表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/128

善行

 魔欠落者を差別するだけじゃなくて、魔欠落者とかかわった人間まで差別するっていうこと?

 人々の救いになるはずの教会がそんなことを皆に教えているというの?

 私の住んでいたユーリオル王国ではそんなことはなかった。魔欠落者を助け雇っているグリッドさんが差別を受けているような感じはなかった。

 ガルパ王国では、魔力至上主義のこの国では、魔欠落者とかかわった人間までもが差別される?

 じゃぁ、この国では、私を産んで育ててくれた母様はどういう扱いを受けたのだろう。

 魔欠落者だってかまわないうちの子になりなと言ってくれたラァラさん……それがこの国では許されないっていうこと?

「だから、人を介して知られないようにこっそり私に頼むしかないんだよ。それこそ、悪魔に魂を売ってでも治したいと思う人たちがね……」

 それって、治してもらえるのに、魔欠落者には治してもらいたくないからって命を落とす人もいるってこと?

「教会って何なの……」

 病院も兼ねている場所。

 だけど、お金のない人は治療を受けられない。

 お金のない人が魔欠落者に治療を受けることを禁ずるなんて……。

 助かる命を助けるための場所じゃないの?救いを求める人を助けるのが神様じゃないの?

 お金のある人は助けて、お金のない人は助けない。そして、都合の悪い存在である魔欠落者は悪魔だと人々に教え込み、自分たちの利益を確保する。

「ねぇテラ、治療してあげよう!救える命を救おう!苦しんでる人たちを助けてあげようよ!」

 テラの両手を力いっぱい握る。

「え?」

「レイナさんたちが今、国を変えようとしてる。すぐには無理かもしれないけれど、少しずつでも……この国を変えようとしてる。それにはテラの力が必要なの!」

 テラが、首を傾げた。

「レイナさん?国を変える?」

「うん。教会も何とかしようとしてる。そのために、回復魔法の得意な人を探してるの。お願いレイナさん、協力して!」

 テラがふっと笑った。

「私が誰かの役に立つならいくらだって協力するよ。必要と言ってもらえるなら」

 ああ、私と同じ。

 テラも、魔欠落者だから何もできないなんて思わない。できることがあって、必要とされることがあって、それがきっとうれしいんだ。だから、笑う。笑って協力してくれるって言う。

「でも、あの子たちの面倒も見なくちゃいけないし」

「大丈夫、3人にも手伝ってもらいたいことがあるから!ね、皆でレイナさん……陛下に協力して!」

 テラがぎょっとした顔をする。

「は?陛下?え?レイナさんって、レイナ女王陛下?ちょっと、エイル、それは、えっと」

 あれ?そうか。レイナさんって言うだけじゃ伝わらないんだ。陛下だって知って気が変わるとかないよね?

 それは困る。

「アマテさん、家の中の子たちを連れてきてください。みんなで戻りましょう!」

 距離を置いて私についていたアマテさんに声をかける。家というのがあのがれきの山というのも見ていたなら分かるだろう。

「はい、呼んできます」

 アマテさんがもうすぐその先に見える家に向かい、顔を穴に入れて子供たちに話しかけている。

 それをテラさんが混乱して口をパクパクさせながら見ていた。

「エイルちゃん、どういうことなの?魔欠落者を集めて、陛下はどうするつもり?騙されているんじゃない?」

 少し冷静になったテラの顔が青ざめ始めた。

 ああ、そうか。私はレイナさんのことをよく知っているけれど、テラは知らない。きっと魔力至上主義の頂点に立つ人間くらいしか知らないと不安だよね。

「大丈夫だよ、あのね」

 ちゃんと説明してあげないとと口を開いたところで、体に何かが当たった。

 びっくりして何かと見れば、人の手だ。そう理解したときには、そのまま担がれていた。

「テ、テラ!」

 テラさんも同じように覆面の男に担がれている。

「エイルちゃんっ!」

 テラが手を私に手を伸ばすけれど、その手は届かない。

 男に担がれてスラム街の外へと連れていかれる。

「アマテさんっ!」

 アマテさんに助けを求めて声を上げるが、がれきの山に頭を突っ込んでいたアマテさんには私の声が届かない。

 スラムに住む人たちは叫び声をあげて道を開けた。男の手にナイフが握られていたからだ。

 少し広い通りに出ると、別の男が広げていた麻袋に放り込まれてまた運ばれる。

「はははっ、魔欠落者をさらうのは楽だな。風魔法で助けを呼ばれる心配がないもんな」

「本当だぜ。まぁ、火魔法を使う子供はちょっと厄介だがな」

「こっちのガキが回復魔法だっけ?そっちのガキは何の魔法が使えるんだ?」

「さぁな。魔欠落者ならなんだっていいんだろう」

 男たちが会話がしながら進んでいく。しばらくして硬い床の上に置かれた。ガタガタと動き出したことから荷馬車か何かに積まれたのだということが分かった。

 どうしよう。

 見えるものなら収納できる。麻袋を収納すれば外に出られるはずだ。だけど、そこからどうする?

 テラさんを収納して、モンスターを出して逃げる?

 あ……。

 モンスターは、いない。

 ブルー以外は迎賓館の広間に出してしまったのだ。ブルーを出してしまえば、せっかくレイナさんが身代わりになると言ってくれたことが台無しだ。

 考えるんだ。どうすればいいのか。外に出て、男たちを収納すれば逃げられる?でも、私の収納が特殊なことがばれてしまう。それにブルーのことも……。

「これで全部で4人だな」

 え?4人?

 私とテラさんのほかに2人いるの?

「そろそろ売りに行くか」

「そうだな。ははは。楽な商売だぜ。魔欠落者のガキを捕まえて運ぶだけだからな」

「楽で金になって、そのうえ街から魔欠落者を排除する善行も積める、はっ、やめられねぇな」

「善行な。くっくっく。人さらいが善行ってのは魔欠落者様様じゃねぇか」

 売る?

 魔欠落者を?

 排除する?

 なんで、どうして……。

 それが善行?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ