女王、約束は果たした
ファーズさんの声が聞こえていたかどうか分からないくらい、長老会議のメンバーたちはパニックに陥っていた。
カラカラカラ。
ファーズさんが扉をあけて外へ出る。
「ま、待って、私もっ」
侍女の一人が扉までかけてきた。
「あなたは長老会議の方々を信じないのですか?魔力の高い人間があれだけ集まっているんですよ?外には魔欠落者と、火魔法以外ろくに魔法も使えない人間しかいませんよ?」
侍女が扉の前で立ち止まった。そして、扉が閉まるのを見送った。
「さて、中の騒ぎが収まったら開けてやってくれ。下手に途中で開けるとモンスターが出て来るから、魔力が高く選ばれた人間がモンスターを始末してくれるまでは開けるなよ」
ファーズさんが扉の外にいる騎士に声をかける。
「さてと、次だな」
カラカラカラ。
ファーズさんがそのままカートを押していく。念のため私があそこにいたことを知られないためだ。
「さぁ、もういいぞ。馬車に乗ってくれ」
布がめくられると、目の前には馬車の扉があった。
馬車に揺られて15分ほど。
「さぁ、着いたぞ。まずは中にある物を収納してくれ」
大きな屋敷が目の前にはある。
誰の屋敷なんだろう?多くくて立派だけれど、人の気配はない。
ファーズさんと中に入る。
「ほらエイル、それもあれもどんどん収納」
テーブルにソファに花瓶。食器にタンスにベッドに。
拾い屋敷を歩き回りながら次々と家具や調度品などあらゆるものを収納していく。
客室も多く、ベッドだけでも20は収納しただろうか。
「ああ、あれはいらない。それも不要だな」
収納せずに残したのは誰か分からない肖像画や、趣味の悪い彫刻、それからこの家の主人が使っていたと思われる部屋にあった衣類だ。
「さぁ、これで空っぽだ」
「さぁ、これで空っぽだ」
ファーズさんは、どうやって知ったのか秘密の地下室や本棚に隠された金庫の中の宝石まですっかり私に収納させた。
「じゃぁ、ブルーに頼んでくれ」
ファーズさんにこくんと頷いて見せ、手首のリボンに触れる。
「ブルーお願いします」
『ああ。昨日言ったようにすればいいんだな。主、我を城の上空に出してくれ』
屋敷の外に出て城の方角を見る。
「【取出】」
城の上空にブルーを取り出す。すぐにブルーは城の一番高い塔へと着地。
「はっ、こりゃすごい。流石ブルー様だ!」
ファーズさんが楽しそうな声をあげた。
馬車で15分ほど離れた位置にいるはずなのに、ブルーの気が伝わり肌がピリピリする。
気を抑える訓練をしていたブルー。逆に発する気を大きくするすべも身に着けたのだろうか。
「なんだ?」
「あそこだ、あれはまさか」
人々も異様な気に気が付き、何が起きたのかとあたりの様子を確認しているようだ。
屋敷の周りが騒がしくなってきた。屋敷を取り囲む塀の中にいても、人々の動揺する声が聞こえてくる。
「逃げろ」
「いや、城には魔力の高い騎士様たちがたくさんいる。逃げる必要はないよ」
「ああそうか。そうだな。騎士様たちがやっつけてくれる」
十分人々の注目を集めた後、ブルーは塔を蹴り王都の家並みに着地した。そしてすぐにまた地を蹴る。誰かを傷つけることはない。だが、ブルーの強い気は、それだけで人を恐怖で立てなくするには十分だった。
王都を縦横無尽に駆け巡り、恐怖を人々に植え付けていく。
「気が付いてくれるといいなぁ」
ファーズさんがぼそりとつぶやいた。
「魔力がちょっと強いとか弱いとか……小さな問題だってこと。いや、問題でもないな。くだらない……。人間は弱くてちっぽけだ。だからこそ、皆が助け合って力を合わせないといけないのに……」
ファーズさんのつぶやきに静かに頷く。
魔力の大きさなんて小さな問題……。
「本当に騎士様はあの化け物に勝てるのか?」
「無理じゃないか?いくら魔力が高くとも……」
「魔力が高いからって自慢していたのに、肝心な時に役に立たないっていうのか?」
ブルーは街を駆けまわった後、私のとファーズのいる屋敷に来た。
『この屋敷を破壊するのだな?』
確認するようにファーズに問う。
「ああ、ここはエイルを殺そうとしたエヴァンスの屋敷だ」
ファーズの言葉に、ぶわっと身の毛がよだつほどの気がブルーから発せられた。
もう立っていることができなくて倒れそうになったのをファーズさんが支えてくれた。
『おおおおおおっ』
咆哮。
ああ、ブルーの毛からまたピンクの気が立ち上がっている。綺麗だ。
地を蹴り、ブルーが屋敷に体当たりする。
蹴った地面には大穴が開き、体当たりされた屋敷は半壊した。たった1回の体当たりで。
それから残った屋敷にブルーが前足を振る。
ドオオオンと音を立てて触れてもいない場所からボロボロと屋敷が崩れていく。
すごい。
なんて強い……。
塀の外からも、屋敷がブルーによってあっという間に破壊されている姿はよく見えているだろう。
『女王、約束は果たした』
ブルーはがれきと化した屋敷の上に立つと城に向かって声を発する。
風魔法の呪文も唱えていないのに、その声は王都中に広がった。