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苛立ち

「それなら、大丈夫だよテラ!アマテさんが保護してくれるはずだから安心して!」

「アマテって?陛下がどうの言っていたけれど……まさか、国の兵とか何かか?」

 ザザッ。

 バーク君が後ずさって私たちと距離を取った。

「兵?どういうことだ?」

 ハーグ君がクッションを手にする。

「このクッションの豪華さといい、何者だ?」

 警戒心むき出しの顔をしている。

「敵じゃないよ。レイナさんは……新しく王になったレイナさんは敵じゃない」

 カイン君が首を横に振った。

「信じられない……いや、信じちゃだめだ。エイルもテラも騙されているんだ!」

 ハーグ君の手が私の両肩を掴んだ。

「耳を貸しちゃだめだ。エイル。魔欠落者を甘い言葉で集めて始末するつもりかもしれないっ!あいつらは、魔力が高いというだけで自分たちは神かなんかと勘違いしているんだ」

 テラの顔色が変わった。

「違います、違う!今までの国の体制を変えようとしてるの!ねぇ、テラも見たでしょう?兵の採用試験で、魔欠落者の人も採用されたのを!」

 テラの顔色は悪いままだ。

「それは本当か?魔欠落者が兵に?」

 ああ、ハーグ君は森で生活しているから王都での出来事を知らないのか。

「そうなの!えっと、水魔法が得意な魔欠落者が採用されたの。それから、魔力は弱いけど腕っぷしの強い人も何人か採用されたし、ね、テラ!」

 テラもカイル君もハーグ君も表情は硬いままだ。

「あのね、魔力が高いだけの実力のない騎士は騎士を首になってね、兵の採用試験も受けに来てたんだけど、でもやっぱり実力不足の人は落ちたんだよ?採用されたのは、その騎士たちが馬鹿にしていた魔力の弱い者や魔欠落者で……」

 ハーグ君が小さく笑った。

「きっと、今の王様はエイルのいう通りの信じられる人かもしれないね」

「うん、あのね、レイナさん……女王陛下は、魔力至上主義の国を変えようとしてるの」

 ハーグ君の表情が少し柔らかくなった。

 手が伸びて私の頭を撫でてくれる。

「でも、きっと無理だろう。王が変わればまたもとに戻るよ……。その時に、魔力至上主義を壊そうとした王に協力した者として処罰されるよ」

 え?

「もし生きていく方法が協力することしかないなら、大丈夫だよ。オイラたちと森に暮らそう?」

 ハーグ君がにこっと笑う。

「国を変えるのは無理だって思っているの?」

「んー、変わればいいとは思うけどなぁ。うん、陛下が変えてくれるといいな」

 イシシとハーグ君が笑う。

 無理、無理、無理……。

「わ、私……父親に殴られてた」

 体の中からふつふつと自分でもわからない感情があふれだす。

 これは、何?何なの?

「そっか。大変だったな」

 ハーグ君は優しい。

「母様が死んだら、父親は私を売った……」

 小刻みに指先が震えてきた。

 テラが、それに気が付いてそっと手を握ってくれる。

「魔欠落者だから、だから、殴られても仕方がないって、魔欠落者だから売られたって仕方がないって、そう思ってた」

 ハーグが怒りを顔に浮かべる。

「そんなわけあるかっ!俺たちだって人間だぞ!魔法がちょっと使えないからって殴られて当たり前なんてことないっ!」

 ああ、ちゃんとハーグはすべてをあきらめたわけじゃないんだ。

 でも……。

「私、魔欠落者だから、笑って暮らすことも幸せになることもダメなんだって思って……。母様は、魔欠落者の私を産んでしまったから不幸になった。私のせいで、だから、魔欠落者の私は幸せになってはいけないって思って」

 テラがぎゅっと震えだした体を抱きしめてくれる。

「魔欠落者だから、あれもできない、これもできない、ううん、しちゃいけないって全部、全部、魔欠落者だからって……諦めてた」

 ふっとそこまで口にして、私の中にふつふつと湧き上がってきた感情が何なのか少し分かった。

 苛立ち。

「分かるよ。オイラも魔欠落者だから。いろいろ諦めた。だけどね、生きてくことだけはあきらめてないよ」

 ハーグ君が二カッと笑う。

「カイン兄貴はすごいんだぞ!森の中にすごい隠れ家作っちゃったんだからな!」

 過去の自分への苛立ち。

「諦めてたんじゃないって、今ではわかるよ。逃げてたんだ。何も考えてなかったんだよ、私。どうせ魔欠落者だからって……だから仕方がないって、自分で何かしようとしなかった。何をすればいいのか考えなかった。諦めてたんじゃなくて、抗うことから逃げてた……」

 テラが耳元で小さな声を出す。

「楽だもんな。食べて寝てなんとか生きてくだけなら……」

 ハーグ君が立ち上がった。

「何が言いたいんだよ!」

 テラの襟元を掴む。

「綺麗な服を着ることも、温かい食事をとることも、柔らかいベッドで寝ることも、誰かと恋をして結婚することも、甘いお菓子を食べることも、全部、全部、諦めれば楽だよっ!望めば苦しい。だから、初めから全部諦めて、諦めて……」

 テラが襟を掴んでいるハーグの手首を振り払った。一触即発しそうな雰囲気で、二人がにらみ合っている。

「エイルちゃんのいう通りだろ!考えることから逃げてるだけだ。行動することから逃げてるだけだ。魔欠落者だってことを言い訳にして……。どうしたら綺麗な服を着られるかって、考えもしなければ努力もせずに諦めて……」

「うるせー!考えたって、努力したって、どうせ俺たち魔欠落者が綺麗な服を来て街を歩くなんて無理なんだよっ!」

 どうせ無理だから、行動しない。

 だから、いつまでも変わらない。

 分かるよ。分かる。分かりたくないけど。だけど……。

「ねぇ、どうせ無理だって、だから行動しないのを責めるつもりはないよ?」

 私だってそうだった。行動したら辛い思いをするかもしれない。

 怖い。だから、行動しないことを責めたりなんてしないし、できない。

「だけど……」

 ああ、この苛立ちは。


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