新しい王
その日は、村の男の人たちが交代で見張りをし、女生と子供は村長の家で固まって寝た。
皆、疲れていたのか夕飯のあとすぐに眠った。
「あ、滝が!」
「本当だ!滝が復活している!」
朝起きて、村人たちが一番に確かめたのは滝だった。
「本当だ、いつの間に……?」
驚いている私の横に、レイナさんが立った。
「夜を徹して作業にあたらせたわ」
といって、指さす先に騎士たちがいた。皆、ぐったりとしている。
あの騒ぎの後、ほとんど休憩も取らずに徹夜で作業したのか。大変だったよね。
あれ?
「もしかして、川をふさいでいる物を、私が収納魔法でどかせばよかったんじゃ?」
人がどかせるサイズなら、問題なく収納魔法で移動させられるはずだ。
ボロボロになっている騎士たち見て、申し訳ないという気持ちが顔に出ていたようだ。
「そんな顔する必要はない。あいつらがしでかしたことだ。自分たちで始末をつけるのは当たり前だ」
ファーズさんがやってきて頭を撫でてくれた。
ファーズさんも、騎士たちと同じようにボロボロになってる。手伝ったんだ。それとも見張り役?指揮役?
「一番の原因に働かせられなかったのは残念だがな」
一番の原因?
……あ!
「【取出】」
縛られた男2人を取り出す。入れたままだった。
宰相と、私を殺そうとした騎士。
縛られたまま地面に座り込む二人。
「謝りなさい。皆に【回復】喉」
レイナさんが、村人たちに謝るために、宰相たちの喉を回復した。
だが、宰相から出た言葉は謝罪の言葉でなかった。
「私にこんなことをしてただで済むと思っているのか!今すぐこの縄をほどけ!」
宰相の言葉が終わると、シーンと静まり返った。
村人たちは、はなから宰相の謝罪など求めていないのか、呆れたように自分たちの作業に戻っていった。
部下であろう騎士たちさえ、冷めた目で宰相を見ているだけだ。
「宰相、逆らえば、あのモンスターに。ここは、謝った方が……」
縛られた騎士が小声で宰相に耳打ちする。
「はっ。私はガルパ国宰相だぞ!私に手をかけたらどうなるか分かっているのか!国が黙っていない。いくら強いモンスターだからと、我が国の軍相手にどこまで戦えると思っている!」
金切り声にも近い声で言葉を続ける宰相。
もう、青い狼さんにおびえて口をつぐもうとはしない。
「そうだ、今度はそれっぽちの騎士じゃない。軍を引き連れてきてやる。お前ら皆殺しだ!いいや、国内にいる魔欠落者共も皆殺しにしてやる!新法だ!新法制定だ!」
魔欠落者を皆殺しに?
「エヴァンス……あなたは国に帰ればただの犯罪者です。もう、宰相ではいられません。家も取り潰しになるでしょう」
レイナさんが冷たい声で宰相に告げた。
「は?何を言っている!私は王に任命された宰相だ!いくら王女とはいえ、私の進退を決定する権利などない!【火】」
火魔法で縄を焼き切った宰相が、レイナさんにつかみかかろうとしたところを、、騎士が止めた。
あの、飛んでくれた茶髪の騎士だ。真っ先に宰相の肩をつかんだ。そこに別の騎士も来て、三人で宰相を押さえつけている。
「話せ!どういうつもりだ!私の命令に逆らう気か!ああ、王女に気を使っているのか?構わん、国を捨てたというのなら、ガルパ王国と無縁の女だ。私の妻にしてやろうと思ったが、もう必要ない!あの失礼な女を拘束しろっ!」
唾を四方に飛ばしながら、宰相が叫び続ける。
誰も、宰相の命で動く騎士はいない。
「エヴァンス、何か忘れていませんか?私はすでに成人しています。我が国では、成人した王族で一番魔力が強い者が望めば王になれます。父より、私、魔力が大きいのはどちらだったかしら?」
レイナさんの言葉に、宰相が息をのんだ。
「【風】宣誓、私は王座を望みます。今この瞬間からガルパ王国国王は、私、レイナ・ディルト・ガルパ」
「魔力が強い成人した王族はこんなに簡単に王になれるというのか……魔力至上主義もここまでだったとは……」
ルークが、驚いた顔でレイナさんの様子を見ていた。
「宣誓した言葉は、各地に配置された人間が風魔法でつないで王都まで声を届けるんだよ。そして国中に声が広がる」
ファーズがこそっと教えてくれた。
「【風】宣誓、ガルパ王国、国王として命ずる。罪人となったエヴァンスに代わり、新しい宰相にファーズを。親衛隊隊長にイズル」
レイナさんが再び宣誓した内容に、ファーズさんとイズルさんがびっくりしていた。
「ちょっ、レイナ!聞いてない!っていうか、無理だ、俺が宰相とか、絶対に無理だ、考え直してくれ!というか、やらない、やらないぞっ!俺には、そう、荷運びの仕事があるんだ!この村に荷物を届けると言う大切な役目が!」
ファーズがレイナさんに猛烈に抗議している。
「そ、そうですよ、ファーズ隊長に宰相なんて務まるはずがありませんっ!」
なぜかイズルさんがファーズの援護射撃をしている。
「だから、ファーズを親衛隊長にした方がいいですよっ!」
そういうことか。イズルさんは親衛隊長という役割をファーズに押し付けたかったんだ。
「くそっ!くそっ!【火】燃えろ、燃えろ、皆、燃えてしまえ!」
自棄になった元宰相が放った火魔法を、ドミンガが水魔法で一瞬にして消し去った。
エヴァンスは再び縄で拘束され、呪文を唱えられないように喉を潰された。
ファーズは、騎士たちの中から何人か指名して親衛隊隊員としてイズルの下に就くようにと命じていた。その中には茶髪の騎士もいた。
ファーズも嫌だと言いながらも分かっていたのだ。
レイナにはまだ信用できる人間が少ないと。




