表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/128

末っ子

「人数の確認を!あと何人足りない?」

 レイナさんの言葉に、早足で周りを確認しながら進んでいたファーズに声をかける。

「ファーズ、村人に詳しいのは誰ですか?村長さん?一旦外に出てもらいます」

「この村に村長はいない」

 え?村長がいない?

「じゃぁ、誰なら人数の確認ができるの?」

 その人を一回取出して、人数確認をしてもらうようにお願いしなければならない。

「この村の人間は皆家族見たいなもんだから、全員詳しいよ」

 家族……。

 いいなぁ。私も、この村の家族になりたい。

「まぁ、末っ子のルークとエイルはまだ村人の顔と名前は覚えてないだろうが、他の皆は3歳の子供でも全員の名前を知ってるぞ」

「末っ子?」

 ルークがびっくりして声をあげた。

 5歳くらいだと思われていたとしても……。確かに、もっと小さな子供はいたはずだ。

 それとも、もしかして小さく見えるけど、実際はけっこうな年齢だとか?私やルークみたいに……体の成長が遅い?

「ふっ、そうだろう?村の人間がみんな家族なんだとしたら、一番最後に村に来た人間が末っ子だ」

「最後に来たから末っ子……」

 ボソリとファーズの言葉を繰り返す。

「なんだ、末っ子は不満か?大丈夫。また村に新しく人が来れば、すぐにお姉ちゃんになるぞ」

 モンスターの数は減っていない。

 だけれど、こうして会話をする余裕があるのは、守る対象が私に絞られたからだろう。30名近くが私一人を囲んで守ってくれている。

 だから、私も……少しホッとしたのと、うれしさで、目尻に涙が浮かんだ。

 レイナさんがそれを見て、慰めの言葉を口にする。

「あら、どうしたの?そんなに末っ子が嫌だった?大丈夫よ、すぐに人が増えるからね?それに、エイルとルークが来る前には、私やファーズが末っ子っていわれてたのよ?それよりは、ずいぶん似合っていると思うわ」

「ファーズが末っ子?」

 ルークが驚いた声を出す。

 私も驚いた。

「そうよ、僕の方がこの村ではお兄ちゃんだからって、ずいぶん子供達に世話をされていたわね?」

 くすくすと、レイナさんが何かを思い出したように笑った。

「あー、そうだったな。それでいえば、俺は長男だからな?ほれ、ファーズ、敬えよ?」

 と、シュナイダーさんも楽しそうに笑う。

「いいの?」

 何かがつまって、小さな声しか出ない。

「ん?エイルちゃん、いいのって何が?」

「私が……私とルークが、この村の家族になって……いいの?」

「何言ってんの、もうとっくにこの村の一員。家族でしょ!」

 レイナさんがそっと頭を撫でてくれた。

 ううう……。だめ、ここで泣き出したりしたら……。嬉しくて泣きそうだけど……。今は、まだ危険が迫っている。

「誰でもいいのなら……リーアさん【取出】」

 目の前にリーアさんが姿を現した。

「え?あ、村、いつもの村だわ……私、一体どうなって……?急に知らない場所に皆と移動して……」

 キョロキョロと当たりを見回す。

「詳しい説明はあとでしますが、移動した場所は私の収納魔法の中です」

「え?でも、収納魔法に人って収納できたかしら?それに、中には木も生えていたわよ?」

 そうだ。実のなる木も何本も森で収納したんだった。生えてた?

 倒れずに収納されてるってことよね?

「説明はあとでします。あの、誰がいて誰がいないかを確認してほしいんです」

 そこまで口を開いた時、地面から、モグラ型のモンスターが飛び出して来た。

 私を中心に囲んでいた陣形が崩れた。

 リーアさんが危ない!

「【収納】」

 今の短いお願いの仕方で分かっただろうか?とは思ったが、モグラ型のモンスターはずんぐりとした体形からは想像もつかないような動きをして危険だ。

 あっという間に、騎士の一人の足にしっぽの針を突き刺した。だがその瞬間を狙って、別の騎士がモグラのしっぽを切り落とす。

 ファーズに対して初めはあんな態度を取っていたけれども、さすがは騎士だ。

 村人のように、モグラ型モンスターが現れたからと、皆が恐怖して逃げだしたりはしない。

 青い狼さんからは逃げ出したけどね。

「【回復】」

 すぐに刺された騎士は回復魔法を自分にかける。刺された傷はふさがるが、騎士の回復魔法では毒まではどうにもならなかったようだ。みるみる顔が青ざめ苦しげに歪んでいく。

「毒か!」

 と、別の騎士が叫ぶ。あ、知らなかった?

 そうか。小屋の中で出たから、騎士はまだ知らなかったんだ。

「刺されたら回復魔法が効かないのか?」

 足元からまた、モグラ型モンスターが姿を見せた。今度は、先ほどほど騎士たちは冷静ではない。しっぽの届かない距離まで一斉に後退して、剣を遠くから振り下ろした。

「【回復】」

 村人にはすぐに回復魔法を唱えていたルークが、やっと騎士に回復魔法をかけた。

「僕の回復魔法があるから、毒に怯えることはないよ。きちんと僕たちを守ってくれるなら、苦しむことはない」

 ルーク、それって、きちんと守ってくれないと苦しむよってこと?

 毒が回って苦しんでからしか、治してあげないってこと?……まぁ、気持ちはわからなくもないけど。

 ファーズにひどいこと言っていた人たちだし……。少しくらい意地悪したくなるよね?

 騎士達の何人かはルークの言葉に、モグラ型モンスターに刺されてもいないのに顔を青くしていた。

「【取出】」

 そろそろいいかなと、リーアさんに出てきてもらう。

「あと、何人の村人がいなかった?」

 レイナさんの問いに、リーアさんが口を開いた。

「5人。マルスーダさんたちと……」

「マルスーダさん?村長の小屋にはいたわよね。……小さな子を抱えているから、遠くに逃げたとは思えない。もう一度村長の小屋に戻りましょう」

 レイナさんが村長の小屋に目を向ける。

「マルスーダさんたちと、あとは誰だ?」

 ファーズの問いに、リーアさんが泣きそうな顔で、滝の方に視線を向けた。

「あ!」

 思わず声が出た。

「ドミンガとイズルか……」

 そうだ、二人は水魔法で滝を作りに行ったままだ……!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ