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命の天秤

 モグラ型のモンスターだ。

 地面の中から出てきたんだ!

「【しっ……収納】」

 急いで収納する。村人はパニック状態なので、急にモンスターの姿が消えたことに関して何も思わないようだ。

「誰か、回復魔法をっ!」

 ああ、朝一緒に食器を洗っていた女性が青い顔して倒れている。

「【回復】」

「【回復】」

 回復魔法を使える人が何人か呪文を唱える。

「だめだ、私たちの魔法じゃ……何があったんだ?」

 もし、恐怖でぶっ倒れただけだとすれば、回復魔法で顔色は戻るだろう。だが、女性の顔は青いままだ。

「うわっ!また出た!」

 叫びのあった方に目を向ける。床板を突き破ってモグラモンスターの尻尾が現れた。

「うわぁっ!」

 呪文を唱えなければと思った時には、モグラモンスターの尻尾の針が近くにいた子供の足を刺し、あっという間に床板から姿を消した。

「大丈夫かいっ!【回復】」

 呪文を唱えるが、倒れた子供の顔色は回復しない。刺された足の傷がふさがっただけだ。

 そうだ、青い狼さんが言っていたじゃないか!

 モグラ型のモンスターは、苦みがうまい。だが、それは人間には毒だと……。

「毒……、気を付けてください、尻尾の針には毒が!」

 私の言葉で、村人たちは余計にパニックになってしまった。

 失敗した。

「大丈夫、ルークに回復魔法をかけてもらえば……!」

 私の声が届いたかどうか分からない。パニック状態は収まらず、小屋の出入り口に人が殺到していく。

「出た!」

 床板を突き破り、再びモグラモンスターの尻尾が見えた。

「【しゅ……】」

 呪文が終わる前にそれは姿を消す。

 だ、ダメだ。私の収納魔法は役にたたない……。

 どうすれば……。

 そうだ、地面から離れればいいんだ。

「しっかり、ああ、脈が弱く……」

 はっ!

 刺された人の手当てが先だ。ルークを呼ばなくちゃ。

 小屋の外に出ると、村人があちこちに散らばってしまっていた。

 騎士たちが、飛び出した村人を守るために後を追いかけ、小屋を守っていた陣形は崩れている。

「戻れ!」

 レイナさんの声も恐怖で村人には届かないようだ。

「小屋の下からモンスターが現れたんだっ」

 必死に状況を説明しようとする者もいる。

「ルーク、毒にやられた人が、お願い!」

 ルークの姿を見つけて声をかける。

「すぐに、戻ってくれ」

 場を離れようとしたルークの背にファーズが声をかけた。少し焦りのある声だ。

 ……そうか。今はルークの魔力も回復できる回復魔法ありきの戦い方をしている。ルークが場を離れればそれができない。

 モンスターの数は、小屋の中に入るときの比じゃないくらい増えている。おまけに、逃げ出した村人を襲うモンスターに向けて、シュナイダーさんは矢を放っている。

 つまり、小屋に向かってくるモンスター退治は、ファーズさんの負担が増えているということだ。

 ルークは小屋の中に入り、倒れている二人に急いで回復魔法をかけて、また外へ出ていく。

 動けるようになった村人も、小屋の外へと出て行こうとする。

「待って、バラバラになってしまっては守り切れない。小屋の中にみんな戻って!」

 レイナさんの叫びに

「小屋の中に、地面からモンスターが出た!小屋だと逃げ場がない!」

 と、悲鳴に近い声をあがった。

 確かに、狭い小屋の中にたくさんの人がいては、モンスターが現れても距離をとって逃げることができない。

 とはいえ、小屋の外に出てしまえば、地面の下からだけでなく右から左から次々にモンスターが襲ってくる。右から来れば左に、前から来れば後ろにとそれぞれが逃げ出して……村人たちはバラバラだ。

 今は何とか目につく範囲に散らばっているため、村人たちに向かうモンスターを遠距離攻撃ができる騎士やシュナイダーさんの矢で守っている。

「だめだ、これ以上散らばっては……」

「危ないっ【収納】」

 私も、小屋を背にして村人たちを守ろうとする。

「エイルっ!」

 私の姿を見つけファーズが怖い顔で近づいてきた。

「危険だ」

「だけど……」

「ああ、小屋の中もすでに安全じゃなかったな……くそっ!」

 収納魔法で私も戦えるとはもう思わない。

 モグラ型のモンスターが、足元から尻尾を出せば呪文を唱えるよりも先に刺されて倒れてしまうだろう……。

 見えずに近づいてくる敵には、私は無力だ。

「仕方がない、エイル、俺の背に乗れ。お前だけは何としても守る」

 私だけは?

「【風】村人に、バラバラに逃げてしまっては守れない、戻ってきて」

 レイナさんが風魔法で村人に呼びかける。

「ああ、刺された!助けておくれ」

 村人から風魔法で声が飛んでくる。

 刺されたというのは先ほどのモグラ型モンスターだろうか。

「ルーク!」

 ルークに声をかけるが、ルークは首を横にふった。

 何で!

「姿が見えない相手に回復魔法はかけられない」

 そうだ。その通り。じゃぁ、その人のところへ行こう?

 モンスターのいる中を進むことはできない?

 だったら、ファーズ、ルークを連れて行ってあげて!

 駄目なの?私の元を離れるわけにいかないから?

 私を守るため?

 私を危険にさらせない?

 やだ、やだ、やだ!

 涙が、伝うのが分かる。

 わがままをファーズに言っている自覚もある。

 最大限の人間を救うためには、私が無事でいる必要があるって。

 助けたいって、村人を助けたいって……。ルークもファーズも……みんなきっと私と気持ちは同じだって分かってる。だけど、だけど、優先順位があって、辛いけど、諦めないといけない命があって……。

 だけど、私は、わがままだけど、そんなのいやだよっ!


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