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ブルー

『ヌシ、まだ森の中だ』

「うん。でも、ほら、鐘の音が聞こえるでしょ?近くに迎えが来ているはずだから、ここまででいいの。乗せてくれてありがとう」

 村を出て、ガルパ王国へ旅立って、ほんの半刻。

 私やルークが歩けば2日はかかる道のりを、青い狼さんはわずか半刻で駆け抜けた。

『本当に、大丈夫なのか?森のはずれとはいえモンスターは出るぞ』

「大丈夫だよ。出ても弱いモンスターばかりだと思うし、それに……。モンスターが出てくれないと、お腹が空くでしょう?えっと、青い狼さんにお腹いっぱいになってほしいから」

 にこっと笑うと、ゆらりと青い狼さんの尻尾が揺れた。

『わ、我は……。ヌシの身がし…ぱ…』

 小さな声で何かつぶやいていたけれど、よく聞こえない。声を拾おうと、耳を青い狼さんに向けると、突然音量が上がった。

『ヌシ、我を狼と一緒にするな』

 あっ。

「ご、ごめんなさい。あの、名前、知らなくて……なんて呼べばいいの?」

 そうだった。確か、前に狼とは違うみたいなこと言っていたんだ。それなのに、私ったらうっかりと……。青い狼さんなんて呼んじゃった。

「彼は、フェン……」

 ルークが、慌てて私に青い狼さんの名前を教えてくれようとする。名前?それとも単なるモンスターの種類?

『名はない』

 ルークの言葉が終わる前に、青い狼さんの言葉がかぶさった。

「名前が、ないの?……えっと、そうか。スライムにも角兎にも、名前がないもんね」

『あんな下等生物と一緒にするな』

「ご、ごめんなさいっ……で、でも、じゃぁなんと呼べば?」

 スライムをスライムと呼ぶのって、犬をイヌって呼ぶ、人間をニンゲンって呼ぶみたいなものだよね……。

 じゃぁ、青い狼のモンスターさんんも種類で呼ぶのって失礼だよね?どう考えても……。

「名前がないなら、えっと、愛称はありませんか?」

『愛称?伝説のモンスターだとか、破壊魔王だとか、そういうことか?』

 あ……。

 慌てて首を横にふる。

「ち、違うの、とっても綺麗な青い毛並みだから、ブルーとか、とっても強いからキングとか……」

『ふっ』

 青い狼さんが鼻息を吐きだして大きく頭を振った。

『先代たちの記憶をたどっても、我を綺麗だと言ったのはヌシが初めてだ』

 先代たちの記憶をたどる?

『気に入った。我のことはブルーと呼ぶがいい』

 青い狼さん……ううん、ブルーさんの目がまっすぐと私の顔を見た。

「ブルー……さん?」

 にぃっと口の端が上がり、するどい歯が見える。

『さんはいらぬ。ヌシ、街まで送る。我の食事は今は必要ない』

「本当に、ここで大丈夫だよ」

 チラリとルークの顔を見ると、困ったような顔をしていた。

 街に、青い……ブルーが近づくと、逃げ惑ったモンスターが街にあふれ出るのではないかとファーズさんが言っていた。

 だから、街からある程度距離があるけれど、低級モンスターしか出ないような比較的安全な場所からは、騎士たちと一緒に森を抜けることにしたのだ。

 合図となるのは鐘の音だ。鐘の音が聞こえる場所に着たら、ブルーを収納して、こちらも鐘を叩く。その音で、騎士たちが迎えに来てくれることになっている。

 それから、ブルーと私の関係は、なるべく知られないようにと言われている。

 あくまでも、少し大きな収納魔法持ちということで通すほうが良いと……。確かに、強いモンスターとはいえ、私を殺せば一緒に殺せるわけだから……。ブルーを守るためにも、私の収納魔法にブルーがいることはあまり知られない方がいいだろう。

 だから、騎士たちと落ち合う前にブルーを収納しないといけない。

『では、騎士たちが来るまで我はここに居よう』

 ブルーが私の身を心配してくれるのはすごくうれしい。

 でも、えーっと、どうしよう……。

「あ、来たみたいだよ!」

 ルークの声に耳を澄ませば、ガサガサと音が聞こえた。

『確かに、人間が近くにいるようだな』

「ブルー、ありがとう」

 ぺこりと頭を下げる。

 それから、急いで【収納】と呪文を唱えた。

 木々に隠れてまだ人からブルーの姿が見えてないよね?

「あ、そうだ【取出】」

 合図に鳴らすようにと持って来た鐘を取り出す。鐘といっても、鍋で急遽作ったものだ。棒で叩くのだ。いい音は出ないけれど、なかなか大きな音は出るから、場所を知らせるには問題ない。

「ルーク、耳をふさいでいて」

「待って、エイル!」

 え?

「まだ合図の鐘……鍋を鳴らしてないのに、なぜ場所が分かったんだろう?」

「どういうこと?近づいてるっていうのは、その、ブルーを収納するための話じゃなくて、本当に近くにいるの?」

「しっ」

 ルークが焦ったように指に手を当てた。

 黙ると、確かに時折人の話し声のようなものが聞こえる。

「合図の鐘を鳴らしていない」

 はっ。

 言われて見ればそうだ。

 時々聞こえる鐘の音はまだ遠くから聞こえるばかりだ。話声が聞こえるような距離まで近づいてはいない。

「もしかして、別の人たち?」

 ひそひそと声を潜めてルークと会話をする。

「たぶんそうだ。ひとまず、身を隠そう」

 ルークに言われて、身を潜められそうな場所を急いで探す。私もルークも子供でまだ体が小さいから、しゃがんで丸くなれば草の生い茂った場所にすっぽり隠れることはできる。

「あっ!しゅ、【収納っ】」

 ただし、身を隠すことができる場所には、別の何かが隠れていることもあって、何匹ものスライムがいたので、思わず声が出てしまった。

「誰だ!」

 ……ごめんなさい、ルーク……。隠れるどころか、見つかったみたい……。


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