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怖くない

 落ち着いて、3人で輪になって今後のことを相談することにした。

「うまくカイン兄貴と同じところに連れていってくれるかな」

 ハーグがうーんとうなる。

「大丈夫じゃないかな?魔欠落者を買い集めてる人に売るって言ってたから」

 男たちの会話を思い出す。

「問題は、何のために買い集めているかですね。……合流できればいいけど……」

 テラの言葉にハーグが沈んだ顔を見せた。が、それも一瞬ですぐに顔をあげる。

「できなきゃ、逃げて探すさ!考えたって仕方がないな。なるようになるさ。自慢じゃないが、オイラの火魔法はちょっとすごいんだぜ」

 ハーグがニッと笑う。

「だけどあいつらはオイラは光魔法しか使えないと思ってる。だから、逃げるのは簡単さ」

 なるほど。そういうことか。あいつらも、逃げようと思ったら火魔法で焼いてやると脅していた。

 つまり、あいつらも火魔法が怖いんだ。

 自分たちよりも強い火魔法を見せられたら、さっさと逃げていく可能性は確かに高い。

 普通は人を焼き殺すほどの大きな火魔法は使えない。せいぜいやけどを負わすくらいだ。

 魔力が高いレイナさんや騎士たち、火魔法に特化したファーズさんが特殊なのだ。まあ騎士たちだって何人集まってもアネクモを倒せるような強い火魔法は使えなかったけどね。

 魔欠落者のハーグはどれほどの力があるのだろうか。

「僕の回復魔法もそこらの教会の神父よりも期待していいですよ」

 二人が私を見る。

「えっと、ベッド出そうか?」

「ぷっ。はははっ、ずいぶん大きな収納だな!ベッドまで入るんだ!」

 ハーグが笑い出した。

「家が丸ごとはいっていたりして」

 テラが冗談を言いながら笑った。……いえ、冗談じゃなく、家を丸ごとくらい楽勝です。

「それなら野宿しなくて旅ができるな!出して泊まって、収納してまた旅をすればいいんだから!って、旅するなら荷運びの仕事になるから家なんて無駄なもの収納できねぇか!ははははっ」

 ドスンッ!

 ハーグが楽しそうに笑い声をあげると、この穴の入口になっている木の床が大きな音を立てた。

「うるせーぞ!静かにしろっ!」

 見張りの男が床を蹴ったらしい。

「うはっ」

 ハーグが首をすくめ、テラが人差し指を口に当ててしぃーっとジェスチャーする。

「明日に備えて寝るか【光】小さくなれ」

 ハーグが周りが見えるくらい明るかった光を小さくして入口に移動させた。

「そうですね。これから何があるかわかりませんから。休めるときに休んでおきましょう」

 クッション一つでごつごつした岩場で寝るのは大変だったので、毛布を1枚だけ取り出し3人で身を寄せ合って固まって寝る。男たちに見つかるとまずいと思ってそれ以上は出さなかった。

 夢を見た。

 旅先で、収納に入れていた家を取り出す。

 取り出した家は、魔獣の森の村長の家みたいに広さがあって風雨はしのげるけれど物がなくて殺風景だ。

 そこにブルーを取り出す。

 人目があるとブルーを取り出すことができないけれど、家の中なら大丈夫。

 くるりと体を丸めて休むブルーに身をよせえて、私とルークが眠っている。そしてそれを見て、レイナさんとファーズが幸せそうに微笑んでいる。

 そんな夢。

 うん、収納に家を入れて旅に出るのもいいかもしれないなぁ……。


「おい、お前ら行くぞ!」

 入り口から光が入ってくる。

「【収納】」

 毛布とクッション、それからナババの皮を慌てて収納する。

 起きてから3人でまたナババを食べたのだ。他にパンも入っているけれど、3人とも水魔法が使えないので口の中がパサパサして飲み込めないと困るからだ。

 光の先からするすると梯子が下ろされた。

「上がってこい。いいか、逃げようと思うなよ」

 男がこれ見よがしに「【火】」と手の平に出した魔法の火を地下洞窟内に放り込んだ。

「きゃぁっ!」

 怖くない。あんな小さな火、全然怖くない。

 ファーズさんの出す炎に比べたら全然怖くない。小さな悲鳴を上げたのは怖がっているふりをするためだ。

 相手を油断させるため。とにかく私たちよりも前に売られたであろう子供たちと合流するまでは、おとなしくいうことを聞こうと決めた。

 どこかの屋敷に閉じ込められているか、牢屋か、ここみたいな洞窟か……。

 何の目的で買い集めているのか。ひどい虐待をしていなければいい。

 いいや、いくらなんでもあまりにひどい虐待をしていれば、魔欠落者の子供たちの誰かが暴走するんじゃないだろうか。火魔法を使う魔欠落者は買っていないようだが、火魔法じゃなくたってあまりにひどい扱いを受ければ買った人もただでは済まないだろう。

 ドミンガさんの水魔法を思い出す。あれだけの量の水を部屋に充満させれば溺れるだろう。

 風魔法も声を届けるだけじゃない。風の力を借りてものを人が高く飛んだり物を飛ばせたりできるのだ。

 抵抗はしていないのだとすれば……。

「ほら、食え」

 洞窟から出て狭い小屋から外に出ると、私とテラをさらった2人の男が小さなパンを差し出した。

「!」

 驚いて3人で顔を見合わせる。

 まさか、食事が与えられるとは思ってなかったからだ。

「早く食え!やせ細ってふらふらだと買い叩かれるからな。お前ら、どっかに傷はないだろうな?傷物も買い叩かれる」

 そういうことか。

 高く売るための投資か。決してやさしさからではないのだ。

 男から受け取ったパンは、硬くて不味そうだ。贅沢を言えるような立場にないことは分かっている。けれど、さっきナババを食べたばかりでお腹が空いていないので、食べたいと思えない……。

「早く食え!」

 3人ともパンを口に運ばずにいたら、男の一人が切れてハーグ君の手を持って口にねじ込むようにしてパンを入れた。

「やっ、やめてください!」

 男の手を取りとめる。


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