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火魔法の使い方

 おかしい。おかしいよっ!うん。おかしいから、だからレイナさんもファーズさんも世の中を変えようとしてくれている。

 おかしいって気が付いたアマテさんやイズルさん、それからルークもみんな変えようとしてる。魔獣の森の村のみんなだって……。それから、ラァラさんたちも、グリッドさんたちも……。

 ぐっと奥歯をかみしめる。

 おかしい、変だって私は気が付くことができた。私だって変わった。

 魔欠落者だからそういう扱いでも仕方がない、そう思っていた私はもういない。

 私にはたくさんできることがある。役立たずじゃないし、人さらいよりもよっぽど人としての心がある。悪魔に魅入られてなんかない!

 私とテラさんのほかに2人いるなら、その2人も助けなくちゃ。

「それにしても、魔欠落者ばっかり買い集めてあの方はどういうつもりなんだろうな?」

「さぁな。金払いはいいし、魔欠落者をどうしようがどうでもいいじゃねぇか」

「そうだな」

 買い集めている?

 ということは、他にもさらわれて売られた人がいるってことだよね。

 ……どんな扱いをされているのか分からない。

 知るのが怖い。娼館に売られそうになったことを思い出す。売られた店で殴られたことを思い出す。

 助ける。

 助けたい。

 このまま売られよう。そうすれば、売られていった人たちと合流できるはず。助けるんだ。

 一人じゃない。

 大丈夫。

 腕に巻いたリボンにそっと触れる。

「ブルー」

『どうした主よ』

「ルークとレイナさんに伝えてほしいの。もし、私のことを尋ねられたら、大丈夫だと。慌てて大事にしないでほしいと。危険があればブルーが助けてくれる。そして、私は皆を、家族であるみんなのことを信じていると。だから私のことも信じて待っていてと」

『うむ、分かった。主には我がいるから心配無用と言えばよいのだな』

 ふふっ。

 かなり言葉が減っちゃうね。

「うん。信じてるよブルー」

『任せておけ』

 


 馬車が二時間ほど進んで止まった。

 麻袋を外される。

「ほら降りて歩け」

 目の前に広がっているのは森だ。魔獣の森だろうか。

「エイルちゃん、大丈夫?」

 自分も不安だろうに、テラは私の心配をしてくれる。

「はい。大丈夫です……あの」

 逃げようとすれば逃げられることも、ブルーと言う心強い味方がいることも……男たちの耳があるからテラには伝えられない。

「大丈夫ですよ」

 テラの目をまっすぐと見る。伝わって。私もテラも大丈夫だからって。

「ほら、さっさと歩け」

 男が私とテラの背中を小突いた。

 男の一人が私たちの前。もう一人の男が私たちの後ろを歩くようだ。

 手も足も何も拘束されていない。前後を挟むことで逃げられないようにしているつもりだろうか?

「逃げようと思うなよ。俺たちはお前たちとは違うからな。すぐに焼いてやる【火】」

 男が手の平に小さな炎を出してすぐに消す。

 人を焼く?

 なんてこと。火魔法が使えたって、そんなことにしか使えないの?そんなことに使うためなら、私は火魔法が使えなくたって構わない。

 焼かれる恐怖で拘束するから縄で縛ったりしないのか。今までさらってきた子供たちにも同じようにしていたのだろうか。

 だけど、私は怖くない。

 いいえ、怖いけれど……でも、きっとテラがすぐに治してくれる。そしてその間にブルーを取り出せばいい。

 それに、魔力至上主義のこの国でろくな仕事にもつけずに人さらいをしている人の魔力が高いとは思えない。

 ファーズさんのように強い火魔法が使えるとは思えない。やけどはするかもしれない。足止めはできるかもしれない。

 でもきっと、この男たちの火魔法では命までは奪えないはずだ。

 負けない。理不尽な扱いに負けたりなんかしない。

 テラと手をつないで先導する男のあとを必死についていく。森の中で時々スライムを見かけた。

 こっそり収納する。

 ある意味、ブルーの食事を確保できてこの体験はありがたいと思っているなんて男たちは考えもしないだろう。

 どれくらい歩いただろうか。

「遅れるな」

 はぁ、はぁ。

 男の怒声が飛ぶ。

 大人の男の足についていくのは大変だ。疲れた。

「大丈夫?【回復】」

 テラさんが回復魔法をかけてくれた。

 すっと体が少し軽くなる。

「ありがとう」

「何をこそこそやってる!さっさと行け!」

 背中をナイフの柄で叩かれる。

 遅れないように必死に歩くこと3時間ほど。

「おい、連れてきたぞ」

 人が4人も入れば座ることもできないような小さな小屋があった。

 先導していた男がドアを叩くと、中からつるりとした頭の濁った眼をした男が顔を出した。

「おう、2人か」

 男が小屋の中央にあるテーブルをどかし、下にある板を持ち上げた。すると、そこには穴がぽっかりと現れた。

「ほら入れ!おとなしくしてろよ」

 背中を押されて穴に落とされる。

「痛っ」

 ごつごつした岩肌が手に触れる。土を掘ったわけじゃない?

 当たりを見まわそうとしたけれど、すぐに穴は板でふさがれほとんど光がなくなってしまった。


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