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神様計画~カミサマプロジェクト~  作者: きたぴよ
3章 さいきょうの魔法使い
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3章ー5 さいきょうの魔法使い


【2】


やくさいのたねはめぶきはなをさかせる

だれともつながらないひとりがいる

せかいにつながらないひとりがいる

ふたりがひとりとなるとき

ひとりはせかいをめつぼうにみちびき

ひとりはへいおんをかなえるだろう

ねがわくば、とわのあんねいを

ねがわくば、えいえんのねむりを

ねがわくば、ひととしてのしを


「うむ、全く意味がわからん。なにこれ」

「これから起こる災害……厄災についての予言書だ、と言われている」

「なんだか無駄にふわふわしているし抽象的で、予言書って言っている割にはちゃんと伝える気があるのかって感じ」

「それには全くもって同意せざるを得ないが……このほかにも、世界の危機を記している文献は沢山出ているんだ、今世界中の考古学者が研究を重ねている」

「はぁ……世界の危機ねぇ」


 先日の厄災から数日、一定程度落ち着いたころ合いに、僕は見せたいものがあるといわれて、レ@オの住居があるという建物の、地下倉庫の奥深くに来ている。そこに保存されていた、「予言書」とやらを僕とレオは直接見に来たのだ。

ちなみに、この建物は、この世界のこの国……ノルゼス国の中で一番強い軍隊の本拠地らしい。道理で無駄にでかかったわけだ……。そして、マミさんは若くしてこの軍隊の最高権力者であり、レオはその最強の兵らしい。実は僕、すごい人たちと知り合いになってしまったのかな。

 そして、居場所のない僕は、この軍の建物の空いている一室を無償で貸してもらえることになった。一文無しの状態では本当にすごくありがたい話である。とはいっても、自称世界を超えてきましたとかいう変人を町に放り出すよりも近くにおいて監視をしておくほうが都合がいいという事情もあってだろう。マミさんが暇を見つけては僕の様子を見に来るようになった。

 僕たちが今見ている予言書は、この軍の機密資料室に入っていた。容易に資料を喪失しないために、地下に作られている部屋だ。そんなところに僕が入って行ってもいいのかと思ったけど、マミさんの許可があり、レオがついているからついて行っても大丈夫らしい。最高権力者の権力を舐めるなよ、と言われてしまった。


 本は……いや、本というよりは、素材は石といったほうがいいかもしれない。薄い石板が何枚も重なって、本のようになっている。たぶん、持ったらすごく重いのかな。冒頭の文章は、その本に書かれていた。僕は文字が読めないのでレオに音読してもらった。(この国の言葉は通じるから、日本語で皆話しているのかと思っていたけど、どうやら違うらしい。どうして、話言葉は通じるのか、その原理はわからない)


 うん、文章を聞いただけでは、全く意味がわからない。こういう予言書の類は、ちゃんと、後世の人間に伝える気があるなら、それなりにわかりやすい形で残すべきでしょ。

「15年前……この世界のあちこちで、前みたいな、今まで見たことのない魔物の出現が確認された。と、同時に、いくつかの街と国が滅んだのだがな」


 レオはさも簡単なことのように言っているけど、それは尋常じゃない被害だったと思う。僕が経験したあの厄災は、レオの強力な魔法と、軍の迅速な対応によって被害は少なかったと言えるけど、15年も前で、しかも初めての厄災なら、混乱は必至だ。とんでもない被害が出たのは間違いない。「いくつかの街と国が滅んだ」の含む意味は深い。

「そして、初めての襲撃のちょうど5年前、俺が生まれた、と推測されている」

「は?」


 それが、なんの関係があるというのだろう?それに、レオのこの中途半端な物言いはどういうことだ?

「俺は、本当の親を知らない。気づいたら、どっかの辺鄙な街のなかで、生まれた直後の姿で捨てられていた、もちろん、親を名乗る人はいない」


 その孤独なレオは、軍のなかで育ったと後で語った。

「でも、親がいないというのは、どこの世界でもよくあることだったりしないの?」

 これをいうのは、不謹慎極まりないのは重々承知であるが、どうも聞かないではいられなかった。それがなんと関係ある?


「そう、ただの偶然で片づけることも可能だが……俺の場合はそうとも言えない」

「どうして?」

「ユーは、魔法の強さが何に由来するか知っているか?」

 そんなこと、まだこの世界に来て数時間かそこらの僕にわかるわけがない。


「魔法の強さは、魔力に由来する。人間には、生まれた時から潜在的に魔力を持っていて、その量が多ければ多いほど、使う魔法に魔力を注ぎ込めば注ぎ込むほど、魔法が強い威力を発揮する。要するに、持っている魔力の量が単純に魔法の強さに影響する」

 ポッと、レオは指先からマッチのような小さな火をともして見せた。軍事機密資料のある場所でその魔法は危険すぎるのではないかと思ったが、当人は気にしていないようだ。


「そして、生まれたときに持っていた魔力量は増えることも、減ることもしない」

「つまり、生まれたときから、その人の魔法を使える能力の大きさは決定しているということ?」

「そうだ。そして、その魔力の量は、必ず、両親のどちらか大きいほうの魔力量の最大値を引き継ぐ。魔力量は、遺伝で決まる。もっとも、今じゃ一般人には実戦に耐えれるだけの魔力を持った人はいないがな」


 ……それって、なんだか不便だな。最初の魔力のある世代の魔力が100だったら、どうやっても、今の世代は100以下にしかならないということか。交配の進み具合によっては、それこそ、平均値が1とか2ぐらいにしかならないかもしれない。両親のどちらか、もしくは両方が魔力量が多いほうが強い子供が生まれるということは……魔力量の多い者同士の掛け合い……というか政略結婚がはびこおりそうである。

「じゃあ、レオの魔力量ってどうなっているの?空一面から雷を降らせられるくらいなら、相当な魔力を持っていそうだけど。」


 レオは、言いにくそうな顔で答えた。

「俺は、かつて、俺が生まれる20年前では最高の量を持っていると言われた人の魔力量の軽く1000倍は持っている」

「……?」


 ポカンと、口を開ける。これは、すげぇ、という意味ではなく、意味が分からないという意思表示である。まったくもって実感がわかない。まぁ、魔力という概念自体になじみがないからでもあるんだが。

 レオ、僕の理解していません顔に気付いたのか、恥ずかしそうに頬を赤らめて、口元に手の甲を当てながら解説する。かわいい女の子がやれば男どもが歓喜しそうなポーズであるが、一応言っておくが、男がそんなポーズしても需要ないぞ。


「えーと……わかりやすくいうと、一般人をアリ、20年前時点の魔力量が最強の人をカブトムシくらいの強さだとしたら、俺はライオンだ」

「ごめん、よけいわからなくなった。もう一度、日本語でおけ」

「日本語ってなんだ……とりあえず、俺は一人で、1000人の魔力を有する軍人に匹敵する魔力量を持っている。これは、魔力は遺伝するという法則から大きく外れた異例のことなんだよ。俺は誰からも生まれるはずのない存在なんだ」


 存在自体が、異例の存在。レオはそういう人。両親から遺伝するという法則を軽く凌駕している。それこそ、20年前までの最大値は決まっていたからそれ以上になるはずはないのに。誰からも生まれるはずのない、存在。


 ここで、僕は、頭のなかの思考回路がつながる。だから、『だれともつながらないひとり』だというのか、レオが。


「予言が、実行されている……?」

「そう、だ。だが、ここまでは、予言の存在は確認されていたが確証がなかった。だが、お前の『存在』を感じて確信した。この世界には、魔力が一切ない人間も存在しない。なのに、お前は、いる。お前は」

 

『せかいにつながらないひとり』

 ようやく、僕がここに連れてこられたことに合点がいった。これは、完全に僕のことを意識しているというしかない。僕はそもそも、この国、この世界の人間ではない。ただの世界お流浪人である。日本で、地球で生まれ育った僕は魔力なんか、持っていない。

 ここで、予言の上から三行は実行されることになる。たった三行と鼻で笑えばそれで終わりだが、20年前から、いや、もっと前、あの石板の本ができたときから僕の存在を暗示していただと?僕が、死んで、世界放浪の旅を始めることになったのは、『神様』の起こした奇跡としか言いようのない偶然の産物の結果でしかないはずだ。


 それなのに、僕のことを予言していた?

 背筋にうすら寒い視線を感じる。

「これは……ちょっと説得力が増すね……」

 この予言が本当のことだと考えると、この機密文章保管庫の空気が一段と冷えたような気がする。背筋をなでるように風が通る。


「いきなりこのようなことを言われても、困るのは重々承知している。だが、この世界が、消されていくのは、さすがに忍びない……ユー、お前に助けてほしい」

 レオの声には温度がなかった。

 その顔には、困惑が浮かぶ。

 きっと、彼は、前みたいな、厄災を、一人最前線にたって戦ってきたに違いない。そのたびに、あのような被害を数々経験してきたのだろう。思い返しているのかもしれない。

 ……あの厄災を、これから再び経験するのか?世界が滅ぶ規模の厄災を。

 それは、あまりに、辛すぎる。


 この世界に来て本当にわずかな時間しかたっていないものの、そう思った。何とかしたい。僕にできることがあるなら、やってみたい。けれども、僕が異世界の人であることから、できることはほとんどないと言ってもいい。


「……助けたいのは、山々だけど、僕、魔法っての?使えないんでしょ?何ができるの?」

「それを言われると……」

 レオも何も考えていなかったらしい。前髪をかきあげる。僕の存在価値は一気に脆弱なものとなった。泣きたい。


「ユー君には、君だけが持つチカラがある」

 会話に困り果てていたその時、この部屋に続く階段から、マミさんが現れた。コツコツと、ヒールの音を響かせて石造りの階段を下りてくるさまは、まさに、仕事のできる人間のイメージにぴったりである。

「違う世界から来た君なら、きっこの世界の人たちとは違う価値観と、感情と、『チカラ』を持っている。そして、そこから、厄災に対する対応策を考えだしてくれると……そう期待しているわ」

「マミさん……」

 国の未来を想像し、真剣に憂うマミさんに対し、レオだけは複雑な表情をしていた。



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