4章―2 囚われの姫君、囚われの心
あ、という間に縄で後ろ手に拘束されている僕たち。目の前には、布で口元を覆っている、おそらく20代かそれに届かないくらいのであろう年の者が、僕たちに向け、ナイフから路線変更し、銃を構えている。大正時代の軍服のような、きちっとした紺色の制服を着こんで、太ももや、ちらりと視えたコートの裏地に武器が仕込まれていることから、何か、戦闘組織にいることがうかがえる。どうして、まだ、何もしていないのに捕まってしまったのだろうか。僕たちはこそこそ話す。
「レオ……どうしてこうなったんだよ」
「知らないなぁ」
「ああ、冷めてるよ!レオ、魔法でなんとかできないの」
「ユー、ここで先ほどの残念なお知らせ第二段だ、俺は今魔法が使えない」
「ちょっと、どういうことだよ」
「そのままの意味だ。俺は今、魔力は存在するものの、それを行使できない状況におかれている。体や武器のほうは問題なさそうだが、拘束された時点でそれも無意味だ」
「オー、マイガッ……」
「大丈夫だ、安心しろ、世の中なんとかなる」
「こそこそしゃべるな。まずはその舌を切るぞ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ……」
布で口を隠している男は、相変わらず銃口をこちらに向けたままである。すっかりビビッている僕とは対象に、レオは余裕すら感じさせる佇まいである。先ほど、自分で魔法は使えないといっていたのにも関わらず!
「お前ら二人は、神聖なる『神の目』のもとに侵入した!これは神聖な聖域を犯す重罪である。目的はなんだ、答えろ」
マスクの男はドスの効いた声で、僕の反抗の意思を的確にそいでいく。
侵入した……って、別にそんなつもりはないんですけど、たまたまここに降り立っただけなんですけど。神だか髪だか知らないけど、これは不可抗力だって。仕方ないんだって!
「あー、えっと、俺……私たちは道に迷っただけで、特にこんな気味の悪いところに侵入するつもりはありませんでした、申し訳ございません、帰り道を教えていただければ早急に帰りますのでお構いなく」
レオが丁寧に返す。世界最強はくぐってきた修羅場の数が違う。余裕の受け答えだ。ただ、どこか茶化しているようなニュアンスは否めない。
マスクの男はレオの馬鹿にしているような受け答えに少し眉をピクリと動かし、それで、も何でもなかったかのように答える。
「できない。神の眼は限られた人間しか入れぬ土地、生きて返すことはできない」
うわぁ、殺されるよ、洗いざらい吐かされてから殺されるよこれ。何で、僕の行く先々の世界では、ライオンに食べられそうになったり、死亡フラグからスタートしているの?!
「いやぁ、殺されちゃうね、これ。あぁ怖い怖い」
「なんでレオはそんなに余裕なんだよ!理解できない」
「うるさい……お前ら、どこから入ってきたんだ、質問に答えろ」
さすがに、冷静に見えるマスクの男もレオの余裕をみせるどころか馬鹿にするような振る舞いにいら立ちが勝ったのか、少し声を荒げている。ただ、それを一切気にしないのは鋼の(といいつつ実は繊細な)心を持つレオ。
三人とも好き勝手にしゃべるからてんやわんやである。
そこに、部屋の中のスピーカーから突然音が流れ出した。
「イー、もういいよ。通路のカメラの操作は完了したよ。今から三分以内にこっちに来て」
ブツリ、とスピーカーが切れる。それを合図に、青年は銃と警戒態勢を解いた。
「急げ、時間はそこまでない」
「俺、けっこうな演技だったと思うぜ」
「ああ、いい大根役者ぶりだった」
レオが余裕を見せた態度で青年についていく。いつの間にか、レオの腕を縛って拘束していたはずの縄はほどけていた。その縄をぶんぶん振り回しながら青年についていく。僕の隣を過ぎ去るときに、レオはついで、とばかしに僕の拘束も簡単にといてくれた。
「え、ちょっと、どういうこと?!ねぇ!」
僕だけが状況についていけず、置いてけぼりにされながら、先にすすんでいってしまう二人についていくのであった。