タスケテと言わない子供たち
「お前らな、自分たちの立場が分かってんのか?俺たちに攫われて、これから売られるんだぞ?」
呆れたようにリーダーは頭をかく。
「どこに連れていかれるのかとか、助けてくれとか、なんかいうことあるだろ?泣くとか震えるとか」
首をかしげる。
「今までさらった子供たちは何て言っていましたか?」
私の質問に今度はリーダーが頭をひねった。
「ん?そういえば、助けてくれと泣いた子供はいなかったか?この先を不安がって震えるやつはいたが……。ああそうだ。殴らない?って聞かれたことがあったな。大事な商品を傷ものにはできないと言ったら、うれしそうな顔をしてた」
そこまで言って、リーダーは立ち上がった。
「はっ。魔欠落者のガキどもは肝が据わってるのか、諦めがいいのか……。まぁ、こちらとしてはギャーギャー騒いで逃げられるより楽だがな!」
殴られないと聞いてほっとするか。今まで連れていかれた子供たちも、辛い思いをしてきたんだろう。
魔欠落者というだけで……。
ぎりりと奥歯をかみしめる。
子供たちを助けたら、レイナさんが国を変えるのに協力してくれる子には協力してもらおう。
もちろん帰る場所があるのなら、帰ってもらって……帰る場所がないのなら、魔獣の森の村に連れて行ってあげよう。
家族が増える。
うん。きっと、私やルークを受け入れてくれたように、村の人たちはきっと受け入れてくれる。
「さ、休憩はおしまいだ。行くぞ!」
水とテラの回復魔法のおかげで、体は楽になった。
さっきまで歩いてついていくだけでいっぱいいっぱいだったけれど、今は周りを見てブルーのご飯を見つけて収納するだけの余裕がある。
あれ?
遠くに人の姿が見える。
モンスターと間違えて収納しそうになった。
危ない。
そうか。このあたりにも人はくるんだ。
「そろそろ中級モンスターが出てくるぞ。用心しろ」
リーダーが前の二人に声をかける。
「ああ、分かってる」
「お前たちもモンスターを見かけたらすぐに教えろよ」
禿頭の男が振り返って私たちに命じた。
黙って頷く。
角兎や牙兎が時折姿を現した。
「【火】」
禿頭の男が小さな火魔法でモンスターに脅しをかけ、ひるんだすきにひげ面の男が剣を振る。前の二人がうち漏らしたモンスターをリーダーが始末していった。
そうして順調に進んでいたところ、突然ひげ面の男が足を止めた。
「待て」
「どうした?」
リーダーがひげ面に尋ねる。
「これ……」
足元から何かを拾い上げ、ひげ面がリーダーに見せた。
「アネクモの糸か!まずい!近くにいるのか?」
リーダーが顔をあげて上を見まわす。アネクモは木の上に巣を張り、突然降下して人を襲うからだ。
「糸はどちらに伸びてる?」
「あっちだ」
「くそっ、野営地のある方向か……」
リーダーが顔をしかめる。
「どうする?引き返すか?」
「いや……。少し遠回りして行こう。野営地にはモンスターは近づかないはずだ」
モンスターが近づかない?野営地って、滝のある場所なんだろうか。
「おい、お前ら急ぐぞ」
そこから先、男たちは今まで以上にスピードを上げて歩き出した。
その様子から、決して男たちにとってもこの道が安全とは言えないことが分かる。命の危険を冒してまで進むほど、たくさんのお金が手に入るのだろうか?
魔欠落者の子供にそんなにお金を出す人がいる?
分からないことだらけだ。
食堂の女将さんに私が売られたときは、金貨一枚すらしなかったと思う。それでも女将さんは大損だと怒っていたけれど。こうして危険を冒してまで売りに行く価値なんてあるのかな?
急いで移動したものの、すっかりあたりは薄暗くなってきた。
「畜生、どっちだ」
いつもと違う道を進んだため、野営地にたどり着けないでいた。
「おい、お前たちここで少し待ってろ。探してくる」
リーダーが縄を出し私たち3人の腕を木に括り付けた。
そして3人の男たちが光魔法で前方を照らしながら離れていった。
「おい、お前たち、大丈夫か?」
「は?」
男たちの光魔法が遠ざかってから突然後ろから声がかけられた。
「だ、誰?」
振り返ると白い髪の男がいる。
「あ、あなたは……」
ファーズさんと言おうとして口をつぐむ。
「宰相を助けた矢を放った人?」
テラの言葉に、白い髪の男が小さく頷いた。
「ああ、見てたのか。なら分かるな。俺は弓使いのロンダート。ロンだ」
見てた。私も舞台というか小屋の上で。私の顔は覚えられてないのかな。
「お前ら、大丈夫か?あの男たちにさらわれたのか?今助けてやる」
ロンさんが腰から短剣を引き抜いてロープにあてがった。
「待ってください!」
せっかくおとなしくいうことを聞いてここまで来たのだ。