身分違いの恋ではなくて、違うのは……
「ああ、すまない、話がそれてしまった」
ブルーの声に会議が続けられ、私は沸いたお湯でお茶を入れる。
その入れたお茶がすっかり冷めたころ、話し合いも終盤に差し掛かった。
『それで、我のメリットは?』
ブルーの声が響く。
作戦の大枠は決まった。ブルーに頼みたいこともはっきりとした。
あとはブルーの返事を待つばかりというところでの質問だ。
私の身の安全と言えば話は簡単かもしれない……。
「覚えているか、エイルの首が切られたときのことを」
ファーズの言葉にひゅっと息を読むような気が、ブルーの毛から伝わってきた。
「エイルがブルーを収納していることを知られたから、エイルを殺せばブルーが出てこられないと知ったエヴァンスの手下の蛮行だ」
正確には少し違うけれど。あの時は確か、ブルーが遠く離れていて、私がブルー呼び寄せないようにって首を切られたんだ。
ファーズがレイナさんの顔を見る。
レイナさんがファーズさんの意図を汲んで頷いた。
「ブルー、私がエイルちゃんの身代わりになるわ」
レイナさんが、私の身代わり?
「ブルーを収納しているのは私だと皆に思わせる。ブルーとのつながりがあるのは私だと思わせる。ブルーを邪魔に思う人は、エイルちゃんじゃなくて、私を狙うように……私がエイルちゃんの身代わりになる」
え、そんなこと、レイナさんにさせられないっ。
顔を青くしてレイナさんを見る。
「どうせ、いろいろと命を狙われる立場だからね。少し増えたってどってことないわ。それに私にはファーズもいるし。他にも護衛がいるから大丈夫よ」
にこっとレイナさんが笑う。
いろいろと命を狙われているってだからって……。
「村のことを知っている人間もいるからな。村に手を出すなと、ブルーには脅しをかけてもらわないといけないことは分かるな?」
ガルパ王国のことだけじゃない。村のことだ。
「ブルーが表に出る以上、ブルーの存在をよく思わない人間は絶対に出てくる」
ファーズさんの言葉。分かるけれど、分からない。
『了解した。主の身代わりをしてくれることを条件に協力しよう』
「え?ブルー待って、レイナさんを私のせいで危険にさらすなんて……」
『主よ、我にもわかる。城で守られているレイナの方が村にいるエイルより安全だ。村人は主を守れない』
はっ。
もし、私を守ろうと、私の前に村人が飛び出したら……村人はあっけなく命を絶たれるかもしれない。
「おねがい……します」
私のせいで誰かが傷つく。
目に涙目ながらレイナさんに頭を下げる。
「こちらこそよろしく。あのね、エイルちゃん。私は得することが多いのよ。だから気に病むことはないの。それに、悪いのは命を狙う奴らの方だからね?狙われる立場の私たちが申し訳なく思うことなんてないんだから」
「そうだよ、エイル。逆らったらブルーが黙ってないぞって言えるようになってレイナの命を狙う者はずいぶん減るはずだ」
「だな。まあ作戦決行後、また対策考えりゃいいさ。大丈夫大丈夫」
代わる代わる3人が私を落ち着かせようと声をかけてくれた。
『主、身代わりをこちらへ寄越せ』
「え?レイナさんを?【収納】」
『もういいぞ』
レイナさんを収納して1分もたたないうちにブルーから声がかかる。
「【取出】レイナさん、えっと……」
ブルーはなぜレイナさんを呼んだの?
「ほら、これ」
レイナさんは、手のひらをこちらに開いて見せた。
手のひらにはブルーの毛が乗っている。
「いいでしょ、ファーズ」
「え?なんで、持ってないの俺だけ?ちょっとエイル、ブルーに頼んでくれ、俺にも毛をくれって!」
ファーズさんもブルーの毛が欲しい?
「僕は自分で頼んだんだ。ファーズも自分で頼めば?」
ルークにファーズさんがぶるっと身を震わせた。
「え?いや、お前勇気あるな。仮にも相手は伝せ……」
「まぁいいじゃない。ほら、こうすればファーズもブルーと会話できるわけだし」
ルークがブルーの毛を乗せたレイナさんの手の上に、ファーズの手をつかんで乗せた。
まるで手をつなぐような形だ。
「えっ、ちょ、ルーク……」
「いやいや、俺が欲しいのは緊急時のっ」
レイナさんが顔を赤くし、ファーズが焦っている。
あれ?レイナさんの片思いじゃなくて、二人は両想い?
……えっと、村にいたときは姫と護衛っていう立場だったのが、今は女王と宰相だっけ。
うーん、身分差とか問題ないような気はするんだけどなぁ……。
「とにかく、魔力至上主義の考え方を少しでもなくすよう、明日は頼んだぞ」
ぽんっとファーズさんに肩を叩かれる。
つい考え事していて途中の話を聞いてなかった。
魔力至上主義……。身分差じゃなくて、問題はそこなのかな……。
魔欠落者は結婚できないのが普通。
それどころか、魔欠落者が家族にいるというだけで結婚に反対されることだってある。そういう世の中だ。
もしかしてファーズさんとレイナさんにある問題はそこなの?でも……。魔力至上主義をなくす活動をしているなら、別に問題にしなくたっていいよね?いや、やっぱり抵抗勢力の力が強すぎて難しいのかな?
んー、長老会議の力を抑えれば少しは進展できる?二人の仲がかかってるってこと?
「私、全力で明日は頑張りますっ!」
ふんっと力を入れて拳を握る。




