表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/128

母様と父親

 トントントンと、ドアが叩かれる音。

「エイルの部屋はどう?入るよ?」

 ルークの声とドアの開く音。

「エイル!どうしたの?何があったの?」

 ルークの慌てふためく声と、私のところへかけてくる小さな足音。

「大丈夫?どうして泣いているの?」

 心配そうに私の顔をのぞき込むルークの顔。

「どこか痛い?【回復】」

「ちが……ひっく、ありがと……ルーク……どこも痛くない、あれが……」

 震える指先で、壁にかかった肖像画の一枚を指さす。

「母様に似ているの……だから、思い出しちゃって……」

 よく見ればそっくりというほど似ていない。母様の髪の色と瞳の色が同じで、優しく微笑んでいる目元が似ている。それだけだ。鼻の形も口の形も顔のラインも違う。

 だけれど、パッと見た瞬間、母様が微笑んで私を見ているようで。

 小さなルークの手が、私の背中に回った。

「【取出】」

 ハンカチを取り出し、あふれ出た涙をぬぐう。

 私よりも幼いルークにも家族はいないのだ……。お姉さんの私が泣いてばかりいてはダメだよね。

「思い出して辛いなら、部屋を変えてもらう?あの絵の数々はかつてこの部屋を使っていた王族の者だろうから外してもらうわけにはいかないだろうし……」

 辛い?

 確かに、母様に会いたくなって、悲しくなって、ぎゅーって胸の奥がするけど……。

 もう、会えない母様に、会えたような気がしてうれしくもある。

「ううん。大丈夫よ、ありがとう」

『どうした主よ』

 え?

 あ!

 あわてて取り出したハンカチ、ブルーの毛を包んでいたものだった。

「なんでもないよ、ありがとう」

『そうか、ならいい。何かあったらすぐに我を呼べ』

 ああ、もう、私ったらダメダメだ。

 ルークに心配かけて、ブルーにも心配かけて。

 しっかりしなくちゃ。

「ルークの部屋も見せて」

 ルークの部屋は私の部屋と違い、ベージュが基調となって落ち着いた色合いだった。

 ベッドは壁に寄せて置かれており、大きなテーブルとぎっちりと本の詰まった本棚があった。

「勉強させてくれと頼んであったから、しっかり教材付きの部屋。ちゃんと考えてくれたんだ。レイナにお礼を言わないと」

 ルークが楽しそうな声を上げる。

「そうだね。私の部屋にはかわいいドレスが何枚かあったのよ。レイナさんが小さいころに来ていた服なんですって。姉妹でお古を着るのにあこがれていたからうれしいんだ」

「だから、僕にも着せたんじゃないよね?」

 あ、そうか。私の小さかった時のワンピースをルークに着せたことがあったっけ。ルークが恨めしそうな表情を見せる。

「ち、違うよ、あれは……」

 追手の目をごまかすために。

「あはは、分かってるよ」

 あ、分かっててからかったのね。

「とっても似合っていてかわいかったから、レイナさんにルークサイズのドレスももらおうか?」

「エイルっ!」

「ふ、ふふふふっ」

 からかい返したらルークがぷっと膨れた。かわいい。

「ユーリオル王国を出たから、もう必要ないよ」

「それって、追手は来ないってこと?もうあいつらから逃げる必要はないっていうこと?」

 ルークは少し考えてから口を開いた。

「まぁ、僕を追っていた男たちもよっぽどのバカじゃなきゃ、ガルパ王国……レイナの保護下にいる僕に手を出すようなことはないと思う」

 ルークを追っていた男たちの姿を思い出す。

 粗野な山賊を思わせるような風体、ガラの悪そうな男たちだ。確かに、そんな男たちが、お城に乗り込んでこられるとは思えない。

 そうか。ルークは安全なんだ。よかった。

「追手は来ないかもしれないけれど……、僕がここにいることが奴らに知られたら、別の手段に出るかもしれない」

「え?奴らって?」

 殺し屋を雇った人?と聞こうとして口をつぐむ。

 殺すのが目的の人たちを雇ってまで……。ルークの命を絶とうとする人なんて……。

 他人がそこまでするとは思えない。だとすると、家族。


 憎しみのこもった目で私を殴っていた父親を思い出す。

 魔欠落者が生まれたことを知られては家の恥。

 家名を名乗るなと父親は言った。母様と住んでいた小さな家。今思えば、生活に不足する物はなかったし食事もきちんと用意されていた。だけど……。

「絶対にこの家から出て街に出るな!分かったな!」

 見渡すかぎり人が住んでいる家がない場所に家はあった。一番近くの村には歩いて1時間はかかるような場所だった。

 住んでいた家を思い出す。

 小さな林の中の家。周りには割と新しく切り倒されたであろう切り株もあった。今思えば、私が魔欠落者だったことが分かってから私と母様を隠すために建てた家だったのかもしれない。

 父親は酒を飲むたびに私は殴りつけた。私をかばった母も殴った。

 ……。魔欠落者は家の恥……だと。

 でも、なぜ私は捨てられなかったのだろう?隠すための家をわざわざ建てるよりも……。

 山に捨てられたと言っていたゴーシュさんを思い出す。

 そして、命まで奪われようとしているルークを見る。

 なぜ、父親は、なぜ私を殺さなかった?

 母様は、なぜ父親の元を去らなかった?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ