1章ー2 誰のためのプロローグ
【2】
「ぼ、僕は……」いざ、決心しても、なかなか声帯が震えて音を紡ぎだしてくれない。「何?」と、聞いてくる彼。なんで、あんな、単純なことがどうしても照れくさくて言いにくいんだろう。僕はうるさくわめき続ける心臓を落ち着かせようと、深く肺に酸素を送り込む。都会の空気はまだ、冬の冷たさを持っていた。
その時だった。一台の車が、暴走して走っていた!車線を無視して、アクセル全開で走っている。ハンドルさばきもおぼつかない。ブレーキを踏む様子もない。そして、その車は、悲鳴を上げて逃げ惑う人々を撥ね飛ばしながら、間違いなく僕らに向かってきている!
ウソだろ?僕の脳は一瞬フリーズした。
残りあと数十メートル。まわりはまだ、暴走車の存在に気づいていない。いや、異変は感じているが、あまりのことに脳が、体が追い付いていない。おい、あと数秒でぶつかる。そうしたらどうなる?間違いなく死ぬ。そんな、死ぬのは嫌だ。汗が全身から吹き出す。わずか数秒のことが一分にも、一時間にも、一日にも長く感じられる。そうか、これが、死に際の人間の限界能力。今はそんなことどうでもいい。死にたくない。死にたくない! 僕の悲鳴に気づいて、振り返る。どうも、脳が状況把握を拒否したらしい。固まって、完全に動かなくなった彼。このままじゃ二人とも死んでしまう。あと数メートル。必死で突き飛ばす。車の来ない方向へ。
「―――!!」
驚愕の表情を浮かべ、振り返る。お前、今だけは頭の回転が速くなったのか?
彼は突き飛ばされた衝撃で、道路に倒れこんだ。よかった。だけど、僕は、暴走車に真正面からぶつかった。
僕は今、人生で最高にかっこいいことをしている気がする。今だけは、誰よりも格好いいスーパーヒーローだよ。平凡な日常に突然訪れるスパイスってやつかな?いや、こんなのは予想もしていないかった し、必要もなかったけど。
お前、なんでそんな顔をしているんだ?助かるんだぞ。喜べよ。なぁ。報われないだろう?
僕の人生ももう終わるんだ。それにしても不思議だね。走馬灯らしい走馬灯が流れない。
これは、僕助かるんじゃない?とちょっと期待してみたけど「現実」はそう甘くないらしい。車に当たった瞬間、死にそうになる痛み(実際死ぬけど)確実に流れ出して、止まらない戻らない血、薄れる意識。
一秒にも満たない一瞬が相当長く感じた、それこそ一生分くらいに。でも相変わらず走馬灯ってものは流れない。代わりに浮かんでくるのは驚愕に目をむく目の前の親友の顔、とはいってももう視界は機能していないのだからその想像図と『なんだかなつかしい』という、あるはずのない感覚。
不思議な気分だ。これが終わりではない気がする。でも、終わるんだ。
言いたかったなぁ。ついに言えなかったなぁ。
お前は『僕の人生最高の親友』だって。
街中に破裂音を響かせて暴走車はやっとブレーキを効かせ始めた。