作戦決行は迎賓館
と、言ったものの。
することは収納してあるモンスターを取り出すことなので全力も何もないんだけれどね。
次の日、ちょうど開かれている長老会議の集会場所に予定通り潜入。
会議の場所は、王城に隣接する迎賓館。諸外国からの賓客をもてなすための建物だが、普段は使用されていないため広間は貴族たちに解放されている。
豪奢な作りの広間。利用許可をとれば使用料を払い貴族であればだれでも利用可能だ。
そこを、長老会議のメンバーが月に1度借りて集会を行っているのだ。集会という名のじじぃの宴会だとファーズさんは言っていた。
確かに会議という名がついているけれど、食べ物やお酒が準備されソファやテーブル、各々が好きな場所で好きなように食事や酒を楽しみながら話をしたい人間と話をする感じだ。
宴会というよりは社交のための場という感じだろうか。
給仕や護衛など、長老会議メンバー以外の人間も多く出入りしているため、広間に近づくことはさほど難しいことはなかった。
子供なので、給仕のために料理を乗せるカートの下に潜り込んで布をかぶせて隠れて忍び込む。
カラカラカラ。
隙間から、床やテーブルの足などが見える。
「まったく姫のわがままにも困ったものですなぁ」
「ははは、姫じゃなくて陛下でしょう」
「そうでしたな小娘でも陛下は陛下」
レイナさんをあざ笑うような会話が聞こえてくる。
カラカラカラ。
「エヴァンスが暴走したせいでこんなことになった」
「その通り。宰相にまでしてやったというのに恩をあだで返すようなことをしおってからに」
「もっとうまくできなかったのかあのアホは」
エヴァンス?あの狐目の男か。
「まぁ考えようによってはラッキーだったかもしれないぞ。エヴァンスは親子共々もうおしまいだろう。どうせあの出来損ないは始末するんだ。次の宰相の座が転がり込みやすくなったじゃないか」
え?
宰相の座が転がり込む?出来損ないを始末?
まさか……ファーズさんのこと?
ああそうか。レイナさんが命を狙われているように、ファーズさんだって当然……邪魔に思う人たちはいっぱいいるんだ。
確かにファーズさんは、自分を排除しようとする人間がいるとは言っていたけれど、まさか排除が命を狙うことだったなんて。
「あの出来損ないがいなくなれば、陛下も考えを改めるでしょう」
「そうじゃの。魔力が高い者こそ優れていると、もう一度教え込まねばの」
「さて、それにはどうするかだな」
「教会に力を借りるか?」
「いやいや、あまり教会の力を大きくしすぎるのお我々には都合が悪かろう」
カラカラカラ。
カートを押しているのは長老会議のメンバーの貴族の誰かの屋敷から来ている侍女だ。
通常カートの布に隠された部分にはバケツや布などの清掃道具が入っているらしい。飲みすぎて吐いたりした人の始末に使うらしい。
終盤になれば出番もあるかもしれないけれど前半は布がめくられるようなことはないだろうとルークは言っていたけれど見つかったらどうしようとドキドキしてる。いざとなればかくれんぼしていたとより子供っぽくすっとぼけて逃げろと言われている。
それで無理なら呼べと。手首にはブルーの毛が肌に増えるように巻いたリボン。
長老会議のメンバーたちは、話を聞かれていようが何も気にしていないようだ。
侍女や他の者たちもいるのに、女王であるレイナさんを悪く言う。そして宰相であるファーズさんを始末するという物騒な話をする。
この空間にいる人間が皆同じような考えだということだから問題はないということだろうか……。
バタンと大きな音を立てて広間のドアが開いた。
「ファーズ、何しに来た!」
ざわりと場が揺れ、会話をしていた者たちが一斉にドアに注目しているのが伝わってきた。
「宰相として、長老会議の皆様方に新しく採用した兵たちのお披露目に来ました」
少しだけ布を持ち上げ、広間の入り口を見る。
両開きの扉は全開になっており、中央にファーズさんが立っている。そして、昨日兵の採用試験で見た3人の男たちがファーズさんの後ろに立っていた。
「は?どういうつもりだ?」
「汚らしい身なりで、よくここへ連れてこられたな!」
「まさか、そいつら平民どころかスラムの人間じゃないだろうな?」
男たちは試験に現れたときのままの服装だ。この華やかで豪奢な迎賓館の広間とは対照的な、汚く薄汚れた服。
「追い出せ、すぐに」
バタバタと長老会議メンバーの護衛兵らしき人間がファーズさんの後ろに立つ男たちに駆け寄り、ドアの外に連れ出した。
ファーズさんは何も言わずにずっと前を見続けている。
「後悔しますよ?」
ファーズさんの言葉に、白髪で腹の出た男が歩み出た。
「後悔?はて?何のことだ?お前こそ、今ココに来たことを後悔するんだな」
「どういうことかな?ランスル侯爵殿」
ランスル公爵様?
侯爵というのは結構偉い貴族だけれど、それでも宰相であるファーズさんをお前と呼べる立場なのだろうか?
ファーズさんの連れてきた新しく雇った兵を勝手に追い出してしまったり……。長老会議の人たちはファーズさんを……いいえ、女王であるレイナさんのことも全く認めてないってことか。
何故、そんな強気に出られるのか。
「みなさん、魔力の低い者がどれほど愚かでみじめな生き物なのか、ここで教えてあげるというのはいかがでしょうかねぇ?」
ゲヒゲヒと変な笑いを立てながらランスル侯爵が他の者の顔を見回した。
「そうですな。あくまでもファーズ殿は魔力が高いことに意味はないというのであれば、意味があるということを教えて差し上げるのも親切でしょう」
ニヤニヤと笑う人たち。
護衛たちがドアをバタンと占めた。外の部屋へと通じる扉も閉めて回る。
カラカラカラ。
侍女たちは忙しそうに料理の乗ったカートを押し部屋の隅へと移動する。給仕たちが椅子やテーブルを同じように部屋の隅へと移動させている。
「何のつもりだ?」
ファーズさんがすっかり空間の開いた広間の中央へと足を進める。
何の命令も下していないのに、決められた動きをするということは……事前から計画していたのだろう。
「魔力が高いことがどれだけすばらしいことか教えて差し上げると言っているのですよ?」
広間の中央へと足を進めたファーズさんを取り囲むようにして兵や貴族たちが立ち並んだ。
「【火】」
周りの者たちはいっせいに火魔法の呪文を唱えた。