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グリッド商会の推薦状をもらう

 15歳前後の兄弟が何かを探していた。よかった、ルークを探している男たちじゃない。

 でも、森を抜けたすぐの町だ。いつ、あいつらが現れるかわからない。

 少しでも遠くへ行かなければ……。

「あの、パンありがとうございました。家族が心配するといけないので、もう行きます」

 おじさんにぺこりとお辞儀をする。

「家族、ああ、そうか。それはよかった……。でも、どこへ行くんだ?町の外は暗くて危ないぞ」

「森とは反対にある隣の町」

 名前も知らない。ただ、遠くへ行くには男たちがいた方と逆へ進めばいい。

「それなら、ゴーシュ、送っていってやりなさい。馬なら半刻の距離だ」

「いいんですか?ありがとうございます!」

 おじさんの申し出に素直に飛びつく。

「そうだ、これを渡しておこう。もし、いつか、魔欠落者だからと困ることがあったら、商業ギルドに行ってこれを見せるといい」

 手渡されたのは、大人の手の平程度の大きさの板だった。裏には焼き印。表には文字がかかれている。

「グリット商会、推薦状?」

 文字を読むと、おじさんの大きな手が、私の頭の上にのった。

「そうか、文字が読めるのか。よかったな。親に大事にされてるんだな。じゃぁ、元気でな」

 おじさんがほっとした顔を見せた。

 馬に乗ると、ゴーシュさんがポツリ、ポツリとおじさんの話を聞かせてくれた。

 グリットさんという名前だそうだ。グリット商会のオーナーのグリットさん。

 ゴーシュさんは、小さい頃から魔欠落者としてろくに食事も与えられずに育ったらしい。ある日親に山に捨てられたのを、グリッドさんに拾われ、今があるらしい。

「私は親に邪魔者として捨てられたけれど、お前たちは大切にされているんだな。文字を教えてもらえるなんて、普通の子でさえ稀なのに。よかったな。幸せになるんだぞ」


 ゴーシュさんは、次の町について私たちを下ろすとすぐに戻って行った。

 大切にしてくれた母様はもういない……。

 捨てられたゴーシュさん、命を狙われるルーク、そして売られた私。

「エイル、魔欠落者だからって、ひどい扱いをする人ばかりじゃないんだね」

 ルークも私と同じことを感じていたようだ。

「うん」

「グリットさんのお店で働けたら、幸せそう」

「うん」

「エイルは、雇ってもらえる」

 うん?

 ルークが、私の手を振り払った。

「僕は一人でも大丈夫。巻き込んでごめん」

 ルークが、私に背を向けて走り出した。

「待って、ルークっ!」

 小さなルークを一人にできないよっ!

「【収納】」

 ルークが見えなくなる前に呪文を唱える。

 あ、いけない、中には狼が!

「【取出】」

 すぐに目の前にルークを出す。そして、再び逃げられないように、ぎゅっと抱きしめた。

「一人に……しないで……」

 私の口から出た言葉は、“ルークを一人にできない”じゃなくて、“私を一人にしないで”だった。

 そうだ、私……。

 母様を失って、一人になって……。

 ルークの手が暖かくて……。

「私には……、ルークが必要だよ」

 守らなくちゃなんて言いながら、私は、ルークの存在に守られてる。

 魔欠落者だからって辛い目にあったけれど、でも、ルークのためにってそう思うことで、壊れそうな心を保ってる……。

「エイル?……。僕と一緒だと、逃げ回らないとだめ」

 ぎゅっ。

「私も、ここから逃げたい。私を売った父親がいる町から、出て行けと殴られた食堂のある町から、遠くに行きたい。ルークと二人、笑って暮らせる場所を探したい……」

「僕……エイルと一緒に幸せになれる国を作りたい……。グリッドさんみたいに、魔欠落者だからって差別しない人がいるって知った。ゴーシュさんみたいに、魔欠落者でも胸を張って生きて言ってもいいって知った……。そういう人たちでいっぱいの国、作りたい」

 国?

 ルークの言っている国っていうのは、私のいう場所みたいなものかな。

 私は探したいと思った。ルークは二人で笑って暮らせる場所を作りたいんだ。

 そっか。作る努力もいるね。

「じゃぁ、二人で一緒に、作ろう!」

 私の言葉に、ルークが頷いた。

 再び、力強く手を握り合う。


 さて、問題はこれからどうするかだ。

 一刻も早く遠くまで逃げたいのはやまやまだけど、夜道を進むのは危険だ。モンスターは夜の方が活発に活動する。もちろん野宿なんてとてもできない。

 街の中で明るくなるのを待つしかない。

「少しならお金があるから、宿を探そうか」

「僕……お金持ってない。ごめんなさい」

 普通の人は収納魔法を財布代わりに使うけれど、ルークは収納魔法が使えない。

 荷物を何も持っていないのだから、お金もないというのは分かっていた。気にしないでと頭をなでる。

 宿屋の看板を探すと、すぐに1階が食堂のような場所を見つけた。

 子供二人の客をとめてくれるだろうか。危険はないだろうか。中の様子を伺おうとして、話声が聞こえてきた。

「人を探してるんだ、泊まってないか」

 はっ。

 ルークの手をつかんで急いで遠ざかる。

 誰かを探している人間は、宿屋に聞き込みをするんだ。じゃぁ、子供だけで泊まったりしたら目立つ。

 ルークは女の子の恰好をしているからって油断はできない。髪型や目の色を問われたら、ルークの変装だってすぐにばれちゃうかもしれない。

「ルーク、宿はダメみたい……」

「教会は?孤児院、ある?」

 子供の私達が目立たない場所。

 なるほど。子供ばかりの孤児院か。一晩泊めてもらうことはできそうかな。

 教会の建物を探す。どの町もほぼ真ん中にあるのですぐに見つかった。

 中に入ろうとすると、声が漏れ聞こえる。

 興奮した声だ。

 人は、興奮すると風魔法で声を遠くまで漏らしてしまうことがある。

「お願いです!どうか、父さんに、回復魔法をかけてくださいっ!お金は、今はこれだけしかありませんが、きっと働いて持ってきますからっ!」

 牧師は、回復魔法の力が強い者がなる。医者の役目も果たすためだ。

「残念だけど、君のお父さんは私の回復魔法では、もう力になってあげられないんだ。このお金で、何かおいしい物でもお父さんに食べさせてあげなさい」

 声の主だろうか。同じ年、12、3歳くらいの少年が出てきた。背中には2歳くらいの子供を背負っている。そして、少年の服の裾を5歳くらいの女の子がつかんでいた。

「にーちゃ、お父さんどうなっちゃうの?お母さんみたいにいなくなっちゃうの?」

 少年が、妹をぎゅっと抱きしめた。

 その姿が、私達と重なる。

「兄ちゃんがいるから、大丈夫」

 大丈夫なわけはない。町一番の回復魔法の使い手である神父さんが力になれないということは……。つまりは……。それを少年も分かっているはずだ。

「ねぇルーク……」

 私が言おうとしたことは、すぐにルークに伝わったようだ。

 ルークが小さくうなずいたのを見てから少年に声をかけた。


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