新しい回復魔法の使い手
「ありがとう」
すぐにレイナさんが風魔法で王都中に聞こえるようにお礼を述べる。
「これで、ブルーとレイナが何かしら関係あると皆に伝わっただろう。もういいぞエイル」
「【収納】」
ブルーを収納してすぐにリボンに手を添える。
「ありがとう、ブルー」
『お礼を言われるほどのことはしておらぬ』
ブルーの声は明るい。
「ううん、すごいよ。かっこよかった。人をよけて着地したり大変だったでしょう?ありがとう」
『ふんっ。食事を求めて駆けまわることに比べれば大したことではない』
あ、そうだった!
「あ、ごめんね。モンスターいっぱい取出しちゃったからまたすぐに捕まえに行くね。走りまわったからお腹すいたよね?」
『2、3日食べなくとも平気だ。主と会う前の我は何日も食べないことなど日常だったからな』
そうなんだ。
でも、平気ではないよね?
お腹が空くと苦しいよね……。
「なるべく早く捕まえに行くよ。ブルーの好物は蛇だったよね!がんばって探す!」
『主、無理はするな。平気だ。我はしばらく寝る』
無理じゃないよ。私がしたいからするんだもん。
城へ戻るために乗り込んだ馬車で早速ファーズさんに尋ねた。
「ファーズさん、モンスターを収納しに出かけたいのですけど」
ファーズあんがうーんと少し考えた後に頭を下げた。
「すまん。今日は無理だな。まだいろいろと後始末しなくちゃならないことがあるから」
そうだよね。
私の仕事はもう終わったけれど、まだファーズさんたちにはやることがいっぱい残っているんだよね……。
「明日でいいか?さすがに魔獣の森に行くなら俺かイズルか……アマテか誰か信用できるものと一緒に行ってほしいからな」
こくんと頷いた。
頷いたけれど……。何かしたい。
みんなががんばってる。私も……。
馬車の小さな窓から外を見る。王都の人達が、そこかしこに集まって噂話をしている。ブルーの存在。最後に交わされたレイナさんとブルーとの会話。
貴族街と呼ばれる地域で、普段は庶民がうろつくような場所ではない。だが、ブルーの動きを追ってかなりの庶民が足を運んだようだ。
破壊されたエヴァンスの屋敷跡を見るために集まった野次馬もいる。中には薄汚い服装の者たちもいて……。
普段であれば追い返されるような人たちも今日ばかりは誰も咎めはしないようだ。
いや、むしろ追い返す仕事をしている人間も混乱して何をすればいいのか戸惑っているようだ。
……どうも、ブルーの気に恐れをなして逃げ出してしまった者もいるのかもしれない。
「あ」
人ごみの中に、あの子がいた。
「何だエイル」
「昨日見かけた、回復魔法の使い手の魔欠落者の子供がいたの」
「え?おい、馬車を止めてくれ」
ファーズさんが馬車の扉を開ける。
「どこだ、エイル?」
まだ完全に止まっていない馬車から飛び降りようとしるファーズさんの服を掴んだ。
「私が行きます」
ルークが言っていた。
騎士が突然自分を探しに来たら、魔欠落者の子供は恐怖で逃げるだろうと。
怖がらせたくない。
いくらファーズさんが冒険者のような身なりでも大人だ。
突然知らない男の人に捕まったら怖いだろう。
幸い、今の私は目立たないように茶色の飾り気のないワンピース姿だ。
馬車から飛び降りて、地面に膝をつく。
「おい、大丈夫か」
「はい。大丈夫です。わざとなので」
そのまま両手も地面につき、土のついた手で頬をこする。髪にも擦り付けた。
「私が話をしてみます」
ファーズさんは、私が服を汚している意図を察したのだろう。
「そうだな。うん、エイル……頼めるか?」
頼まれた。
うれしい!胸の奥が熱い。私、誰かの役に立てるの!
「はいっ!」
ファーズさんが御者台に声をかける。
「アマテ、お前が付いて行ってやってくれ」
馬車を動かしていたのはアマテさんだったんだ。アマテさんは頷くと御者がよく身に着ける黒いコートを脱いだ。
茶色のズボンにベージュのシャツ。私と同じように土をつけて汚し始めた。
「なぁんかたりねぇな。ほら」
ファーズさんが馬が休憩用に食べる干し草を取り出してアマテさんの頭や顔にこすりつけた。
「うはっぷ、ちょ、ふえっくしょんっ」
ああ、干し草が鼻の穴にはいっちゃったのかな……。
「アマテ、エイルを頼んだぞ。エイル、無理するな。ダメそうならすぐに戻ってこい」
無理するな……か。ブルーも言ってた。無理じゃないよ。
私がしたいことだもん。
馬車は通行の邪魔にならないように道の端に寄せて止められている。馬車と建物の影から汚した服装で飛び出し、さっき子供を見た方向に走り出す。
貴族外から庶民の生活する場所へ続く道を進んでいく。
「いた!」
見つけた。
すぐに駆け寄って話しかけようとしたけれど、いったん足を止める。
そして、姿を見失わない程度の距離を置いて後をつける。
なんて話しかければいいの?
魔欠落者ですか?回復魔法は得意ですか?
……。手をぎゅっと握りしめる。




