表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/128

気持ちの変化

 滝に視線を向ければ、すでに水はなかった。

 魔力が切れた?ルークはこちらに戻ってきたままだ……。

 それとも、まさか……。

 ふと嫌な想像をしそうになった私の背中に、ルークの背中がとんっと当たる。

「急ごう、まずは村長の家を確認。そのあとマルスーダさんたちを探しながら滝へ向かおう!」

 そうだ。考え事している時間ももったいない。

「リーアさん、」

 収納する前に、声をかけようとした。

 絶対にドミンガさんたちを助けるからって……言おうとして、リーアさんの表情を見て言えなくなった。

 ぐっと唇を強く引き締め、目は揺れているけれど涙を落としてはいない。

 戦ってる。

 リーアさんは自分の心と戦っているんだ。

 村長の村よりも先に滝に言ってよっ!って、喉元まで言葉が出てきているのかもしれない。私が助けに行くと、今すぐに飛び出していきたいのかもしれない。

 そのすべてを押さえて……リーアさんは口を引き結んでいた。

 それなのに、約束できない、気休めの言葉なんか、かけるべきじゃない……。必ず助けるっていう気持ちは嘘じゃない。でも……。

「森で実のなる木を収納したんだけど、食べられそうな実があれば、皆で自由に食べてください」

 別の言葉をかけて、リーアさんを収納した。

 村長の小屋に近づく。

「まずはもう一度小屋の中を確認。そこの3人は周りを。残りはここを中心に離れすぎないように探索を」

 ファーズが騎士たちに簡単な指示を出して、小屋の中に足をいれる。

 外の明るい光から、薄暗い小屋に入ると目が慣れるまで内部は見にくい。

「【光】」

 あ。そうか。

 目が慣れるのを待つまでもなかった。レイナさんが光魔法で小屋の中を明るくする。

 なんだか不思議だ。

 今までなら、他の人が当たり前に光魔法を使う姿を見たら「私は魔欠落者で光魔法が使えないから役立たず」なんてそんなことを思っただろう。

「助かる」

 ファーズさんはそれだけ言うと、小屋の中をぐるりと見渡した。

 そう、ファーズさんの言葉。それだと思った。

 別に、私は光魔法が使えない役立たずなんて考える必要はないんだ。こんな時に考えることは「助けてくれてありがとう」それだけでいいんだ。

「いないみたいだな」

 小屋の中に置かれていた背負子や籠など、人が隠れられそうなところをくまなく探すけれど誰の姿も見つからなかった。

 その時だ。

「うわぁーーーん、ママっ!」

 子供の泣き声がすぐ近くで聞こえてきた。

 どこ?

「マルスーダさん?どこなの?」

 大声でレイナさんが叫ぶけれど、子供の泣き声だけが返ってくるだけだ。

「あそこだ!」

 ルークが。声の元を見つけたようで、指をさした。その指の先には、小屋の天井があるのみ。天井を支える柱の陰に子供がいるようには見えなかった。

「屋根の上か!」

 ファーズさんがいち早く理解したようで、すぐに外に出て見上げる。

 あいにくと、下からでは屋根の上の状態が分からない。

「屋根に登ります」

 姿が見えさえすれば、すぐに収納できる。

「いや、僕が行くよ……」

 でもと、ルーク引き留めようと思ったんだけど、すぐにシュナイダーさんの太い腕がルークをつかんで屋根に押し上げた。

「3人ともいる!」

 ルークの第一声にまずはホッとする。

「【回復】ママは大丈夫だって、エイルに教えてあげて」

 というルークの言葉に、子供の顔が屋根からちらりと見えた。

「【収納】」

 それから、ルークが顔を出す。ルークの手には、大人の手が握られていた。

 体の一部でも見えれば大丈夫。

「【収納】」

 ルークも一旦収納してから取出しないと屋根から降りられないか。

「ほら来い!」

 呪文を唱えるよりも先に、シュナイダーさんが腕を伸ばした。ルークがその手に向かって屋根から飛び降りた。

 片手で軽々とルークを受け止めたシュナイダーさんはそのままファーズの背負う背負子、私と背中合わせにルークをのせる。

「大丈夫だったの?」

 レイナさんがルークに尋ねた。

 私も気になっていた。マルスーダさん本人が姿を見せずに、ルークが手を見せたことが。その前に回復魔法を使っていたのに……だ。

「はい。かばうように子供を抱きかかえていて、背中にかなりの傷を負っていました。意識もありませんでした。ですが回復魔法で全て治しました」

 では、なんで本人が顔を見せなかったの?

「子供の姿が消えてパニックになりかけていたのですが、収納魔法の中で子供の姿を見れば落ち着くと思います」

 ほっ。

 なるほど、そうだったのね。よかった。無事だったんだ。

「次は、滝だ」

 ファーズが騎士に声をかけて移動を始める。速度はそれでも他の皆を置いていかないように抑えているようだ。

 滝の水が止まってからどれくらいたつだろう。

 二人は無事だろうか。 滝の方へ視線を向けるけれど、建物や植物などが視界を遮り、滝の下の方は見えない。

 二人の姿が見えれば、遠くても収納できるのにっ!

 崖の上から落ちてくるモンスターの姿は、豆粒ようにな大きさだけど見える。

「くっ!」

 滝に近づくにつれて、進むスピードが落ちてきた。

 モンスターの数が増えたせいだ。無視して進めない。

 モンスターをかたずけて進む道を作ってから進んでいかなければならないため、増えれば増えるほど進むスピードが落ちる。

 はやく、はやく、、はやくっ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ