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カインとハーグと男たち

 身を潜めていた場所に近づく足音。草木をかき分ける音がすぐ耳元まで聞こえる。

「子供か……」

 子供かとつぶやいた声の主も、子供だった。

 私やルークよりは年上。だが、14,5歳といったところだろう。黒髪に浅黒い肌の少年だ。

「本当だ、子供だ」

 少年の背からひょっこりと顔を出して私たちの姿を確認した人間も、また子供だった。

 12,3歳だろうか。赤毛にそばかすの男の子だ。

「なぜ、こんなところに子供が……」

 と、私の気持ちを代弁したかのように、赤毛の男の子が口を開いた。

「迷子?」

 赤毛の男の子の言葉に、年かさの少年が困った顔を見せた。

「迷子が、隠れると思うか?助けてくれと言うだろう?」

「ああ、そうだね……じゃぁ、やっぱり……」

 赤毛の男の子が、しゃがみ込む私たち二人を立たせようと、手を差し伸べてきた。

 ……目の前の少年たちに、敵意は感じられない。素直に伸ばされた手を取って立ち上がる。

「ねぇ、君たち魔欠落者でしょう?」

 少年の言葉に、思わずぎくりと体を固くする。

 初対面の子供に、なぜ分かるんだろう。

「ああ、手が震えてる。やっぱりそうだよ、カイン兄貴」

 繋がれた手から、私の動揺が伝わってしまったらしい。今更否定しても信じてはもらえなさそうだ。

 カイン兄貴と呼ばれた黒髪の少年が、にっこり笑って、私とルークの頭を撫でた。

「大丈夫だよ。警戒しないでくれ。ハーグも、いきなりじゃ驚かせるだろう?魔欠落者だと指摘されることがどれほど恐怖なのか……」

 ハーグと呼ばれた赤毛の男の子が小さな声でごめんと口にした。

 魔欠落者に対しても、気を使ってくれるなんて、悪い人たちではなさそう。

 だけど、この二人も子供なのに、どうして森の中に?いくらあまりモンスターが出ない森の浅い場所といえども、子供だけでは危険な場所だ。

 カーンカーンと、再び合図の鐘の音が聞こえてきた。

 ああ、こちらからも合図を送って合流しないと……。

「また、鐘だ!いったいなんだ?」

 鐘の音を聞いて、ハーグの顔色が変わる。

「新手にの山狩りか?とにかく、逃げよう」

 黒髪のカインがルークを抱きかかえた。

 それから、私はハーグに手を引かれる。

 え?

 何?

 カインとハーグが走り出し、手を引かれた私もそれについて駆け出した。

「あの、私たち、」

 訳が分からない。だけれど、少なくともあの鐘の音から逃げる必要がないことだけを説明しなければと思って走りながらも言葉を発する。

「大丈夫だから。山狩りなんていつものことだ」

 山狩り?

 いつものこと?

「カイン兄貴!あそこっ!」

 ハーグの言葉に、カインは足を止めてしゃがみ込んだ。ハーグは私にもしゃがむように肩を押す。

 木々の隙間から様子をうかがっている。遠くに、あまり真っ当な仕事をしているようには見えない男の姿が数人見えた。

「ったく、ガキはどこに隠れてるんだ」

 興奮した男の声が無意識の風魔法に乗って聞こえてきた。

 ガキ?

 ルークの顔をとっさに見る。

 まさか、ルークを始末しようとしている男たちがこんなところにまで?

 男たちがキョロキョロしながらこちらに向かって足を進めだした。

「ちっ、このままじゃ見つかる……」

 カインがハーグの顔を見た。

「あとは、頼んだぞ。いいか、姿が見えなくなってもすぐには出てきちゃだめだぞ。しばらくはじっとして、奴らが戻ってこないのを確かめてから動くんだ」

「カイン兄貴……」

 ハーグが悲壮感漂う表情をする。

「大丈夫だ」

 カインは、対照的に笑顔を見せた。……安心させるために笑っているというのは、すぐに分かった。

 音を立てないように注意して、カインは私たちから距離をとり、それからおもむろに走り出した。

「あっ、いたぞ!」

「追え!捕まえろ!」

 囮だ。私たちを助けるために囮になったんだ!

「お前らはそのあたりを探せ。まだほかにもガキが隠れているかもしれない」

 !

 何てこと!

 複数いた男たち全員がカイルを追ったわけじゃないんだ。どうしよう……。

 カイルやハーグが追われるような悪いことをしているとは思えない。だったら、助けたい。青い狼……ブルーに助けてもらう?

 でも、ブルーの存在を隠すために街まで乗せて行ってもらわなかったのに。

 ここでブルーを出したら……。

 森の中のモンスターたちが街に逃げて行ったらパニックになってしまうかもしれない。

 どうしよう……。

 ふいに、ハーグの手が私とルークの肩をポンポンと叩いた。

「兄貴ィー、一人で置いてかないでくれ~」

 ハーグが立ち上がって、カイルが走っていった方向に向かって駆け出した。

「ほら見ろ、もう一匹ガキが見つかった。追え!」

 ハーグも私達を逃がそうと囮になってくれたのだ。

 一人で置いてかないでと、弱音を吐くふりをして……もう他に人がいないという偽装までして……。

 ああ!

 男たちが悪人だと決めつけるのは良くないけど。でも子供をガキと呼び、逃げて行くのを追いかけている。

 追いかけられた子供は、自分よりも年少者を守ろうと身を犠牲にする……。しかも……。私たちが魔欠落者だと知っているのに……。

 カーンと、また合図の鐘の音が聞こえてきた。

 はっ!

 そうだ!


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