことを覚えていない。この国の人は、誰も。


 僕とレオはちゃんと、覚えている。

 この国の人たちには効いて、よそ者の僕たちには聞かない暗示……?

 嫌な予感がする。

 もしかして……。


「ごめん、レオ、ちょっと実験したいことがある!ウイルス倒すの、ちょっと待って!」

「了解」


 レオは何も聞かずイーさんがウイルスを倒すことのないように陽動してくれている。


「『リライト』」


 僕は急いで『リライト』を発動させる。実行するのは時間の巻き戻し。対象は目の前の、店をつぶしているウイルス。すぐに形作って現れた光の板に指を走らせる。


「な、ユー何をしている!」

「細かい説教は後で受けるから!」

 イーさんからお叱りを受けるが今は眼をつぶっていてもらおう。僕の体と、光の板と、ウイルスがまとめて同じ青緑色の光に包まれる。光に包まれるということは、リライトが発動したという合図。淡々と起こる、ビデオの逆再生を見ていた。


 しゅるしゅると、黒い影が収縮し、人の形をとる。影のなかから現れたのは――ソフィおばあちゃん。間違えようがない、この人は、ソフィおばあちゃんだ。


 ああ、僕の予想通りだ。最悪だ。最悪な結果だ。


「なっ――これは、マスターっ、じゃないか!?」


 予想外のことに息を切らしているイーさん。ソフィおばあちゃんの姿が視えたとたん、イーはおばあちゃんのことを思い出したらしい。


 でも、悩んでいる暇は与えられなかった。ウイルスは一体ではなかった。触発されて近いところで大量に発生しているらしい。

「ユー!他にもいるぞ」

「わかってる!全部僕がもとに戻す!」

 前に、アイが1匹いたら30匹はいると思え、と言っていた。それが納得できるウイルスの数だった。

リライトで表示される文字列の中に、ウイルスを現す文字列がある。わかりやすい、読めない文字のなかでも、秩序を乱しているんだろうとわかる文字列だ。見つけること自体はたやすい。ただ、ウイルスを表示する文字量が多くて、全部を処理するのに大変なのと、たくさんいすぎて、情報の処理が追い付かない。それでも、必死に指を動かす。指がつりそうだ。だけど、僕は指を止めない。レオが、ウイルスが僕のところにこないように、うまく誘導してくれている。


 ほかのウイルスも片っ端から『リライト』していく。大きいから、対象選択も時間の巻き戻しのための選択も簡単だった。

 しゅるしゅると巻き戻しをする動きが収束すると、ウイルスはその正体を現す。

 それはすべて町の人間であった。総勢45人程度。皆意識を失って倒れている。


「これは、どういうことなんだ……」

 僕は何が起こったかわからないイーに告げる。


「僕の力で、ウイルスが発生するまでの過程をさかのぼってみた。時間の巻き戻しのようなものだ」

 今は、この力……リライトについては触れないでほしい。そう思った僕の心配とは裏腹に、イーは目の前の現実を受け入れるので精いっぱいらしい。


「ほんとう、なのか?」

「ああ、信じられないと思うが、今は信じてほしい。これはすべて作り物じゃない」

 レオがフォローを入れる。イーは、信じられないといいつつも、徐々にこの巻き戻しの現実をしっかり受け止めていた。


 ウイルスにされていたのは、この街の住人だった。住人がウイルスに変化していたのだ。


 徐々に、避難していた人からも驚愕の声が聞こえてくる。ソフィおばあちゃんのことを全く覚えていなかった住人も、姿を見て思い出したらしい。ただ、どうして道端に倒れているのかわからずうろたえている。

 彼女がウイルスだった期間のことは全く覚えていない。彼女は、最初からウイルスだとしか認識されていなかったみたいだ。


 イーも、自分の記憶の矛盾と目の前の光景に戸惑っている。確かに、イーはウイルスが発生しているときには「ソフィおばあちゃんなど知らない」と言ったのだし、それもしっかり覚えている。だが、ひとたび、僕がリライトを使って、ウイルスの正体がソフィおばあちゃんだと解った途端に、彼女のこと一切を思い出した。


 覚えていないことを思い出した。


「住人がウイルス化して、その記憶がすべてなくなる……のか?」


 まるで、最初から存在しなかったかのように。


「これは……どういう……」


 動揺するイーのよそで、ソフィおばあちゃんの他にもウイルス化されていた人たちが、次々と意識を取り戻していた。


「んん……私は……信託を受けていたはずでは……」

「あれ、アイ様のところ……?」

「私、何をしてたんだっけ」

「ああ、アイ様の近くに行ける……!ってどこよここ」

 口々に、起きた人たちは信託のことを口にする。


 神の眼に信託を受けにいったときから本人たちに記憶がない、らしい。これはどういうことなのか、イーにはわかる、はずだ。


 イーさんは膝から崩れ落ちる。握っていた銃が、力の抜けきった手から離れる。カツン、と乾いた音が喧騒でうるさいはずの空間に響いた。


「信託とは何だったのか……」


 レオは、弱り切ったイーの姿を見て、眼をそらした。


「俺は、守るべき民を殺していたのか……?」


 イーさんの思いつめた顔が痛々しく見ていられなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ