希望は捨てない
何とかしたい、何とかできないの?
目に映るモンスターを私がすべて収納すればいい?
……そう、そうだよ!全部収納って一度に収納しちゃえば……。
そうして、袖で涙を乱暴にぬぐい、顔を上げる。
ぶわっと、飛び込んできた大量のモンスターの姿。また、増えている。
「【火】」
「【風】」
ファーズが出した大きな炎を、シュナイダーさんの嵐のような強風が広げる。
まるで炎の竜巻がごおおっと、大量のモンスターを一度にやっつける。
すごい。魔法の連携なんて初めて見た……。
「ふっ、それ便利な魔法ね!」
レイナさんの言葉に、シュナイダーさんが笑った。
「ルークの回復魔法がなくちゃ使えない上に、ルークのアイデアだ。さぁ、もういっちょ行くか!」
ルークのアイデア?ってことは、今までこんな連携した魔法はなかったってこと?
ファーズさんが呪文を唱え、巨大な炎を作り出す。
「【火】」
これなら、一度に大量のモンスターを退治できる。私が収納魔法を使うまでもない……。
「【か……】」
シュナイダーさんが呪文を唱えようとしたときに、レイナさんが止めた。
「待って!人が!」
今、炎の竜巻を出そうとしていた範囲に、村人の一人が逃げてきたのだ。
「ちっ。せっかくいい方法だと思ったのに……」
「【風】お願い、みんな1カ所に……!」
レイナさんの必死の声に、何人かの村人は戻ってきて小屋の周りにたっている。だけれど……。
どう見ても半分。
あとは、戻ってこれないのか、声が耳に入らないくらいパニックになっているのか……。
すでに……。
考えろ、考えるんだ。ルークだって、連携する魔法を考え出した。
何か、何か方法があるはずだ。
ここから見えるモンスターはみんなが退治してくれる。
ここから見えない場所にいる村人がモンスターに襲われる……。
収納魔法では、見えないモンスターは収納できない。見えない場所いいる村人たちは……。
村人たちがこちらに来られないなら、こちらが移動して守るしかない。
でも、移動など……できるはずがない。……私が後先考えずに飛び出していくわけには……。
あ……。
「ファーズ……私を全力で守ってくれるのよね?」
「ああ、もちろんだ」
ファーズの返事を待ってレイナさんにも質問をぶつける。
「レイナさん、1カ所にみんなが集まれば守りやすいんですよね?」
「ええもちろん」
ごくんと唾を飲み込む。
「【取出】」
小さな声で呪文を唱え、収納魔法に入れたモンスターをを遠くに取り出してから、小屋の周りの村人に顔を向ける。
怖い。
怖い。
……すごく怖い。
私が、みんなの命を預かるなんてすごく怖い。
だけど、私が恐れる顔を見せてはダメだ。安心してもらうには、笑わなくちゃ……。
「大丈夫だから、私のことは……みんなのことは、ファーズたちが守ってくれるから」
にこっと笑えただろうか。
「【収納】」
呪文を唱えて、見えている村人を収納した。
「え?おい、まさか!」
いち早く気が付いたシュナイダーさんが声を上げる。
「私は魔欠落者です。シュナイダーさん【収納】【取出】」
シュナイダーさんを収納して、3秒しないうちに取出。
「はっ、広い上に居心地良さそうな場所だな」
すぐに理解してくれたようだ。
「私一人を守ってください。守り切ってください。村の人たちの命を……私が預かります」
私が死ねば、収納魔法の中のものは取り出せない。つまり……村人もみな死んでしまうのだ。
人の命を預かるなんて責任を持つなんて……怖い。
「ああ、それならずいぶん戦いが楽になる」
言わなくちゃ。わがままを。
「楽にはならないかもしれません。私、ここに立ち止まるつもりがないんです。それでも、守ってください」
私の言葉にレイナさんがうなずいた。
「もちろん。【風】村人に、位置を知らせられるものは教えて、助けに行く」
レイナさんが私の言いたいことを全部分かってくれた。
「ほら、ファーズ、二人をのせろ」
シュナイダーさんがいつの間にか小屋に置いてあった背負子を持ってきていた。
「ああ、正面は俺が。レイナとシュナイダーには、左右を頼む。それから、残りは全員後ろを守れ。それだけの人数がいれば、何とかなるだろう?」
騎士たちがファーズの指示で隊列を組みファーズさんの後ろに並んだ。
私とルークは魔獣の森の中を移動したときのようにファーズさんの背負った背負子に座る。
すぐに、ファーズが村の中を走り出した。
「ヤンの家の前にいる。リーアが怪我をして動けない」
風魔法で声が届く。すぐにそちらに向かう。移動中も村人の姿が無いか探しながらあちこちに視線を走らせる。
「【風】魔法で声が届けられない者は声を。音のなる物で音を!」
レイナさんが言ったすぐあとに、通り過ぎた場所からカンカンカンと甲高い何かを叩く音が聞こえる。
家の影、見えない場所に二人。
「【回復】」
姿が見えた瞬間にルークが回復魔法を唱える。今は症状は出ていなくても毒に侵されている可能性も考えてのことだ。収納してしまえば中の人のことは分からない。助けを求められても、伝わらないからだ。
「【収納】」
そして、すぐに収納する。
こうして、村の中を人を探して動き回る。
「!」
モンスターに体の一部を引きちぎられた村人もいた。
だけど、命はある。
「【回復】」
ルークの回復魔法では、ちぎられた部位をくっつけてもとに戻すことはできるらしいけど……失われた部位を再生することは流石にできない。
「【収納】」
辛い。きっと辛い。昨日まであった足が、突然奪われたのだ。
だけど今は、まずは生き残ること。誰一人欠けることなく……。
重複投稿……(閑話)について活動報告に書きました。
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