片づけ
小屋の外が次第に静かになっていく。溢れていたモンスターの数が減ったようだ。
再び、ドスンと音がする。
『はー、食った。久しぶりだ。これほど満腹になるほど食ったのは』
青い狼さんの言葉が聞こえたので、窓から外を見ると、あれほどいたモンスターが探さないと見つけられないくらいまで減っている。
「助けてくれて、ありがとう!」
早くお礼が言いたくて、小屋を飛び出して青い狼さんの前足にしがみついた。
『助けたわけではない。ヌシがいないと我が困るだけだ』
「うん、それでも、私は嬉しいし、お礼が言いたいの」
きゅっと、しがみつく手に力を入れた。
「村を助けてくれて感謝いたします」
そこに、レイナさんがやってきて頭を下げた。
その隣には、ファーズさんとシュナイダーさんもやってきて、頭を下げる。
「ありがとうございます。感謝してもしきれません。この恩にどう報いればよいのか……」
シュナイダーさんの言葉に、青い狼さんの前足がピクリと動いた。
『お前らはヌシを守ったであろう』
青い狼さんの言葉に、ファーズが答える。
「それは、当たり前のすべきことで、それこそお礼を言われるようなことではありません。それなのに、こうしてバジリスクの素材まで分け与えてくださる……。バジリスクの血から作られる薬は人間にとってどれほどの価値があるのか。この羽根もくちばしも、伝説級モンスターの素材はどれも価値が高い」
『我は羽根やくちばしなど食べても旨くないから興味がないだけだ。肉だけあればいい。血抜きや皮をはいだ状態の方が肉を旨く食べられるからな』
バジリスクの血は薬になるんだ。
他の素材も価値があるって何に使うのかな?
そういえば、収納魔法の中で青い狼さんが食べたモンスターの素材が残っていると言っていたけれど、何かの薬になったり、役にたつものがあるってことかな?
あとでファーズさんに聞いてみよう。
『腹が膨れたので、我は寝る。ヌシ、収納してくれ』
「え?あ、はいっ!」
収納って、えっと、中には村人がいるから……。
「あの、村の人たち……」
私の疑問にレイナさんが答えてくれる。
「これだけモンスターが減ればもう大丈夫よ。ありがとうエイル」
そっか。もう大丈夫なんだ。よかった。
「【取出】【収納】」
村の人たちを取出して、すぐに青いモンスターさんを収納した。
青い狼さんは強くて、短時間でバジリスクを倒しちゃったけれどそれでもきっと疲れたはずだ。早く休ませてあげたかった。
「え?あれ?村」
「俺たち助かったのか?」
村人たちは、きょろきょろとしてお互いに無事だったことを喜び合い、そしてすぐに働きだした。
バジリスクにおびえて逃げ出したモンスターたちは、やみくもに駆け抜けたため、家々にぶつかり破壊していた。
いろいろなものも散乱している。
それを、手分けしててきぱきと片づけていく人。
食料を見つけて、皆の料理を始める人。
あれだけ大変な目にあったというのに、皆の表情は明るい。
「なんで、こんな大変な目に合ったのに……悲しそうな顔をしていないんだろう」
ぼそりとつぶやくと、それを聞き取った女性が笑った。
「ん?ああ、大変なうちに入らないよ。この村に来るまでのことを考えたらね、どってことない」
この村に来るまでのこと……?
「そうだねぇ。村に来てから、ここまで家や食べ物をそろえられるまでに比べても、大したことないな」
と、隣でかたずけをしていた人も相槌をうった。
「こうして、皆が生きていられたんだ。何も悲しくないさ」
ふと、まじめな顔になって、恰幅の良いおばさんが頭を撫でてくれた。
「エイルちゃんも魔欠落者だったんだね。おばさんもそうなんだよ。人より少し大きな光魔法と、小さな風と火だけ。回復と水と収納魔法が欠落した中度魔欠落者さ。だから、住んでた村でこんなこと……魔物が襲ってきたり、災害が起きたりすると石を投げつけられたもんだよ」
え?
石を投げつけられる?
「魔欠落者がいるから、こんな目に合ったんだって……」
「そんな……」
「うん、今なら分かるんだよ。彼らはひどい目にあった怒りの矛先として、魔欠落者に八つ当たりしていただけなんだって。だけど、当時は悪魔に魅入られた魔欠落者の私のせいで、村をひどい目に合わせちゃったって本気で信じていたんだよ。だから、石を投げられても仕方がないと思っていた」
……。
分かる。
私も、魔欠落者だから仕方がないって何度も思っていた。
本当に悪魔に魅入られた人間なんだって思ったことも……。
「でもさ、違うって分かった。この村では、誰も私に石を投げたりしない。災害が起きれば、すぐにこうして、皆で助け合うだろう?」
「そうそう、誰の家だとか持ち物だとか関係なく働く。目が見えない、足が動かない、役立たずだからといって見捨てる人間もいない。魔欠落者のせいだという罵声も飛ばない。それがね、どれだけ幸せで嬉しいことなのか、皆分かってるんだ。だから、誰も死ななかったんだから、悲しい顔する人なんていないのさ」
そうか。
私がこの村で感じた温かさを……。
他のみんなも感じたんだ……。
「わ、私、わたし……」
この村が大好きで、ずっとこの村に居たい。
私もみんなのように、優しくて温かい人になりたい。
「エイル、ちょっといいかな……」
声をかけられて振り返ると、ルークが立っていた。
「どうしたの、ルーク?」
「ちょっと収納してくれないかな……、彼と話がしたいんだ」
彼?
あ、青い狼のモンスターさんのことよね?
「何の話をするの?」
ルークが固い表情をしていたので、気になって尋ねてみる。
ルークは、すぐには答えず、口を一度開きかけて閉じた。足元に視線を落としてから、にこっと笑って私の顔を見る。
「お礼を言いたいんだ。あ、あと、バジリスクと戦って怪我をしていたら回復魔法で治してあげたい」
「そ、そうよね!私は気が利かないね。怪我してるかもしれないよね……うん、そうだ。疲れも取ってあげられるんだよね。ルーク、お願いね【収納】」
ルークの固かった表情は気になるけれど、青い狼さんを治したいといいながらも会うのがちょっと怖いのかもしれない。
と、その時の私は考えていた。
本日遅くなりました。
アルファポリスに魔法設定あげました。