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小屋の中

 なぜ、ファーズは青い狼さんに向けて火魔法を……。

『今の攻撃は当たっていれば、我といえどもただでは済まなかっただろう』

 青い狼さんをそれた魔法は、地面を溶かして大きな穴を開けている。

 どれほどの熱量があれば、あんなことになるのか想像もつかない。

 だって、地面の上でたき火をしても、地面が燃えたり溶けたりするところなんて見たことがない。

『だが、あの速度では我に当てることはできぬ。呪文を唱えている間に、首が飛ぶであろう』

 青い狼さんの言葉に、ファーズはがっかりした様子も見せずに頷いた。

「ああ、もちろん。我々人間が勝てる存在でないのは知っている。ただ、安心材料を見せたかった」

 安心材料を見せる?

『ふっ。そうだな、我が人間の力を侮りすぎていたようだ。確かに、今のを見て安心した。それだけの力あれば、バジリスクの眷属程度、束になってかかってこようが心配なさそうだ』

 ああ、なるほど。

 ファーズは自分の力を見せるために、青い狼さんに向けて……いや、青い狼さんに当てるつもりのない魔法を放ったんだ。

『伝説の蛇の王バジリスクなど、大層な名で呼ばれているが……半時もあれば片が付くだろう。その間、ヌシを頼んだぞ“ファーズ“』

 ファーズの背に、私がかばわれたのを確認して青い狼さんが地を蹴った。跳躍力は凄まじく、ずいぶん距離がある崖まで数歩で到達する。

 すごい……。

「さぁ、エイル小屋の中に入っていろ」

 ファーズが、私をかばいながら剣を振り、小屋の入口まで誘導する。

「私も、戦える……」

 と、ファーズに訴えたが、ファーズは優しそうな目で小さく首を振った。

 ああそうか。私が戦えるなんて信じられるわけがない。

 そもそも、戦うわけではない。収納することで、安全を確保するだけだ。モンスターを殺すことはできないのだ。

「あの、戦うっていうか、収納魔法で……」

 と、言葉を続けようとしたけれど、ファーズさんの大きな手が私の頭を撫でた。

「素直に守られてくれ、エイル。……俺達を信用してくれるな?」

 私の力がなくても、十分戦えるっていうことを私は疑ったわけじゃないけれど……。

 何かしたかった。

 だけど、村の人たちと一緒に小屋にいた方が守りやすいってことだよね。私が今すべきことは、素直に小屋に入ることだ。

「うん。みんな気をつけて」

 小屋の中に入る。

 窓から外を見て、目に付くモンスターを収納しよう。

 と、そう思っていたけれど……。

 小屋の中に入ったとたんに、外にいる皆と村人の様子が余りにも違うのにびっくりした。

 ファーズたちは、余裕はないけれど希望は捨てていない。青い狼さんが戻るまで私を守ると使命感に燃えている。

 小屋の中の村人たちは、身を寄せ合って、青い顔をして震えている。その表情は悲壮感が漂っていた。

「怖いよぉ~」

 小さな声で恐怖に耐え切れず泣き出す子供を、親が震える手で背中をさすっている。

「何がどうなっているんだろう……」

「さっきからとても強い気を感じる……」

 ぼそぼそと囁く声に、気がついた。

 そうだ。

 皆は外の様子が丸きりわからない。

 窓から見えるのは、次々に現れる中位モンスターと格闘している騎士の背。

 ファーズさんやシュナイダーさんのように一撃で仕留めるような頼りがいのある戦い方はしていない。

 苦戦しながら戦う姿を見ていたら確かに不安も大きくなるかもしれない。

 それに、青い狼さんが発したあの強い気。あれが味方のものだという情報もない。

 となれば、恐怖するのも無理はない。

 戦いは、外の皆に任せよう。今、私にできること……。

「大丈夫です。騎士の人たちが建物の周りを取り囲んでモンスターを近づけないようにしています。それに、ファーズさんやシュナイダーさんたちは、魔力切れを気にせずに戦えるようになったので、とても強いです」

 安心させるために、大きな声で注目を集める。

「魔力切れを気にせず?」

「回復魔法しか使えないルークの魔法で……」

 たったそれだけの説明でも、多くの村人には伝わったようだ

 。ルークが魔欠落者で、魔欠落者の使う魔法には他の人と違うことが起きることがあるって。

「でも、いくら倒しても、次々と表れる……いつまで続くのかもわからない。回復魔法で回復しつづけたとしても、寝食を欠いて戦い続けることはできない……」

 あ、ああそうだ。食べなければ死ぬんだ。

 ここに避難している村人たちもいつまでもここに居続けることもできない。

「今、次々に表れているモンスターは、バジリスクの眷属だそうです」

「バッ、バジリスク?まさか!」

「もうだめだ!バジリスクといえば伝説の蛇の王じゃないか……」

 小屋の中の空気がざわりと凍りついた。

「大丈夫、半時程で、バジリスクはいなくなるはずです。そうすれば、眷属のモンスターはいなくなるはずですし、崖の上から落ちてきたモンスターたちは、バジリスクから逃げてきたモンスターたちなのでまた来なくなるはずです」

 まさか、本当なのか?信じられないと、まだ小屋の中の空気は凍ったままだ。

 ……青い狼さんの話をした方がいいのかな。だけど、すごく強いモンスターだってどうやって説明したらいいんだろう?

「ママー、お腹すいたよ。いつ家に帰れるの?」

 ピリリとした空気の中、状況が理解できていない小さな子供が声をあげた。

「もうちょっとよ。もうちょっと我慢しようね」

 私の「あと半時」という言葉を信じたわけではない。ただ、子供をなだめるための言葉だと分かった。

「もうちょっとってどれくらい?」

 ここに居るみんなが知りたいことを、子供が口にする。

「あのね、お外にいるモンスターをお兄さんたちが倒してくれているからね。一刻もすれば大丈夫よ?」

 青いモンスターさんがバジリスクを倒せば……。眷属も他のモンスターたちも、青い狼さんの気を避けて逃げて行くはずだ。

 だから、一刻あれば……。

「えー、まだ起きてから何も食べてないよ?お腹すいた」

 そういえば、朝ごはんが終わって皿を洗っている時にこの騒ぎが起きた。

 朝ごはんをまだ食べていない人もいるのだろう。日はそろそろ一番高い位置にある。

「【取出】」


いつもありがとうございます。

村長の家を小屋と呼び始めました。修正時にどちらかに合わせようと思いますが、しばらくはこのままです。

皆様のおかげで1万ポイント達成いたしました。感謝です!

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