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閑話

別のところに乗せていた閑話です。

腹が、減った。




 何日食べていないだろう。

 いや、かれこれ人の暦で言えば何か月食べていないだろうと言った方がよいか。

 人ならば、10日も食べなければ死ぬと聞く。

 我は、伝説のモンスターと呼ばれし我は……。


 死なない。


 1年や2年食べずとも死ぬことはない。ただ、恐ろしいほどの空腹感に襲われる。

 我の空腹感を満たすのは、モンスターだけだ。獣も人も植物も……何を口にしようが空腹感を満たせはしない。

 我が今の姿になってから何年たっただろうか。


 千と少しか。もっとか……。

 先代は四千年ほど生きた。短命だったらしい。

 我ら伝説となる者は1万年も2万年も生きられる。それが、たかが四千年で命が尽きたのだ。

 命が尽きると、魔力玉が飛び出し、かつて同族だったモンスターから次世代を選ぶ。

 選ばれたのが我だ。

 先代の記憶が、力とともに流れ込んできた。

 最後は随分格下と思われるモンスターにやられたようだ。

 見た記憶しか流れてこないため、先代の感情や状態までは分からない。

 あんな格下にやられて悔しかった感情まで流れてきたら、我はその種族を亡ぼしてしまっただろう。

 「勇者」とやらに命をとらせた、人間という種族を。

 だから、魔力玉は次世代には感情を見せないのだと、その時の我は信じて疑わなかった。


 我にもその「勇者」とやらを差し向けた愚かな国があった。

 もちろん、我を倒すことなど出来ぬと言うのに、しつこく何度も「勇者」を差し向けてくる。どうやら、先代を殺した「勇者」を輩出した国だったらしく、我を倒せると本気で思っていたようだ。

 先代が若き日に、いくつもの国を滅亡させたことを忘れてしまい「勇者」が勝利した記憶しかない愚かな国。

 城を潰してやれば、二度と勇者を派遣してくることはなくなった。


 ああ、それにしても腹が減った。

 小さなモンスターでいい。どこにいる……?

 我の力が強大すぎて、気を感じるとモンスターは逃げてしまう。

 逆に、モンスターどもの気は小さすぎて探すのは厄介だ。

 遠くへ逃げたモンスターどもを負い、微細な気を探り食す。

 少しは空腹は満たされるが、またすぐに空く。

 腹いっぱい食べられたのはいつのことか……。

 あれは、300年ほど前だったか……。同じく伝説と言われるドラゴンと死闘を繰り広げたときだ。勝敗が付く前に、奴は空を飛んで逃げて行き負った。卑怯な奴め。

 だが、逃げる際に奴は我の進路を阻むためにワイバーンを操って仕向けてきた。

 うむ。20匹近くのワイバーンはうまかった。

 

 だめだ。

 昔のことを思い出していたら余計に腹が減った。

 そろそろ、探すか。

 そうだな、海に向かって進めば、逃げようとする陸上モンスターは退路を断たれるか?我ながらよいアイデアだ。

 だが、勢い余って海に突っ込んだ時の恐怖心で尻尾が垂れた。

 ……うむ。海はやめておくか。


 のそりと立ち上がり、移動を開始する。

 すごいスピードで移動すれば、逃げ遅れたモンスターを口に入れることもできる。

 だが、早すぎては微弱なモンスターの気に気が付かずに通りすぎてしまうこともある。スピード調整が難しい。

 何とか、もっと効率的な狩りの方法はないだろうか……。


 血の匂いだ。

 人の血の匂いがする。

 人を好んで食すモンスターが、血の臭いに誘われて集まっているかもしれない。

 低能な奴らは、食事中、我の気に気がつかずに逃げ遅れるやつもいる。

 人の血の匂いなど四六時中するが、街には我は近づかないことにしている。

 また、勇者がどうのとめんどくさいことが起きるからな。

 どこだ、血の匂い。

 しめしめ、森の中から匂ってくるようだ。

 ふむ、子供が二人。

 小さい子供が必死に血の臭いにつられたモンスターと戦っている。

 ぱくり、ぱくり。子供が木で飛ばしたスライムを口に入れる。

 うまい。

 さぁ、もっとこっちに飛ばせ。

「うわぁっ!」

 おっとしまった。

 子供に気が付かれた。ちょっとガツガツして近づきすぎたか。

 ん?

 倒れている大きい方の子供、血の匂いはするけれど、もう血は止まっているのか。

 大きい方の子供の目が開いて、我を見た。

 小さな声で、子供が何か言うと、我の世界は一遍した。


書籍化を控え念のために念のため重複投稿をやめました。

重複投稿していた場所では閑話も載せておりましたが、載せる場所がなくなったのでこちらに移動させました。

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