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エイルの決断

「いやいや、ルークを奇跡の子供に仕立てようなんて思ってないよ。国からの派遣という形にするのは、その、護衛をつけたり、警戒心を解いたりとまぁ、色々とな」

 ファーズさんがポリポリと頭をかいた。

 護衛が必要だったり警戒されたりするのが魔欠落者の今の立ち位置。

「っていうか、ルークは、本当に頼めないのか?」

「無理だよ。僕にはすべきことが他に山ほどあるから。さっき見た子に頼んだら?どれくらいの力があるかは分からないけど、ほら、あそこにいる子。たぶん僕の仲間」

「本当か?」

 ルークが指さしたのは、私がさっき見かけた男の子だ。

 ファーズさんはすぐさま舞台から飛び降りて男の子がいる方へと向かった。

 だが、男の子は、人波をかき分けて逃げて行ってしまった。高い位置から見ても、大人の背丈に隠れてしまってどこへ逃げたのかわからない。

「あー、見失った」

 ファーズさんが悔しそうに再び小屋の上に上がってきた。

「イズル、お前もさっきの子の顔見ただろう?探してくれ。あの服装からすれば、スラムを探せば見つかるんじゃないかな」

 スラム……。

 みすぼらしい恰好をしていたけれど、やっぱりそういう場所に住んでいるんだ。

 それは、魔欠落者だから?それとも、もともと貧乏な親から生まれただけ?

 胸の奥が痛む。

 文字を読んだ私に、大切にされてきたんだねとほっとした顔を見せたグリットさんを思い出す。

 魔獣の森の村で、ヤンさんが私の髪をなでてちゃんと食べているんだねよかったと言った顔を思い出す。

 私は恵まれていた。

 母様がいたから。母様が私を守ってくれていたから……。

 父親は魔欠落者で生まれてきた私を認めようとはしなかった。だけど、母様がいてくれた。

 もし、母親も私の父親みたいな人間だったとしたら?そんな両親から生まれた魔欠落者の子はどうなっちゃうの?

 山に捨てられたというゴーシュさん。売られた私。命を狙われているルーク。

 グリッドさんに救われたゴーシュさん。私とルークは魔獣の森の村の人たちに救われた。

 他の子たちは?どうやって生きていくの?

 孤児は教会にある孤児院で育てられる。

 魔欠落者の孤児は?

 悪魔の子だと言われる子たちは、信仰心の厚い教会の孤児院で育ててくれるの?

「逃げるよ。僕なら逃げる。騎士が探してるって知ったら、必死に逃げる」

 ルークがファーズの目を見た。

「何も悪いことしてないなら逃げる必要ないとか言わないよね?」

 ファーズさんが、ルークの言葉に息を止め、そして大きく息を吐きだした。

「ああ、そうだ。そうだな……すまん。いい、言わなくて。わかった」

 ファーズさんが頭を押さえる。

 何も悪いことしてないのに、魔欠落者というだけでひどい目にあってきた。

 この国の騎士たちは魔力が強いエリートたちだ。人一倍魔欠落者を馬鹿にしてきた。

 その騎士たちが魔欠落者を探しているなんていったら……。

 逃げる。

 うん、理由は分からなくても、必死で逃げる。

 逃げる理由は、魔欠落者だから。

 ぎゅっと両目をつぶる。怖い。奥底から恐怖が込み上げてきた。私は今、魔欠落者をさげすむような人が周りにいないから無事なだけ。だけど、世の中はまだ魔欠落者というだけでひどい言葉を平気でぶつける。

 言葉だけならまだいい。人として扱う必要がないと、唾を吐きかけ、石を投げつけ……家畜のように追い回し、捕まえ、労働させ、売る。

 父親に売られ、女将さんに殴られ、男に娼館に売られそうになり、殴りつけられ死にそうになっているのを放置された。そんな怖い思いを辛い思いをしている人たちが、今もたくさんいるという事実に、心臓が痛い。

 レイナさんやファーズさんが立ち上がり、この国を変えようとしてくれてる。でも、それはいつ達成できるかもわからない。それに……。

「ルーク、前に、ルークが言っていたでしょう?」

 ルークの手を握る。

 ぎゅっと震える手で握れば、ルークが力強く握り返してくれた。しばらくして手の震えは止まった。

「魔欠落者が幸せに暮らせる国を作りたいって……」

 私はその時、魔欠落者の私でも幸せに暮らせる場所を探すという気持ちだった。

 そして、今、手に入れた。魔獣の森の村……。

 あそこにいれば、私は幸せに暮らせる。

「ルーク、もし本当にそんな国が作れるのなら……」

 作れるのなら、作らなくちゃいけない。

 いいえ、作れなくても、作る努力をしなくちゃいけない。辛さも苦しさも恐怖も知っている私たちが。

 そして、幸運にも力を貸してくれる人たちがいる私たちが。

「作ろうルーク。ルークが作ろうとしてる国、私も一緒に作る。作らせて!」

 私に何ができるのかわからない。だけど、何もできないってことはないはずだ。

「うん。エイル、絶対に作ろう!いいや、作って見せる。そのために僕はガルパ王国で、レイナやファーズさんに鍛えてもらうのだから」

 ルークが私の手を両手で握りしめた。

 私も、その上にもう片方の手を置く。

「あー、ゴホン、その決意はいいんだが、ルークの国作りに協力も惜しまないんだが……ガルパ王国の改革にもな、力を貸してくれよ?」

 ファーズさんの言葉に、大きく頷いた。

「私にできることがあれば、何でも言ってください。今はまだ、国作りなんて何をすればいいのかわからないんです。えっと、だから……」

 そう、情けないことに国作りなんてどうしたらいいのかさっぱりわからない。戦争して他の国を手に入れればいいの?そんな途方もないことなどできるわけないし。

 あれ?もしかして、ブルーがいれば……。

 ううん、だめだめ。そんなことをしても、幸せに暮らせる国なんてできるわけない。

 魔欠落者との間に争い事が増えるだけだ。

「そうそう。エイルは今のうちに、ファーズにいっぱい恩を売っておけばいいんだよ。僕達が国を作るときに、倍にして返してもらえばいいんだから

 ルークが楽しそうに笑った。

「倍返し?うわー、お前たちに頼み事すると高くつきそうだなぁ」

 うわーと言いながらも、ファーズさんの表情は明るい。楽しそうな顔をしている。

 ……ルークとファーズさんの顔を見ていると、大丈夫。きっと、できるって……そんな気持ちになれた。

 

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