レイナを取り巻く状況
「エイル、ここは魔獣の森の村よりもずっと危険な場所かもしれない」
ルークが静かな口調で言葉を発する。
魔獣の森には、モンスターがたくさんいる。王都にはモンスターはほとんど現れないって聞いてる。だから、ブルーのご飯をいっぱい収納してきた。それなのに危険?
「僕はこのままガルパ王国で勉強するけれど、エイルは用事を済ませたら一日も早く村へ帰った方がいい」
ルークの顔は真剣だ。
「危険……ルークは大丈夫なの?」
何が危険なんだろう?それも気になったけれど、そんな危険な場所に、ルークや、それからレイナさんたちがいることが不安になった。
「私も……残ろうかな……。怖いモンスターが襲ってきたらブルーに頼めば大丈夫だよ」
ルークが首を横に振った。
「エイルは残っちゃだめだ。危険なのは、モンスターじゃなくて人間」
「人間?」
「アマテさんが信用できる人間が少ないと言っていただろう?」
こくんと頷く。
「廊下には音のなる板を敷き、僕やエイルの部屋を同じフロアにしたは、信用できる人間が少ないからだよ」
よくわからなくて首をかしげる。
「僕らの警護を任せられる信用できる人間がそれほど少ないということだよ」
あっ。
「私たちが、魔欠落者……だから……」
もともとお城に努める人間は魔力が高い優秀な者たちばかりだ。
「話の途中すまんな」
開いていたドアから顔をのぞかせ、ファーズさんが現れた。
「エイル、お前たちが魔欠落者だから警護したくないと言っている人間がいるわけじゃないぞ?」
ファーズさんが、頭をなでてくれる。
「本当に信用できる人間が少ないだけだ。急に魔力至上主義をやめると言っても反対する人間が多くてな」
「そうだろうね。今まで魔力だけで甘い汁を吸っていた人間たちが反対しないわけはない」
ルークがどさりとベッドに腰を下ろした。
「その筆頭が長老会議のメンバー、つまり頭の固い権力にしがみついたじじぃの集まりだ」
長老会議?前にも聞いた。
「長老会議も難しいだろうね。魔力至上主義を貫こうとすれば、魔力が最も高いレイナを王の座から降ろすことはできない。かといって、魔力の高さだけで王を決めることに反対すればそれは魔力至上主義からの転換を意味するわけで……」
「ルーク、お前と話してると、時々お前が子供だってこと忘れるよ。その通りだ。だからまだ長老会議も動けない状態ではいる。だが……」
ルークとファーズの会話を聞いていることしかできない。
「だろうね」
ルークがファーズの言葉の先を読んで、ため息をついた。重たい空気が流れる。
しばらくして、空気を換えるようにルークがにやりと笑ってファーズに話しかけた。
「だから、ファーズもレイナに手を出さないの?」
「ちっ、違う、それはっ、って、いや、何を言っているんだルークっ!」
話が分からない。
「だって、レイナを王座から引きずり下ろす方法は二つ。レイナより魔力が高い王族が現れること。現状いないんだから、レイナが子供を産んでその子に期待するしかないでしょう?長老会議はレイナが子供を産むことを望む。態勢が整うまでは、その望みをかなえるわけにはいかない、違う?」
え?
レイナさんが子供を産む?
「だって、レイナさんまだ結婚してないんだから、子供ができるわけないよね?」
首を傾げたら、ファーズさんが今度はルークをからかうようにニヤリと笑った。
「そうだ、そうだ。レイナはまだ結婚してないからな。子供ができるわけないんだ。わかったな、ルーク」
ルークは私の顔を見て、恥じるように少し頬を赤らめた。
「わかった……。そっちは結婚しないことで避けるとしても、もう一つの方法がより問題なんだろう?」
ファーズさんが頷く。
「ああ。レイナを王座から引きずり下ろす、一番手っ取り早くて確実な方法……。させやしないさ。俺が、させない。レイナを守り抜いてみせる」
!
そうか。
亡き者にすれば、王座は別の者へと移る。
そんな……!
レイナさんは敵国のスパイとかそういう人じゃなくて、王座を狙う人たちに、本来は味方であるはずの自国の人間に命を狙われているということ?
お城の中ですら、安心して過ごせる場所はこのフロアだけって、そういうことなの?
「っていっても、どうする気なの?王宮だというのに、侍女の姿もないなんて、よっぽどだよね?」
ああ、そういえば案内してくれたアマテさん以外このフロアで人を見ていない。何も疑問に思わなかったけれど、確かに絵本で読んだお姫様は身支度をする人たちが周りにたくさんいる。仲の良い侍女がいて恋の話とかをするんだよね。レイナさんにはそういう人もいないって言うこと?
「まぁ、その辺はおいおいとな。信用できる人間を今増やしているところだ。幸い、着替えもお茶を入れるのも村では全部自分でやっていたから不便はない。用があれば風魔法で人を呼べばすむしな」
そうでした。
レイナさんは私たちとは違って、風魔法も使えたんだ。
でも、周りに誰もいないのは寂しいよね……。
「私が、侍女になれたらいいのに……」
まだ見た目が10歳にも満たない子供じゃ無理かな。早く大きくなりたい。
「あはは、そりゃいい。うん、レイナも喜ぶよ」
ファーズさんの大きな手が私の頭を撫でた。
「だっ、ダメだよっ!エイルは、僕と国を作るんだからっ!」
ルークがファーズさんを睨んだ。
「ははは。そうだ、エイルはルークのそばにいてやらないとダメだな」
また、ファーズさんが笑った。
「村で侍女をしてくれる人がいないか声をかけるつもりだ。村人なら信頼できるからな」
そっか。そうだ。
みんな家族なんだもん。
きっと私と同じようにレイナさんのこと心配して助けてあげたいと思っている人もいるよね。
うん。いい考えだよね!誰がレイナさんの侍女になるんだろう。リーアさんかな。
リーアさんがここに来たら、ドミンガさんも来るのかな?近いうちに二人は結婚するかもとヤンさんも言っていたし。
あれ?でもそうすると、村はまた水仕事がめんどくさくなるよね?
そういえば、水魔法の得意な人を兵の選抜試験のときにファーズさんが採用していたけれど、そういう人が代わりに村に来てくれればいいのか。
「だが……」
あけましておめでとうございます。
昨年はありがとうございました。
今年もよろしくお願いいたします。