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少年との再開

「【光】大丈夫?」

 光魔法を唱える声で、すぐに昼間のように明るくなった。

「あ、あなたは」

「お前、捕まっちゃったのか?」

 王都へ行く途中に森の中で山賊風の男たちから逃がしてくれた。男の子がいた。

「森は無事に抜けられたんだけど、スラムにいるところで捕まりました」

「山に隠れ住んでるオイラたちだけじゃなくて、スラムの子供まで攫うようになったのか……」

 たしか、ハーグ君だっけ?

「怪我してる。【回復】」

 舌打ちをしたハーグ君の頬にあった傷跡がテラの魔法で消えた。

「え?あ、ありがとう。えっと、お前は?」

「エイルちゃんと一緒にスラムにいるところで捕まった。テラだ。よろしく」

「ああ、オイラはハーグ。火と光のハーグだ!」

 エッヘンとハーグ君が胸をそらした。

「ぷっ。いいね、その自己紹介。じゃぁ僕も」

 テラは少年としてふるまうつもりらしい。一人称が僕に変わった。

「爆裂回復のテラ」

「ぷぅーっ、爆裂ってなんだよ」

 ハーグ君が笑った。

「いや、なんか回復ってどうにもインパクトがないから、かっこいいかなと思って?」

「お前は?」

 ハーグ君が私を見た。

 え?わ、私?私も何かかっこいいこと言わなくちゃだめなの?

 えーっと、うーんと。2人の目が私に向いている。無理。無理無理。

「エイルです。えっと、お腹空いてません?【取出】」

 ナナバを一房取り出し2人の前に差し出す。

「うわー、すげー?食べていいの?」

 ハーグ君に頷いて見せる。

「エイルちゃんは収納魔法が使えるんだね」

「じゃぁ収納のエイルだね。ありがとうもらうよ」

 ハーグ君がナババに手をかけたところで手止めた。

「もう少し奥で食べよう。あいつらに見つかると面倒なことになりそうだ」

 ハーグ君が上を指さした。

 3人で、入口から移動する。

 穴を掘ったわけではなく自然にできた洞窟の入口に小屋を建てて利用しているようだ。中は迎賓館の広間とまではいかなくてもかなりの広さがあった。

 入口の穴から距離をとって座る。

 ごつごつした岩が冷たくて痛い。

 あ、そうだ。

「【取出】はいどうぞ」

「え?何でこんな立派なもの持ってるんだ?」

 ハーグ君が手渡したクッションを見て驚いた顔をする。

 ああそうか。うん、怪しいね。怪しい。

「預かってます」

 嘘じゃない。エヴァンスの屋敷のものを頼まれて収納したんだもの。

「っていうか、えっと、屋敷を取り壊すために家の中の物の処分を頼まれたというかなんというか……」

 そういえばファーズさんはどうするつもりなんだろう。

「ああそうか。エイルはそういう仕事をしているんだな。荷運びとか荷預かりとか」

 仕事というのとは少し違うけれど、でも自分にできることをして生活していることには違いない。

「僕は、回復魔法を使った仕事をしている」

 テラが2本目のナババを食べながら小さな声で言った。表には出られない裏の仕事だ。

 していることは何も悪いことじゃないのに。

「そうか。王都で仕事をしてスラムで生活してるんだ。オイラたちはこの森で隠れ住んでるんだ。木の実を採ったり狩りをしたりして生活してる」

 ハーグの表情に曇りはない。

 きっと、不満なく暮らしているのだろう。

 スラムと森、どちらの生活が幸せなのだろう?

 ……って、一瞬でも思った自分が情けない。

 隠れて裏の仕事をしてスラムに住むのも、人里離れて森で隠れ住むのも……その生活に幸せを感じていたって違うんだ。

 魔欠落者だから人並みの生活は望めない望んではいけないと思っているようで、それじゃダメなんだよね。

 私たち魔欠落者自身が何もかもあきらめちゃったら……それで終わりになってしまう。

「汚れちゃうかもしれないけど使ってもいいのか?」

 ハーグがクッションをまだ抱えたまま持っていた。

 ファーズさんはどういうつもりで私に屋敷の物を収納させたのかは分からないけれど、こんな状況で使えるものを使って汚しちゃったとしても怒るような人ではないよね……?

「うん、大丈夫」

「そりゃいい。これがあれば今日はゆっくり眠れそうだ」

 ハーグ君がにかっと笑う。

「やっぱり、この岩場で寝るのか。まぁ家より体を伸ばして寝られるところがいいかもな」

 テラの言葉に、

 ハーグ君が突然頭を下げた。

「ごめん」

「え?あの、どういうこと?」

 ハーグ君が頭を下げたまま口を開いた。

「逃げようと思えば逃げられるんだ。見張りは一人だし……」

 そうか。恐怖に震えていないどころか冗談を言う余裕があるのはそういうことなんだ。

「だけど、逃げたら……兄貴が……。オイラをかばって先につかまったカイン兄貴どうなっても知らないぞって……」

 ああ、カイン君も捕まってしまったんだ。

「だから、ごめん。テラとエイルも……今は逃がしてあげられない……」

 テラがぽんっとハーグ君の肩を叩く。

「そっか、うん。気にするな。僕も今逃げるわけにはいかないからな。もし僕が逃げれば、僕を捕まえた場所にあいつらがくるかもしれない。そうしたら、あの子たちが危険にさらされるから」

 あの子たち……?


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