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分け合う

 収納から、ナナバを取り出し、子供に手渡す。

「わー、なにこれ?初めて見るよ」

「どうぞ。ちょうど甘くて美味しいよ?」

「え?甘いの?」

 子供がお母さんの顔を見る。

「ありがとうございます」

 母親が、ぺこりとお辞儀をした。そうか。この村では甘いものの入手は果物といえど難しいんだっけ……。モンスターが出る森には入っていけないし……。と、見れば、他の子供達がうらやましそうにこちらを見ている。

「【取出】」

 収納してあるナナバの実をすべて取り出す。

 木ごと収納してあるものは、取り出そうと思ったら木丸ごと出てきてしまうので小屋の中じゃ無理だ。

 ルークに収納の中に入って取ってきてもらうかしないと……でも、今はルークは皆と回復魔法で戦っている。

 ……別の人に入ってもらう?

 でも、収納されても大丈夫だって……分かってもらえるのかな?普通は命あるものを収納はできないのに……。

 それに、もし中で火魔法とか使われたらどうなっちゃうんだろう?

 私が熱く感じるとかないのかな?……だめだ。やっぱりむやみに人を収納するべきじゃないよね。

「食べていいの?」

 男の子の声にはっとする。

 目の前に集まった子供達の数とナナバの数を見比べる。明らかに足りない。……えーっと、小さい子を優先?

「うん、でもごめんね、足りないから……」

 13,4歳くらいの男の子が、にこっと笑って、ナナバを一本取った。

 両手で端を持ち、左右に引っ張ると、ナナバはきれいに二つに分かれた。次々に二つに割って、子供達に手渡していく。

 足りなかったナナバが、今度は余っている。

「はい、エイルちゃんの分」

 女の子が私にもナナバを渡してくれた。

「って、もともとエイルちゃんのだったね。ありがとう。いただきます」

 手渡された半分になったナナバ……。

 今までいっぱいナナバを食べてきたけれど……。いつもの、半分しかないけれど……。

「おいしい……」

 今まで食べたどのナナバよりもおいしく感じる。

「本当に、美味しいね。あまーい」

 ニコニコと笑って一緒に食べる人がいる。

 一緒に……一つのナナバを分けて食べる人がいる……。

 魔欠落者だからと避けられることも蔑まされることもなく……この村にいれば、これが普通なんだ……。

「残ったのももらっていいか?」

 ナナバを二つに割っていた男の子に頷き返す。少し残っていたナナバ。

 少年が自分で食べるのかと思ったら……。

「おばちゃん、お腹の子、味が分かるかな?」

 と、お腹の大きな女性に手渡した。

 それから、一番年かさの老人に。

「これなら柔らかいから食べやすいよ。じいちゃん食べるのに時間がかかるから朝食途中だっただろう?」

 ……。

 誰も文句を言わない。

 俺の方が偉いだとか、お前は魔力が弱いくせにとか……。

 それどころか……力の無いものに分け与えるのが当然だと……。今、一番必要であろう人間に手渡すのが当たり前なの?

 ああ、そうなんだ……。魔欠落者だから、同じ魔欠落者に優しいとかそういう次元の話じゃないんだ……。

 自分が魔欠落者だろうと、相手が魔欠落者だろうと、そんなのは関係ない。

 誰かの手を必要としている人に手を差し伸べ、お互いに助け合って生きていく……ただ、それだけのことなんだ。

 助け合わないと生きていくのが大変な村だから……?

 今まで辛い思いをしてきた人たちが集まっているから……?

 ううん、違う。違う……。

 だって、子供たちには生きていくのが大変だとか、今まで辛い思いをしたとか関係ないんだから。

 優しいんだ……ううん……そうじゃない。

 知ってるんだ。そう、こうして分け合って食べるナナバが奪い合って食べるよりも美味しいって。

 いがみ合うよりも、思いやりを持ったほうが……幸せな気持ちになれるんだって……。

 ……私……、ここに居たい。

 この村にずっと居たい……。

「うわぁーっ!モンスターだ!」

「え?何?なんだ?!」

「ああーっ」

「大丈夫か?【回復】」

「逃げろ、皆、逃げるんだ!小屋から出るんだ!」

「うわぁっ」

 え?

 何、何なの?

 小屋の中が突然騒然としはじめる。

 モンスターが小屋の中に入り込んだ?でも、小屋の壁も屋根もアネクモの糸でおおわれているからそれを突き破れるような強いモンスターがいる?

 いたとしても、ファーズさんたちが見逃すはずが……。

「やばい、回復魔法が効かない……もっと強い魔法じゃないと……顔色が」

「とにかく逃げるんだ、ここに居ては皆やられる!」

 どういうこと?

 小屋の入り口のドアが開けられる。

 出入り口に近い者たちから外に飛び出した。

 なんで?

 どこからモンスターが!

 人が減って、小屋の奥の様子が目に入った。

「あ!」

 あれは……!


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