4章―8 囚われの姫君、囚われの心
ユーとレオを送るためにイーもいなくなった。部屋でアイは独りだ。機械だらけのこの部屋はすぐにでも温度は消えてなくなってしまう。
機械だけのこの部屋は、心底嫌だった。押しつぶされそうになる。
先ほどまで感じていた、三人分の体温を少しでも逃すまいと歩を進める。しかし、アイには、歩を進めるための足はない。それは、国の未来を代償に切られてしまった。
「くっそ、忌々しい……!」
そもそも、足がなくても、全身にコードが張られている体ではまともに動くことすら叶わないのだ。がんじがらめに拘束しているこのコード、衝動に任せてすべて引っこ抜きたくなる時もある。
だが、それは叶わない。このコードすべてが、この国の民の命とつながっている。アイが神の眼の頂点である限り、この国がある限り、アイが自由になることはない。
アイには、そんなことはとうにわかっている。わかっているのに、求めてしまう。届きもしないものを目指して、必死に這いつくばって手を伸ばすさまはまるで芋虫のようだ、と自嘲する。
「今度は、私が守ると決めたのに」
覚悟はしていたはずだ。自分が神の眼に来た時に。
知ってしまったはずだ。ずいぶん昔の、過去を視た時に。
理解はしているのだ。この温度だって、ぬくもりだって、愛する人ですら、幻想だということに。
ただ、納得をしていないだけだ。この理不尽に。愛する人を無理やり奪われた悲しみに、愛する人を奪った自分の愚かさに。
「囚われているのは、私や伊織だけじゃない……」
この『世界』では、皆が囚われている。暴力に、運命に、大いなる神の意思に。己という虚像に。
「あの子がそれに気づいた時、どんな結論を導くのかしら……あなたは」
「それは、その時にならないとわからない、そうだろ?」
灰色の部屋の壁に、優しく微笑む人影がいた。
「その時、アイは僕と一緒に来てくれるかい?」
「その時に考えるわ、ゆぅ」
人影は満足げにうなずいた、ように感じた。