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ガルパ王国へ

 ガサガサという男たちが走り去った音が聞こえなくなるのを待って、フライパンを取り出し思い切り棒で叩く。

「すぐに行くよ、こちらが鐘を鳴らしたら、また音を出して」

 風魔法で、声が届いた。

 じっと息をひそめて待っていると、カーンカーンと先ほどよりも近くから鐘の音が聞こえてきた。

「ルーク、行こう!」

 フライパンを叩いてから、音のした方に向かって走る。

 早く合流しないと!

 ああ、こんな時に風魔法が使えたら、そうしたらすぐに騎士に助けを求められるのにっ!

 カーンカーン。

 もう一度聞こえた音に、今度はフライパンではなく声を出す。

「ここです!聞こえますか!」

 思い切り声を出すと、すぐに風魔法じゃない肉声が帰ってきた。

「お待たせいたしました!大丈夫ですか?」

 木々の間から、赤毛が見える。

 水色の隊服を身にまとった騎士は、ドミンガさんを探すために飛んでくれた青年だった。

「私とルークは大丈夫ですけど、大丈夫じゃないんです、助けてください!」

 赤い髪の騎士の後から、5人の騎士も姿を現す。どの顔にも見覚えがあった。

 あの時、村に来ていた騎士ばかりを選んで迎えによこしてくれたんだ。

「何があったんですか?」

「怪しい男たちが、子供を捕まえようとしていました」

 ちゃんと説明したいのに、気持ちばかりが焦ってうまく言葉が出てこない。

「風体や言葉遣いで判断するのは危険だと思うけど、盗賊とか無法者みたいな男たちが複数人、13歳くらいの男の子二人を追いかけていきました」

 赤髪の騎士の顔が青ざめる。

「無法者?」

「助けてあげてください。子供たちは、男達のことを山狩りだって言ってました」

 騎士は、後ろの仲間の顔を見る。

 どうしたらいいのか判断に迷っているようだ。

「まずは、任務の遂行……お二人を街に無事に連れて行くべきです」

 と、一人が口にする。

 任務……。

 まただ。また、私はわがままを言ってしまう……。

「お願いします、子供たちは、私とルークを無法者から守ってくれたんです。囮になって……私たちを守ってくれた……」

 赤髪の騎士は私の目を見た。

「森の中をやみくもに探してもこの人数では見つけられないでしょう。【風】山賊が出没したもよう。至急応援をたのむ」

 街に向かって風魔法で声を飛ばし、そして、森に向かって再び声を飛ばした。

「【風】子供たちに危害を加えようとしている者たちに次ぐ。すぐに山を下り森から立ち去れ。ガルパ王国第1警備隊隊長アマテが命ずる。森の中に残っている者は容赦なく捕縛し処罰する」

 へぇ、第1警備隊隊長なんだ。名前、初めて知った。アマテさんっていうのか。

 若いのに隊長ってすごいな。レイナさんが信用できる人材が少ないからなのかな……?それとも、ドミンガさん救出で活躍したから出世したのかな?

「僕は、人より風魔法の力が強いからね、森中に声は届いているはずだ。警備隊に逆らってまで子供を捕まえようとはしないはずだよ。もし捕まえられていたとしても、これから応援がきて森の中を探して助けるからね」

 アマテさんの手のひらが、私の頭をそっと撫でた。

「あ、ありがとうございます」

 アマテさんがしてくれたことは最善の策だろう。

 警備隊を迅速に動かしてくれた。そして、風魔法で男たちに警告してくれた。

 風魔法って……そういう使い方もあるんだ。すごいなぁ。私も、もっと収納魔法の使い方が他にできないか考えよう。

 あ、でもガルパ王国では表だって使っちゃだめなんだよね。普通の範囲を超えないように気をつけないと……。

「あの、一つお願いしてもいいですか?」

 アマテさんに風魔法で声を飛ばしてもらった。


 ……もう、自分に使えない魔法を誰かに代わりに使ってもらうことに戸惑わない。

 負い目を感じる必要はない。……。お礼を、感謝をすること、それが大切なことで。魔法以外だって人は助け合って生きているんだから。

 食事を作る、服を作る、家を建てる……どれもすべて一人でできることではない。

「【風】伝言、さっきは助けてくれてありがとう。私たちは無事に信頼できる大人と合流できました」

 私とルークの無事を、カインとハーグに伝えてもらう。

 自分たちが囮になってまでも、私とルークを助けようとしてくれた二人だ。きっとどうなったのだろうと気にしているはずだ。だから、無事だということを聞けば安心してくれるはず。

「アマテさん、ありがとうございます」

「いえ。お安い御用です。さぁ、行きましょう」

 ほら、アマテさんは風魔法も使えないのかなんて顔なんてしない。ありがとうと言えば、にこっと笑って答えてくれる。

 大丈夫。

 できないことをお願いする。何も悪いことなんてないんだ……。そう、代わりに……。私も、私ができることを誰かに返せば……。



 半刻ほどで魔獣の森を抜け、用意されていた馬車に乗り揺られ数刻。

 石造りの高い塀に囲まれた王都は遠くからでも見えた。王都の外にはなぜかすごい人だかりで、その中からイズルさんが姿を現した。

「いらっしゃい」

「イズルさん、お久しぶりです!」

 何千人もいそうな人々は、よく見ると「騎士服」に身を包んだ一団、いかにも庶民といった服装の一団、そして浮浪者のようにみすぼらしい服装の一団に分かれていた。男性が多いが、女や子供の姿も混じっている。

「あの、この人たちは?」

「ああ、兵の採用試験の参加者たちだよ」

 採用試験?

「それにしては、いろいろな人がいるんだね?とても戦えそうにない人もいるけど?それに騎士は何のために来てるの?特に優秀な人間をスカウトするため?それにしては人数が多いよね?100人はいるんじゃない?」

 ルークが矢継ぎ早にイズルさんに質問する。

 5歳にしか見えない容姿のルークが、年には似合わないようなことを口にしてもイズルさんは驚きもしなかった。あの魔獣の森の村での死線を超える特別な経験があったからなのか。

「いや。彼らは騎士の採用試験に落ちた者たちです。兵の採用試験に臨みます」

 イズルさんが声を潜めて答えてくれた。

「え?騎士だった者が騎士の採用試験に落ちたの?どういうこと?」

 ルークが首を傾げた。



お読みくださりありがとうございます。

長く間が空いてしまいました。申し訳ありません。

しばらくガルパ王国改革編です。よろしくお願いいたします。

皆様のおかげで第5回ネット小説大賞受賞し11月17日にMノベルス様より書籍化いたします。ありがとうございます。

詳細など活動報告に随時ご報告いたします。

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