騎士採用基準見直し
村を襲撃したエヴァンスやエヴァンスに従い積極的にレイナさんや私たちを傷つけた者は身分をはく奪し処分すると馬車の中で聞いた。
処分を受ける騎士ではない者にも何かペナルティでも課せられたの?
「陛下の方針です。魔力至上主義を脱却するための第一歩です。魔力の高さで採用されていた騎士の採用基準が見直されました。戦うことのできない騎士や兵を廃し、戦闘能力のある者を採用することになりす。そのため、実力試験を突破してもらわなければ採用されないようになりまして」
イズルさんの説明に、ルークがさげすんだ眼を騎士服の一団に向けた。
「あー、弱いから騎士をやめさせられたんだ、あいつら」
簡単に言えばそうだけど、ルークの言葉はきついね。
「っていうか、そもそもなんで騎士になれたの?」
イズルさんの説明によると、騎士になるためにはいくつかの条件を満たさないといけないらしい。
貴族の家柄。もしくは貴族による推薦のある者。
騎士養成学校で3年以上学ぶこと。
そして……。
「魔力の強い者……か」
ルークが鼻で笑った。
騎士の採用試験に落ちたという男たちは、とても鍛えている体つきには見えない。
服の上からでも、緩んだお腹や、細い腕が分かる。
条件を満たさないとなれないのではなく、条件さえ満たせばなれると言った方が正しいのかもしれない。
「くそっ、なんで俺たちが騎士をやめさせられなくちゃならないんだ」
悔しそうに唇をかんでいる騎士、いや元騎士が地面を蹴った。
「まったくだ!騎士学校にすら入学できなかった低魔力の兵が俺らの代わりに騎士とか、いったいこの国はどうなっちまうんだ!」
きっと、この人たちは今まで魔力が高いということで努力の必要もなく道が開かれていた人たちだろう。
「私は、騎士学校を主席魔法力で卒業したんだぞ!ふざけている!」
「出来損ないの魔力不足で傍系に養子に出した兄が騎士に取り立てられた。両親も陛下の方針に憤慨している」
ああそうか。首になった騎士の代わりは、すでに採用しているんだ。
流石に騎士は身元も定かじゃない者からは選べないから、ここに集まっているような庶民や貧しい服装の者は試験にも参加できないんだろうなぁ。
「陛下は、悪魔に見入れれちまったようだよ」
「魔欠落者の悪魔か……。おっと、かろうじて魔欠落者じゃなかったんだろう?だから護衛騎士に陛下もねじ込むことができたんだからな」
「はははっ、そうだった、そうだった。笑えるよなぁ。一滴しか出なくても水魔法が使えるとかいう主張。くくくっ」
「一滴じゃない、三滴だ」
背後から懐かしい声が聞こえる。
といっても、まだ一カ月もたってないんだけど。
「ファーズさん!」
振り返ると、初めて会った時と同じような冒険者のような服装をしたファーズさんがいた。ひげだけは綺麗になってるけれど。
「ああ、隊長、じゃない宰相、またそんな恰好して!もう宰相なんですから、きちんとした服装をしてくださいと……」
イズルさんが額を抑えた。
ああそうだ。ファーズさんは一国の宰相になったんだ。
「それに、何でここにいるんですか!」
イズルさんの言葉に、
「椅子に座って書類とにらめっこなどいつまでもしていられるかっ!」
と吐き捨てたファーズに、ルークがため息をついた。
「宰相の仕事をさぼってきたんだ。かわいそうなレイナ」
「ち、違うぞ、ルーク!国の存亡に関わる大切な兵の採用試験だから、書類仕事よりもずっと大切だろ?」
小さなルークに必死に言い訳する大きな体のファーズ。
「ものは言いようだね」
呆れた口調でルークがニヤリと笑う。
「エイル、あれは持ってきてくれたか?」
ファーズさんの問いにこくりと頷く。
「一応、頼まれた数は揃えました。でも、何に使うんですか?」
「ふっ。試験に使うのさ。さぁ、イズル始めてくれ」
ファーズさんに言われ、イズルさんが小さく頷いた。
「【風】下から」
イズルさんは風魔法の力を借りて、およそ2mほどある小屋の平らな屋根の上に飛び乗った。風魔法で飛び上がるのは赤毛の兵がしていた技だ。もうイズルさんも身につけたんだ、すごい。
急きょ作られたであろう木組みの小さな小屋。上がれば人々を見下ろせる。
「【風】これより兵の採用試験を行う。試験内容は、あちらの競技場で要人を見立てた人形を守ってもらう。どのような戦い方をしてもらってもよい。魔法も自由に使ってくれて構わない。武器はあちらから好きなものを選んでくれ」
その言葉に元騎士の一人がふっと笑った。
「武器も持たずに試験を受けに来た者に我らが負けるわけないだろう」
「そうだ、剣を持ったことのない者は、せいぜい自分を傷つけないようにすることだ」
さすがに元騎士たちは剣の基本は騎士学校で学んでいるらしく自信を見せた。
「試験は三十名ずつ行う。我こそはという者は、競技場に入ってくれ」
イズルさんの言葉が終わると、すぐに騎士たちが名乗りを上げた。
「まずは、我らから行かせてもらおう」
騎士服の男が三十名。競技場に入った。
中央にはドレスを着せられた人形が置かれている。
「この人形は陛下のつもりか?はっははは。本物よりも静かな分守りやすそうだな」
「いえるな」
「さて、何から守るんだ?山賊に扮した人間でも出てくるのか?」
元騎士たちは、さすがに今まで仕事として警護をしてきただけのことはある。警護対象である人形を前後左右すきのないように取り囲んで守りの体制に入った。
「さて、実力を見せてもらおうか」
すぐ目の前が簡単な柵で囲まれた競技場になっており、さえぎる人もいないのでこのままでも見える。だが、三十人の動きを見るには台の上の方が見やすいからかイズルさんをはじめ審査をする人間が五名ほど小屋の上に上がる。
「ほい、お前らも乗れ」
ファーズさんがルークと私を抱えて台の上に押し上げた。
「下でも見えるからいい」
ルークが降りようとしたら、イズルさんが耳元で囁いた。
「命にかかわらうような状態の人間がいたら助けてくれ」
「分かったよ。エイルはどうする?」
ルークが私の顔を覗き込んだ。
けが人が出るのを、見ていて平気なのかと気を使ってくれたのだろう。
「私……」