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「待て?あいつらがいつ帰ってくるかわからない。急がないと」

 ロンさんのいうことももっともだ。だから、急いで説明と、お願いをする。

「オイラたち、先に捕まった子供と合流して助けるつもりなんだ」

「そのために、黙って連れていかれる必要があるんです」

 ロンさんが驚いた顔をする。

「なんだって?わざと捕まっているのか?」

 細かい説明をしている暇がないので、頷いて話を進める。

「そうです。でもよく考えたら。どこに連れていかれたのか場所を説明する手段がなくて……ロンさんお願いがあります。私たちの後をつけて、どこに連れていかれたのか場所を覚えてファーズさんに……宰相に伝えてもらえませんか?」

「宰相に伝えろだと?いや、俺のような立場の人間が宰相に会えるわけないだろう?せいぜい城の門番に伝言するのがやっとだと思うぞ?」

 うーん。事前にブルーを通じてロンさんのことを伝えてもらえば大丈夫なはずだ。

 ただそれをどう説明するか。

「宰相は、兵の採用試験であなたのことを覚えていると思います。白髪の弓使いが尋ねてきたら宰相と会えるように手配しておきますから、お願いします

「手配?風魔法で王都に伝えるのか?王都は遠いぞ?とてもそこまで声が届くとは……」

 ああ、どうしよう。光が再び目に入ってきた。男たちが戻ってくる。

「大丈夫さ。カイン兄貴と合流すれば、王都だろうと声は届くさ。すごいんだぜ、カイン兄貴」

 ハーグ君がどんっと胸を叩く。

 ありがとう。うん、そういうことでロンさんは納得してくれたようだ。

「分かった。とにかく君たちの後をついて、たどり着いた場所を宰相に伝えればいいんだな。できるかどうかわからないがやってみるよ」

「お願いします」

「ああ。お前たちも無理するなよ」

 光がチラチラと揺れて近づきてきた。男たちが戻ってきたのだ。

 ロンさんは急いで私たちの元を離れて姿を隠した。

 森を西の方に進んでいるということは分かっていた。だけど、たどり着く場所がどこかなんて正確に伝える手段はない。

 ファーズさんたちに助けを求めるにしても「どこ」が伝えられないと困る。

 もちろん私たちだけで何とか子供たちを助けるつもりではいる。魔欠落者の子供と合流するのだ。子供とはいえ力を合わせれば何とかなるはずだ。

 ……最悪、ブルーにお願いすれば……。

 だけど、できればブルーにはお願いしたくない。人の争い事にブルーを何度も利用するなんてずるいと思う。

 それに、ブルーは怖くない。とても優しい。

 だけど、何度も人の前に姿を現し、人との争いに巻き込んでしまったら……。人を襲うというイメージがついてしまうかもしれない。

 ブルーがかわいそう。ブルーは人間は食べないって言ってたのに。

 レイナさんに協力はお願いした。でもそれはレイナさんに敵対する人間を襲うことをお願いしたわけじゃない。実際誰も傷つけていないし。……ああ、それでも、もしかして優しいブルーが人前でうれしくてしっぽを揺らすことがなくなってしまうのだろうか……。ごめんねブルー。

 力は必要。だけどブルーは恐怖の対象ではない。畏怖……。そこに尊さがある存在でいてほしい。

 だって、本当に、ブルーは優しい。

 レイナさんが国を変えようとしてる。そこに一つお願いしよう。ブルーが、私の収納を出ても飢えることなく幸せに暮らせる国にしてほしいと。

 だって、私は人だもの。ずっとブルーと一緒にはいられない。がんばって長生きしてもブルーより先に死んじゃうから。

 魔獣の森の村でもいい。ブルーの居場所を作ってもらおう。だって、もう、ブルーも家族でしょう?

 ブルーはそんな風に思われるの迷惑かな……。

「おい、お前ら急げ。もうじき真っ暗になる」

 リーダーが縄をほどいて私たちの背中を軽く押した。

 2人の男の光魔法を頼りに後を追う。

 しばらくして、水音が聞こえてきた。

「滝だ」

 やはり、野営地と呼ばれる場所には滝があった。

「ああ、滝だ。なんだ見たことがあるのか?」

 思わず声を漏らした私に、リーダーが尋ねてきた。

 森の移動が慣れていると思われたらまずいかな?

「オイラたち森で暮らしてるからな。滝の近くにモンスターは近づかない、知ってるよ」

 ハーグ君が私の代わりに男に答える。

 そうか。割と森に入る人には常識なんだ。

「どうして滝には近づかないんだ?」

 テラがもっともな疑問を口にする。

「さぁな、知らねぇよ。ほら、あそこに固まって今日は野宿だ。いいか、逃げようとするなよ?滝から離れればモンスターだらけだ。死にたくねぇだろ?」

 やはり後ろが壁になっている場所。いつの間に集めていたのか禿頭の男が枝をくんだ。

「【火】」

 火魔法で火をつけるとすぐに焚火で木に刺したパンをあぶる。

「ほら、食え」

 男の差し出したパンをかじると、温められたパンは朝食べたものより柔らかくなっていておいしかった。

「ありがとう」

 口から出た言葉に禿頭の男は小さく舌打ちした。

「リーダーも言ってるだろう。俺は親切してるんじゃないからな!明日空腹で倒れられたら迷惑だから渡してるんだ!」

「でも、温めてくれた。ありがとう」

 テラもお礼を言う。

 火魔法が使えない私たちは、温めてパンを食べるなんて思いつきもしなかった。

 ハーグはどうだろう。

「くそっ、お前たちのためじゃねぇ!ついでだ。いつもの癖だ!おい、お前、コップ出せ」

 なぜか大声でお礼の言葉を否定する禿頭。リーダーもそうだった。

 どうしてだろう。私は誰かのために何かしてあげられると嬉しいし、お礼の言葉に涙が出ることもあるのに。

「【取出】」

 コップを6つ取り出す。

「は?こんなに入ってたのか?って、お前は収納の魔欠落者か」

 コップを男たちに差し出す。いくら水魔法が使えて水が飲めると言っても、口に直接出すよりもコップに注いで飲んだ方がいいはずだ。

「【水】」

 リーダーが6つのコップに一度に水を満たした。

 ずいぶん器用だ。普通なら水魔法は一か所にまとめてしか出せないはず。

 ファーズさんの火魔法だって、何個も出そうと思えば火魔法の呪文を繰り返すしかなかったはずだ。

 あれ?でも私、見えているものをまとめて収納とか、今だって、まとめて取出とかできてるよね?

 普通の人の収納魔法は一つづつしか収納できないんだろうか?

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