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神様計画~カミサマプロジェクト~  作者: きたぴよ
3章 さいきょうの魔法使い
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3章ー8 さいきょうの魔法使い

「レオ様、住民の避難が完了しました」

 市民の避難を誘導してくれている係りの者が報告に来た。俺は、「オツカレサマ」とだけ返して被害状況の確認に出る。どうも、魔物の襲撃による死者よりも、避難の際に人に押しつぶされて死んだ人が多そうだ。市場の中は、あの活気のある市場とは思えないほど、静かで、気味が悪い。


 ちなみに、市場を囲うように多数存在していた魔物たちは、俺がすべて処理しておいた。軍の人に、市場の中の魔物を任せ、俺は市場全体に俺の魔法があたらないように結界を張ってから、全体的に雷を落として一撃。ちまちま攻撃するのが面倒くさいからと、かなり大がかりな魔法を二つも使ってしまった。魔力量が異常といえる俺でもさすがに魔力が減ってきている。

 またすぐに厄災の強襲があれば、こんどは俺の力でも安全は保障できない。

 これが限界ということか、と痛感せざるをえない。


 俺は、自分の力は世界で一番強いということを知っている。正確にいうと、単純に力の量が世界で一番、という意味だが。

 つまり、現状では、俺は、この魔法の力を使って、思ったことはなんでもできるということだ。

 魔物を倒すことも、空を飛ぶことも、全部、俺の思うがままだ。雷だって発生させられるのだ、自然現象すら支配下においているとだって言ってもいい。やろうと思えば、国の一つや二つ破壊できる。これだけを聞くと、自分の能力を過信し、驕り高ぶっている人物にしか見えないが、わかってほしい、これは数字から導き出される、紛れもない事実なのだ。

 だが、この俺でも、完全には思い通りにできない事象が存在する。それが、厄災だ。


 厄災は力と数の暴力で、この世界に襲い掛かってくる。それは強大で、恐怖となる。

 しかし、俺にとっては、この思い通りの力の、思い通りにならない部分を感じることができる唯一の機会である。俺は厄災と対峙した時に初めて、自分の魔力の不足を感じ、追い詰められる。初めて魔力の枯渇を感じたときは、生きている喜びすら感じたものだ。

 厄災と対峙しているときだけが、俺は生きていることを実感できる。

厄災は、俺にとっては、少なくとも生きる意味なのだ。

 だが、世界が救われて、厄災がなくなったら、そのあとは?俺は何をして生きればいいのだろう?


 俺は、なんでも思い通りの、このツマラナイ世界でずっと生きていかなければならないのか。

 不謹慎だとはわかっている。俺の幼い頃にはこの厄災で何人もの人が死に、いくつもの街と国が滅んだという話は聞いているし、実際に目の前で体験もしている。それはそれは無残で、どうしようもなくて、言葉での形容の仕方がわからなかった。あのような経験は二度とさせたくないと、本当に強く思う。本当にそう思っているのに!


 ……それでも、俺のこの「渇キ」は存在する。


 ……と、こんな思考にひたっている場合ではない。マミが望むように、この世界の人々を厄災から救わなければ。そう、マミが望むように、世界最強の勇者は文字通り、世界の救世主となるのだ。それが俺に求められた生まれたときからの役割だから。

 そのためには、予言書のもう一人の登場人物を探しに行こうか。

 俺は、空に浮遊した。このほうが早くユーを探し出せると思ったのだ。

 そして、案外早くに見つけることとなる。


「た、助けてくれぇ!」

 俺の横を、矢を射るような速さで、魔物が飛び去っていく。そこから、ユーの声が聞こえたのだ。早くて完全に目でとらえたわけではないが、魔物に連れ去られている状況であるというのは容易に想像できた。

 あいつ、また面倒くさい目にあっているな……。

 なんだかんだと災難を受けやすいあいつに憐れみの念を送りながら、俺は飛んでいった魔物を魔法で追撃するのであった。




 突如現れた炎をまとった弓矢、というべき代物に、僕をつかんで飛翔していた魔物は羽を貫かれ、飛べなくなった。そして、その衝撃で僕をつかんでいた爪を緩めた。

 すなわち、どういうことか。つまりは、僕は飛行手段を即時に失う、ということを意味する。そこからは、自明の理である。またこれかよ!

 だが、自由落下に任せ空中滑空すると思われた僕の体は、レオによって抱き留められていた。端的にいうと、お姫様だっこ、と言われる格好で。


「無事か」

 ……無駄にイケメンなレオに言われてしまったために、男ではあるが少し照れてしまったのは内緒にしておこう。きらりとレオの周りに星が見えた気がした。これは、世の中の女子が惚れるのも仕方がない。イケメン爆発しろ。

「……イケメン爆発しろ」

「思考がダダ漏れだ、少しは隠せ。下に降りるぞ」


 それからは、レオの魔法により、墜落することはなく安全に着地した。屈辱的な状態から脱出できたのも嬉しい。ものすごく嬉しい。

 着地した場所は、市場内からの避難誘導が終わり、大多数の人が避難先として集まっていた。軍が仮設のトイレや水といった必需品の補給をしていた。見た限りの数ではあるが、この場には1万人近くの人がいるようである。市場にいた人はもっと多かったから、複数の場所に分かれて避難しているのか、ここには怪我をしているひとが集められているみたいだ。


 そして、その人の集まりの一番奥……、地面の上に一枚布がひかれ、横たわる人の形をした布のふくらみが見える。

 きっと、この厄災の襲撃で亡くなった方だろう。近くで遺族らしき人が人定のための作業をしている。

 ……ひどいな

 前回の厄災では、奇跡的にも死者が出ることはなかった。けれども、それは本当に奇跡でしかなかったことを思い知らされる。こんなにも、人の命はあっさりと奪われてしまう。

 それこそ、僕のように。


「ユー、そこで休んでいてくれ。俺は作業に戻る」

「僕も何か手伝うよ」

「いい。やることがそもそもない。それに……死体を見るのは慣れていないだろう?」

 僕の手が震えていたのに気づかれたみたい。レオはローブを翻し、人込みの中に紛れていった。

今もこの避難所には大勢の人がいて、軍の人が、救護セットを片手にせわしなく動き回っている。擦り傷の人から、重症者は、息も絶え絶え、全身血まみれで意識のない人もいる。おそらく魔法で、自力で回復を試みている人もいる。


 ここにいる比較的元気な人や軍人は皆、何かをしている。それどころか、僕は魔物につかまって、レオの手を煩わせて、迷惑ばっかりかけて。僕が、予言書で厄災に対抗するチカラみたいに言われているけど……こんな風に、僕は何にもチカラのない、魔法だって使えない、平均的な人間であって、魔物を退けたのだって、ただの偶然にすぎない。厄災に対抗するチカラになんて……僕には、そんなチカラはないのに。

 突然、ざわめきが聞こえた。


「世界最強の勇者様なんだろ!どうして……どうして助けてくれなかったんだ!!」

 ガツンと、地面に人がたたきつけられる音がした。レオだ。あのレオが、激昂した一般人に暴行を加えられている。

 ……助けなきゃ!そう思い駆け出したものの、レオは僕を一瞥するなり、片手でそれを止めた。いい、邪魔をするな、と言っているような気がした。

「彼女が、そんな……こんなのってないよ……」


 レオに暴行を加えていた人はそれっきり、力を失い、大声で泣き崩れてしまった。頭に包帯を巻いている。近くには、布を被された、死体がある。布のふくらみが柔らかな曲線を描いていることから、亡くなったのは女性だったのだろう。ただし、その布の形は普通の人間のような形をしておらず、所々、欠陥が見られる。彼は愛する彼女を亡くしたのだ。やりきれない思いが、思考に渦巻く矛盾が、矛先をレオに向けて発散されている。本人も、本当はレオに八つ当たりすることが正しいことだとは思っていないはずだが、それでも行先のない怒りが、そうさせるのだ。崩れ落ちた男性は、何度も、何度も同じ言葉を繰り返す。


 避難所にはざわめきが漏れる。レオに対して同情し、男性を非難する声がほとんどだが、一部、男性に賛同するものの声が聞こえる。

「そうだ、最強の勇者なんだろ」「家族を返せ!」「ここにいる人も救えたじゃないか」


 心無い非難がレオに向けられる。僕はそれに憤りを感じずにはいられなかった。

 どうして、こういうことを平気で言えるんだろう。結果的に、レオはここにいる人たちを助けたではないか。レオが圧倒的な魔力を持って、市場の外の魔物の制圧をしたではないか。それがこの人たちにはわからないのだろうか。……いや、わかっているからこそ、そんなチカラをもって何故、という思いが強いのだろうか。


 それでも、こんなことを言われるのって、あんまりだよ。厄災を防ごうとしているレオが報われないじゃないか。脳裏に予言書と対峙しているときの、レオの複雑な表情がよぎる。

 ダメージ事態は大したことないのだろう。レオは男性が泣き崩れたとともに、立ちあがり、自分に心無い非難を向ける人には目もくれず、僕のほうへ向かってきた。

「レオ……レオ……!」

 僕は、孤独な彼にかける言葉を持っていない。


「……世界最強は、楽じゃないよ」

 レオに降りかかる理不尽に泣きそうになる僕の頭をやさしく二回ポンポンと叩いてから、何事もなかったかのように、レオは淡々と作業に復帰した。

 表情やしぐさ、声の温度、レオの体のすべてから感情が、完全に殺されていた。瞳の色が、暗くよどんでいた。


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