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人形

 ルークのように回復魔法をかけてあげられるわけじゃない。戦っている様子を見ていたってなんの役にも立たないけれど……。

 また、前のように魔獣の村のよう、魔物に人々が襲われることがあったら、目の前で命がけで戦っている人たちがいたら……。

 見たくないからと目をそらすわけにはいかない。きちんと両目を開いて、私にできることをしなくちゃいけない。

 ぎゅっとルークの手を握った。

「一緒に見よう」

 台の端の方に座って競技場に目を向ける。

「じゃぁ、エイル、頼むわ」

 え?

 ファーズが私の横に座り足元を指さす。足の下には小屋。

「この中に、頼んだアレ、一つ出してくれ」

「【取出】」

 言われるままに、取り出したけれど……まさか、試験って。

「イズル、いいぞ」

 ファーズさんの言葉にイズルさんがいつの間にか用意されていた銅鑼を二回打った。

 その合図とともに、競技場側の小屋の扉が開かれたようだ。

 ガサガサガサガサ。

 ものすごい音を立てて、アネクモが競技場に飛び出した。

「うわーっ」

「きゃーっ」

 競技場を見ていた採用試験受験者たちから悲鳴が上がる。

 中級モンスターであるアネクモの登場に「逃げろ」と逃げ出した人たちで競技場の周りは騒然としいた。

「【火】」

 流石にと言うべきか。騎士たちは悲鳴を上げることもなく、呪文を口にした。

「アネクモは火に弱いと習っただろう、皆、一斉に火だ」

 眼鏡の元騎士が声をあげた。

「【火】」

「【火】」

 次々に発せられる火魔法。しかし、アネクモの足は止まらず、むしろ火魔法を浴びせられたことに怒っているようで、一目散に騎士たちに向かって行った。

「くそっ、効かないぞ!」

「火力をあげろ!」

「【火】青炎」

「【火】火力最大」

 それぞれが威力をあげる。

 アネクモは火に包まれながら突進を続けた。

「だめだ、回避!」

 眼鏡の元騎士の声に、何名かの元騎士が回避行動をとった。また別の元騎士は魔法から剣に攻撃方法を切り替えた。

 振り下ろした剣が堅いアネクモにはじかれる。

「硬い、剣が通らない!」

 剣を向けられたことで、アネクモは足を止めた。

「今だ、関節だ、関節を狙え!」

 眼鏡の元騎士が指示を飛ばす。三〇名もいるはずなのに、アネクモに剣を向けているのは五名だけだ。

「くっ、ダメだ」

「何をしている、関節を狙えと言っている。お前とお前は特に火魔法が得意なようだから、顔を狙え!火魔法凝縮して顔だ!」

 眼鏡の元騎士が別の元騎士にも支持を出す。本人は距離を取ったまま戦わない。

 うーん、口ばかり。

「エイル、もう一匹だ」

 ファーズに言われ小屋の中にアネクモを【取出】。すぐに競技場に放たれた。

「わー!もう一匹現れたぞ!」

 戦っていた元騎士も魔法を放っていた者もパニックに陥った。それはそうだろう。1匹でも苦戦していたのにもう1匹現れたのでは。試験よりも自分の命の方が大事だ。

 今度はどんな支持を出すのかと、眼鏡の元騎士を見ていたら、近くにいた男を一人捕まえて走り出した。

 なんと、人形の元まで行くと、人形を男と二人で抱えて走り出した。競技場の出口まで。

「逃げた!」

 ドッと爆笑が起きる。

「騎士の名折れだ!」

 と、競技場を眺めていた騎士服の男が逃げ出した眼鏡の男に唾を吐きかけた。

「あいつは合格だな」

 ファーズが楽しそうに笑った。

 え?

「あの人が合格?戦わずに口だけで、最後は逃げ出したのに?」

「モンスターの弱点もよく知っていたし、初めに一斉に火魔法を打たせることで火魔法の得意な人間を見つけ出していた。その後の回避のタイミング、指示の出し方もなかなか。それに、なんといっても」

 なるほど。口だけと言っても、やっつけろとかいうあいまいな命令しかしなかったエヴァンスとは違うんだ。

 三十名で戦う上で、誰がどのような役割を果たせばよいのか的確に指示していたと……。なるほど。

「護衛対象を置いて逃げ出さなかった」

 人形を抱え息も絶え絶えに競技場を出た男。

 確かに。人形を守れと言われたんだ。逃げるなとは言われていない。どのような形でも守ればいいんだもんねぇ。

「まさか、抱えて逃げるなんて考えもつかなかったよ」

 ルークも楽しそうに笑った。

 競技場に視線を戻すと、剣を片手に奮闘している五名以外は人形を抱えて逃げた男の後を追って出口に向かっていた。

「あいつらはダメだ。仲間を置いて逃げ出すやつは必要ない」

 ファーズが苦虫をかみつぶしたような表情をする。

 うん。そうだね。試験とはいえ、まだ戦っている人に背を向けて逃げ出した。本物のモンスターがまだいるのに。

「【風】出た者に変わって二十五名入れ」

 イズルさんの言葉に、残りの騎士服の男たちは動かなかった。

 まだ、元騎士仲間が中にいるのに、誰一人として……!

「さてと、そろそろ助けに入るか……」

 ファーズさんが小屋の上から競技場に飛び降りた。

「隊長!じゃない、宰相、何考えてるんですかっ!」

「いや、ほら、護衛対象交代な。レイナ人形なくなっちまったから」

 あの人形はレイナ人形って言うんだ……。ちょっと微妙な出来だった……。


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