表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/128

懺悔

「ありがとう。じゃぁ、お返しに【光】」

 ハーグ君が光魔法を頭上に出した。滝の周りだけがまるで昼間のように明るくなる。

「はっ、これならモンスターは近づいてもすぐに分かるな」

 リーダーの言葉に、テラが反応する。

「滝があるからモンスターは近づかないんじゃないの?」

「ぷっ、そりゃそうだ」

 禿頭が噴出した。

「ばかっ、油断すんじゃねぇ」

 リーダーが禿頭をパシンと叩いた。

「えっと、滝に気が付かない鈍いモンスターや、野犬とか獣は現れるかもしれないと思います」

 全員の目が私に向いた。あ、あれ?何かまずいこと言った?

「ちげぇねぇ。お前よりよっぽど分かってる。こいつのいう通りだ、分かったか!」

 リーダーの一喝に禿頭がへーと小さく返事をして再びパンをかじった。

「エイルは森で過ごしたことあるの?僕はずっとあそこにいたから知らないことばかりだ」

 テラの言葉になんと返事をしようか悩む。魔獣の森の村のことは二人には話をした。

 レイナさんやファーズを信用してもらうために。ただ、村に行くまでのことは話をしていない。

「【取出】」

 収納からナババを一房取り出す。房には10本前後のナババが付いている。

「森で見つけたの」

 と、ナナバを取ってみんなに手渡す。もちろん男たちにも。

 これが森に入る理由だと思ってもらえないだろうか?男たちも聞いているこの場でファーズさんたちの話をするわけにはいかない。

「お、ナナバじゃねぇか」

 男たちは素直にナナバを受け取ってくれた。毒でも入っていると疑いもしないんだ。

 そういえば、私も男たちから差し出されたパンに毒が入っているなんて疑いもしなかった。

 ふと、常に命を狙われ食事すら毒を気にして自由に食べられないレイナさんのことを思った。そこまでして頑張ってくれている。私、もっとレイナさんのために何かしてあげたい。何がしてあげられるだろう。

 テラ……は協力を約束してくれた。魔欠落者の力が必要だというのなら……。

「あの、聞きたいことがあるんですけど……」

「なんだ?」

「魔欠落者がどこにいるっていう情報は、どうやって集めているんですか?」

 禿頭と髭面がぷっと笑った。

「情報なんて集めようと思わなくたってなぁ」

「ああ。教会に行けばみんな噂してるぞ」

 教会?

「どこそこの子が悪魔付きだとか、あそこで悪魔付きがうろうろしているとかな」

「そうそう神父に密告する人間も後を絶たないからな」

 密告?

「隣の家の子供が5歳になっても魔法が使えないみたいだ、悪魔付きに違いないとか」

 禿頭の言葉に続いて、ひげ面も話始めた。

「懺悔の間の話も駄々漏れだしな。親父が、水をくれと尋ねてきた男に水を恵んでしまった。水を欲しがるなんて魔欠落者に違いない。悪魔付きに水を恵んだ父親を空くいたまえとかよ。もしそれで地獄に落ちるなら、俺らなんてとっくに死んでるっての」

 懺悔?

 水を出してあげる、たったそれだけのことが罪だっていうの?

 ガルパ王国の神殿の教えは……本当にひどい。

 げらげらと神殿の教えを笑い飛ばしたひげ面の男に、ハーグが尋ねた。

「信じてないの?」

 リーダーがハーグ君の頭をポンッと叩く。

「はっ、悪事を働いてる人間が、神を信じてどうする。信じてたら悪事なんて働けねぇだろ」

「てかさ、神殿のがよっぽど悪いことしてるぜ?懺悔した人間に何て言うと思う?」

 分からなくて首を横に振る。

「その罪は銀貨3枚で救われるでしょう」

 え?

「なんだそれ?」

 ハーグ君が大声を出した。

「つまるところ、神殿なんてのは、人々を救うためにあるんじゃねぇよ。なんての?悪徳商人?」

 悪徳商人?

「そうそう。治癒魔法が得意な人間が配置されてるだろう?怪我や病気につけこんで、大金を請求するのは有名な話だ」

 リーダーの言葉にテラが小さく頷いた。

「お金のない人たちは、僕に治療を頼みにくる……。人目を忍んで……」

「ああ、お前は治癒魔法が使えたんだな。どうせ神父より治癒魔法できるんだろう?」

 リーダの言葉は不思議だ。魔欠落者を馬鹿にする言葉を含まない。

「自分たちよりも治癒効果が高くて安く治療する人間がいるとな、神殿は金儲けの邪魔だ。お前たちを悪魔付きって呼んで、悪魔付きに治癒してもらうと不幸になるって言ったほうが都合がいいんだよ」

 あ。同じだ。

 レイナさんが言っていたこと。

 神殿の教えは、神殿側の都合。自分たちに都合がいいように言っているだけだっていう……。

「リーダー、今までそんなこと……俺たちは、悪魔付きを街から排除してるいいことをしてるんだって」

 ひげ面の男が青ざめた。

「はっ。そうだった。悪魔付きを街から排除する立派な仕事を俺たちはしてる。神殿の人間も街の人間もだから俺たちを悪く言うことはないさ。それに」

 リーダーが私たち3人の顔を見る。

「俺らは、お前たちを殴らない。食べ物も水も与える。な?悪いことなんてしてないだろう?」

 魔欠落者を殴らない、食べ物も与える……?

「ちげぇねぇ。誰も不幸になってやしないな。俺らには金が入る」

 ひげ面の顔色が戻った。リーダーは神殿の教えを信じてはいない。でも、ひげ面の男は信じているのだろう。

 魔欠落者は悪魔付きだと。悪魔付きだから、何をしても許される。むしろ、悪魔付きに親切にすると罰せられると……。

「よかったお前たち、魔欠落者なのに、痛い思いもしなくていいし、腹も空かせなくていいなんて幸せだろう?」

「ふっ、」

 ふざけないで!

 殴られなくたって、食べ物が貰えたって、自由を奪われて売られるんだもの!家族や友達と引き離されるんだもの!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ