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スラムに住む人たち

「なんで、変えようとして頑張っているレイナさんたちをどうせ無理だってバカにするの?何もしない人間が、必死に行動している人を応援しようとしないの?」

 誰もが行動できるわけじゃない。

 だけど、無理だ、無理だって、周りの人が呪いみたいに言う権利がどこにあるの?

「陛下は……レイナさんは……命を狙われながら、魔力至上主義の国を変えようとしてくれているの!それを……手伝ってくれなんて言わない。だけど、騙してるんだとかどうせ無理なんだとか、馬鹿にしないで!」

 魔欠落者自身が諦めているなんて。

 魔欠落者が、魔欠落者のためにと動いている人を疑ったり、否定するなんて……。

 思ってもみなかった。

 どこかで、魔欠落者はみんな味方みたいな気持ちがあったんだ。

 ルークも言っていた。逆差別の国にしちゃうところだったって。

 私も、どこかで、五体六法満足な人間と、魔欠落者と、二つに分けて考えていたんだ。

「僕は、協力するよ。どうせ、これ以上悪くなることなんてないんだ。やってみて無理だったとしたって損したなんて思わないからな!」

 テラが私の顔を見る。

「わ、悪かった……」

 ハーグ君が下を向く。

「諦めたほうが楽なんだ」

「私もそうでした。だけど、今は……一人じゃないから。諦めません。みんなで頑張ります。ううん、私、大切な人達のために私にできることはなんだってしようと思ってます。私……魔欠落者は無能の役立たずだってずっと思ってたけど、違うって分かったから」

 下を向いたままのハーグ君が、ぐっと拳を握っている。

 何か考え込んでいるようだ。いや、葛藤しているんだろうか。

「エイルは、陛下のことを名前で呼んでいるけれど、知り合いなのか?僕はまるきり陛下のことを知らない。だから信用しろと言われても、簡単に信用なんてできないんだ」

 うんと頷いてから、魔欠落者の森の話をした。

 レイナさんとはそこで出会って一緒にしばらく生活していたこと。

 そこには片腕で弓を弾く人もいれば、盲目で刺繍をさす人もいる。

 腕を失ったから、視力を失ったからと、できないとあきらめなかった人がいること。

 魔力が高くても辛い思いをしている人がいることも。

 今、レイナさんとともに魔力至上主義を変えようとしている人たちのこと。

 失う恐怖におびえていること。

 歩けなくなったら、耳が聞こえなくなったら、声が出せなくなったら、魔法が使えなくなったら……。

 たとえ、当たり前にできることができなくなったとき、どうなるかわからない不安。

 魔獣の森の村のように、皆が自然と助けあえる、笑いあえる国を作りたいと思っていることを。

 聞き終えて、ハーグ君は納得したように頷いた。

「そうか。陛下一人で何ができるんだと思ったけど、騎士や兵士たちも魔力至上主義を変えたいって思ってるやつがいるんだな……」

 ハーグはクッションをお腹に抱えて壁にもたれている。

 テラがホッとした顔をしている。

「アマテさんって、スラムの家に来た男の人だよね?よかった。表面上、陛下に従っているわけじゃないんだね」

「うん。……不安を持っている人はいっぱいいるってアマテさんが言っていた。もし、喉が潰れて声が出なくなれば魔法も使えなくなる。そうなったらどうなるんだろうなぁとか。もちろん戦争で傷を負って兵としての役割を負えなくなったらどうなるのか不安に思ってる人もいるって」

 テラがふと眉を下げた。

「そういやぁ、スラムにもいたよ。元兵士も。片目を失って距離感がつかめなくなって戦えなくなったんだって」

 ハーグ君がぎゅっとクッションを潰すようにして上体を乗り出す。

「え?兵だったんだろう?戦えなくたって、魔欠落者じゃないなら他に仕事見つけられたんじゃないのか?」

 テラが首を傾げた。

「うーん、自分より魔力の低い人に遣われるのが我慢できなかったのか、片目を失ったショックから立ち直れなかったのか……よくわからないけどさ。スラムにも、魔力の高い人は他にもいたよ」

 ハーグ君がさらに身を乗り出す。

「え?なんだよそれ!魔欠落者じゃないのに、魔力が高いのに、仕事しないのか?なんでスラムなんかにいるんだよ!家族はどうしたんだ?俺たちみたいに捨てられたわけじゃないんだろう?」

「その、家族が捨てるんだよ」

 ハーグ君がびっくりした顔をしている。

 私もそんな話は初めてで、驚いた。

「は?魔欠落者じゃないだけじゃなくて、魔力が高い人間を家族が捨てる?」

 テラはうんと頷いた。

「なんで?」

 テラが首を傾げた。

「さぁ。理由はいろいろあるみたい。魔力が高いというだけで威張り散らしていた親が邪魔になったとか。怪我や病気で働けなくなったとか。あとは、単純に魔法が使えなくなったとか……かな。声が出せなくなったとか」

 そういえば、魔獣の森へ行く途中にも娘が声が出なくなったと言っている人がいたっけ。

「声が出ないのは、回復魔法で治せるんじゃないの?」

「うん。僕には怪我や病気は治せるよ。でも、心の傷は治せないから……」

「なんだよ、心の傷って!魔欠落者でもない人間が何に傷つくっていうんだ!甘ったれんなってのっ!」

 ハーグ君がちょっと小ばかにしたように鼻を鳴らす。

「声が出せないようなここの傷はね、誰かにやられたものだったりするんだ」

 テラが首元を指さしてここと言った。

 あっ。

 私も、喉をつぶしてやると切られたことがあった。あれは、私にブルーを呼ばせないようにっていう相手も切羽詰まった状態だったからだけど……。いったいどういう理由があれば、喉をつぶそうなんてするの?

「相続争いで、本妻が魔力の高い愛人の子に毒を盛るなんて聞いたことないか?」

「相続争い?それで声を出すことができなくなるような心の傷を受けるってこと?」

 テラはふっと笑った。

「魔欠落者のようになった子供に、親は何て対応すると思う?」

 ハーグがぐっと握りしめたこぶしをクッションにぶつけた。

「はっ!魔法が使えなくなった子などいらないって子供に言ったってことか?相続できない役立たずのお前などいらないと……ちくしょう!ちくしょう!」

 ハーグが何度も何度もクッションにこぶしを打ち付ける。そのうち、クッションを外れて岩にガツンと当たった。

「ハーグ!」

「ちくしょうっ!」

 こぶしから血が飛び散る。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませてもらってます。 [気になる点] 何か強制的に声を出せなくなる状態にしたら、何もできないのがわかるし、魔法に頼らずに生活せざるを得ないことがわかるのになと思いました。自分が無能…
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