表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/128

飛べ

 いやだ、諦めたくないっ!

「【風】『イズル、ドミンガ聞こえたら返事を!どこにいるの?』」

 レイナさんもまだあきらめられないのか、必死に魔法で声を送る。だけれど、返事は帰ってこない。

 ファーズさんだって……、私よりずっと長く一緒にいるイズルさんやドミンガさんを助けに行きたいはずだ。

 でも……。誰かを助けたいからと、そのために他の誰かを犠牲にするわけにはいかないと言うのも分かる。

 でも、私には……そのことを受け入れられるだけの気持ちがついていかなくて、ダメだって分かってるのに、困らせるだけだって分かってるのに……。

「やだっ!助けたいっ!姿が、指の先だけでも見えれば、収納できるのにっ!」

 思わず叫んでしまった。

「エイルちゃん……、声が、返ってこないのよ……」

 レイナさんが、ぐっと歯を食いしばって首を横にふった。さっきから、ずっとレイナさんは風魔法で二人に呼びかけている。それなのに、返事がない……魔力が切れているのか、意識を失っているのか……それとも……。

 想像したくない想像に、両目を固く閉じた。

「安全な場所に」

 ファーズさんの言葉を遮る声が響く。

「飛びます、その前に、私が……」

 飛ぶ?

 さっき心の内を吐露した茶色い髪の騎士が、胸元から薄手の布を取り出した。

「頼む、視界を遮る障害物より上に飛び上がれば、探せるかもしれない」

 騎士が差し出した布を、3人の騎士が手に取り広げた。

「そこまでしてやる必要があるのか?その技はやたらと使うものじゃ」

 と、騎士の一人が布を広げ持っている一人の腕を取って止めようとする。

「先輩が皆のために最前線へ行って危険に陥っても、助けるなということですか?」

「そういうことじゃない、我らとは違うだろう」

 言葉を濁した先輩とやらに、茶髪の騎士が嘲笑を向けた。

「確かに違いますね。すべての人を助けようとする彼らと、選民意識を持って魔欠落者など助ける価値もないと考える先輩とは」

 布の中央で、騎士が飛び跳ね始める。その動きに合わせて、布を持った騎士が布を上下させると、騎士の飛び上がる高さがぐんぐん上がっていった。

「あの布はアネクモの糸で作ってある丈夫なものだ。曲芸などで、高くジャンプして回転したりするのを見たことがないか?軍では、それを応用して高く飛び上がることで、遠くの敵の様子を探ることに使い始めたんだよ」

 と、ファーズが迫りくるモンスターを倒しながら説明してくれた。

 すでに、人の背丈の3倍は高く飛び上がっている。

「【風】」

 ひゅんっと、下から突き上げるような風に乗って、さらに高さを増していく。

 すごい。本当に飛んでいるようだ。

「もっと、高く【風】」

 何度も飛び上がる。その視線は遠くを、滝の方を見てイズルさんたちの姿を探している。

「危ないっ!」

 高く上がりすぎた騎士が、着地地点となる布の上から大きくそれた。このままでは地面に激突する。

「【風】方向補正」

 間一髪、横風が、騎士の地面への落下を阻止した。

「何万本と矢の方向を魔法で調整してきたんだ、軌道修正は任せて飛べ!」

 シュナイダーさんの言葉に、再び騎士は高く何度も飛び上がった。魔力切れを起こせばルークが回復魔法をかけている。その間にも、モンスターの襲撃は続き、ファーズさんやレイナさんや他の騎士たちは戦い続けている。

 体力的な疲弊はルークの回復魔法で回復する。だが、精神的な疲弊は徐々に積もっていく。もう、やれるだけのことはやったよって、諦めようって誰も言わない。……私が、私の気が済むのを待ってくれてるのかもしれない。……だって、私が嫌だって言ったから……。

 私が、言わなくちゃ……。もう、いいよって……。

 指先が小刻みに震えだした。

 怖い、辛い、苦しい。はぁ、声が詰まってうまく言葉が出てこない。でも、言わなくちゃならない……。イズルさん、ドミンガさん……リーアさんごめん……。

「いた!見つけた!」

 その時だ、茶髪の騎士から声が上がった。

 何度も飛び上がっていた騎士が、飛ぶのをやめて布を降りる。

 ハッと、喜びの声が上がることはない。見つけたと言っても……。

「無事なの?」

 聞きにくい言葉をレイナさんが口にした。

「わかりません。滝つぼとなっていた水面にあおむけで二人は浮かんでいます」

 水面に浮かんで……?

「陸上モンスターのほとんどは水を嫌う。それを知って逃げたのか、それとも……」

 それともの先なんてどうでもいい。姿が見えるなら、収納するだけ!

「お願いします、私を飛ばせてください。滝つぼが見える高さまで!」

 私の言葉に、茶髪の騎士がうなづいた。

 騎士の背中に負ぶわれ、紐でくくられる。びょん、びょんと飛び上がる。

 怖い!目をつむってしまいそうになるのを必死に抑え、滝の方をしっかりと見る。

 あれか!見えた!

「【収納】【取出】」

 二人を収納すると、布に着地するよりも早くに二人をファーズさんの足元に取出する。

「【回復】」

 ほぼ同時にルークが呪文を唱え、レイナさんが二人の息を確かめた。

「無事よ!」

 やったぁ!

 うわぁっと、その瞬間、皆に蓄積していた精神的疲労が吹き飛んだように見えた。こうしてモンスターに囲まれていなければ、万歳して喜びを分かち合っていただろう。

「さぁ、撤収よ!」

 レイナさんの言葉に、再び二人を収納する。

 茶色い髪の騎士の背中から降りるとき

「ありがとう」

 とお礼を言った。

「僕の方こそありがとう」

 え?

 なんで、私がお礼を言われるの?

 再びファーズの背負う背負子に乗り、安全な場所へ移動する。

 結局、一番安全なのはやはり村長の小屋ということになった。地面から現れるモグラ型モンスター対策として、先ほど騎士が使った布を床に引くことで防ぐ。

 それから、半刻もしない間にドシンと、小屋の外で大きな音がした。

「おい、人間、主を守ってくれた礼だ。必要な素材があるなら持っていけ」

 青い狼さんの声だ!

 よかった!無事に戻ってきてくれた!

 嬉しくて小屋の外を窓からのぞいた。

 そこには、青い狼さんの10倍もあろうかという大きな蛇と鶏を足したようなモンスターの亡骸が転がっていた。

 小屋よりも大きいように見える。

「すごい、こんなに大きな相手を倒せるなんて、強いんだね……」

「我の相手ではない」

 強いと言われて嬉しそうに少しだけ尻尾を揺らしてから

「主をもうしばらく頼むぞ。我は食事を続ける」

 と、村にあふれたモンスターを食べ始めた。


ご覧いただきありがとうございます。

残り後日談で第一章終了でございますが、体調不良のため定期更新が崩れるかもしれません。申し訳ありません。

ブクマ、感想、評価、とても励みになります。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ