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小屋の外

「何だ、逆らう気か?」

「ち、違います。あの、私たち何も飲んでいなくて、口がカラカラで、パンを飲む込めるような状態じゃないんですっ」

 私の言葉に、男はハーグ君の口から手を離して笑い出した。

「ははははっ!そうだった、そうだった、お前ら、薄汚い魔欠落者だったもんなぁ。水すら自分で飲むことができない出来損ないだった。ほら、口を開けろ、俺様が水を恵んでやるよ!【水】」

 急に口の中に現れた水をうまく飲み込むことができなくてハーグ君がむせた。

「大丈夫かハーグ!」

 テラがハーグ君の背中をさする。

「【取出】ここにお願いします」

 エヴァンスの屋敷ではなく、家で使っていた木のコップを取り出す。

「はっはー、用意がいいねぇ。こうしていつも水を恵んでもらってんのか?」

 もう一人のひげ面の男が私の手からコップを取り上げて笑った。

「【水】ほらよ、飲め」

 男が私の頭の上でコップを傾けた。

 ざばーっと頭の上から水が降りかかる。

「おいおい、お前ら、何遊んでんだ。さっそと出発しないと、日が暮れちまうぜ!」

 小屋の見張りの男が、ひげ面の男からコップを取り上げ水を満たして私に手渡す。

「ありがとうございます」

 いくら相手が悪人だからと、してもらったことに対してはお礼を言うべきだと思ったので、小さく頭を下げた。

「はっ、おかしな奴だ」

 見張りの男は空になったコップを私から取り上げ、再び水を満たしてテラに手渡した。

「ありがとう」

 テラも男にお礼を言う。

 もともと、テラがそういう人なのか、私の真似をしたのか、相手を油断させるためなのかは分からない。

「ちっ。やりにくいな」

 空になったコップをテラから取り上げ、水を満たしてハーグに渡した。

「ほら、これでパンを食べられるだろう。さっさと食ってさっさと行け!それからお前ら、大事な商品で遊ぶな。分かったな!」

 見張りのこの人がリーダーなのだろうか?

「水、ありがとう。たすかった」

 ハーグ君も見張りにお礼を言った。

 見張りの男はすぐに背を向けて小屋に入っていってしまった。

 3人で素早くパンを口にする。

「ほら行くぞ。歩いて2日だ。魔物が出る森を通るからな。野営地に日が暮れるまでにたどりつけなきゃ死ぬと思え」

 え?魔物が出る森?

 いや、今もそうだけど、まだそれほど深い場所じゃないからスライムのような初級モンスターしか出てこない。

 これからもっと強いモンスターが出る場所へ向かうということ?

「はっ、そう脅かすな。出たとしても中級モンスターが時々出る程度だ」

 小屋から背に大きな剣を背負った見張りの男が出てきた。

 前にひげ面の男と禿頭の男。。私たち3人を挟んで後ろに見張りの男という順で歩いていく。

「魔獣の森を進むって大丈夫なのかな?」

 テラが男に聞こえない声で囁いた。

「大丈夫さ。オイラが何とかする」

 うん。私も何とかする。というか、むしろモンスターがいっぱい出てくると嬉しいな。ブルーのご飯いっぱい収納したいし。

 あ、でもみんなにばれないように収納しなくちゃいけないよね。

「といっても、なるべく火魔法のことは内緒にしたままにしたい」

「うん。どこか怪我したらすぐに教えてくれ。手足がちぎれたら無理だが、ちぎれそうなら何とかできる」

「うわー、すげーなテラ。そんなにか!」

「おら、くっちゃべってる余裕はねぇぞ。とっとと歩け」

 ひそひそと会話をしていたら、見張りの男に怒鳴られた。

 気が付けば前の男たちと2mほどの距離が開いていた。


 時に険しい道のりを、出てくる魔獣を倒しながら進んでいく。

 はじめの方こそ、3人で話をしながら歩いていたが、道が険しくなるに従い話をする余裕がなくなった。

 はー、倒れそうだ。前の男たちとの距離が広がっていく。

「おい、お前ら、待て。一度休憩するぞ」

 私たちの後ろを歩いていた見張りの男……リーダーが声を上げる。

「休憩?」

 男が振り返って、足元がふらつく私たちを見た。

「はっ、ガキどもの足に合わせるのも楽じゃねぇな」

 木々が少しだけ開けた場所にまとまって座る。

「大丈夫?」

 テラが、私とハーグ君だけに聞こえる声で【回復】と唱えた。

 すぅーっと、疲れが取れる。

「うん、ありがとう」

「おいっ」

 リーダーの声がお礼の言葉を遮った。

 やばい、もしかして、回復魔法をかけてもらって元気になったこと見つかった?

「お前、コップを出せ」

 リーダーが私を指さした。コップ?

「【取出】」

 言われるままにコップを出して差し出す。

「【水】、ほら飲め」

 水を満たしてコップを返される。

「あ、ありがとうございます」

 びっくりしてコップに手を伸ばすまでに間が空いてしまった。

「けっ。お前らは大切な商品だからな」

 リーダーがぶっきらぼうに答え、再びコップに水を満たしてテラに渡す。

「ありがとう」

 テラもハーグ君も水を受け取ってお礼を言った。

 いくら商品扱いされているとはいえ、前を行く男たちのように馬鹿にしながら水を口の中に出したり、頭からかけたりしない。

 そして魔欠落者だから水も出せないと馬鹿にした言葉もないし、馬鹿にした目つきも向けない。


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