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火球のファーズ

『ヌシ、我の背に乗れ。あやつに勝つことよりも、我にはヌシが大切だ』

「え?それって……」

 崖の上に立つ巨大な蛇の王、バジリスクと戦わないってこと?

「私を連れて逃げるの?」

 青い狼さんが不機嫌そうな声になった。

『逃げる?我の敵ではない。あやつから逃げる必要など我にはない。だが、蛇の王は大量の眷属を解き放っている』

 眷属、蛇型のモンスターのことかな?

『我がやつと対峙している間に、ヌシを眷属に襲われては困るからな。逃げるのではない、ヌシを……』

「私を、守ろうとしてくれるのね?」

『ち、違う、守るんじゃない、ヌシを逃がすのだ』

 青い狼さんは言い換えたけれど……。

 私を守るために、逃がそうとしてくれるってことだよね。

 うれしい。

「ありがとう」

 本当は、飛び上がった勢いでそのままバジリスクを倒しに行きたいんだよね?

 それを、私を守るために思い止まったんだよね?

 守ってくれるという気持ちは嬉しい。

 ……でも、でも……。

 私が、青い狼さんの背にのって、村から逃げ出した後はどうなるの?

 バジリスクは……、バジリスクの眷属である蛇型モンスター達は……。逃げてきた大量のモンスターたちは……。

『さぁ、乗れ』

 青い狼さんが私を背に載せようと腰を落とす。

 青い狼さんが私を守りたいと思ってくれたように……。

 私は、守りたいんだよ。

 ルークを、レイナさんたちを、ヤンさんたち村の人たちを……!

 青い狼さんが、私が安寧だと言っってくれたように……。

 私も、村が、村の人たちが安寧をもたらせてくれるの。

 守りたい。

 失いたくない。

 首を小さく横にふる。

「青い狼さんは、バジリスクを倒せるんでしょう?」

『当たり前だ!あんな若造に我が負けるわけはない!我を誰と思っている!』

 青い狼さんに近づいて、そっと手を伸ばして逆立っている毛をゆっくりと撫でた。

「お願い、だったら、バジリスクを倒して……」

『それは、簡単だが、その間にヌシにもしものことがあったら……』

 ぎゅっと、大きな体に抱き着く。

 伸ばした手は狼さんの体の半分にも回らなかったけれど。長くて少しだけ固い毛に顔を埋める。

「大丈夫。死なないから。知ってるでしょう?私の収納は優秀なのよ。どんどん中に、襲ってくるモンスターを収納するから……。怪我をしたら、ルークが直してくれる。それに、ファーズたちはけっこう強いのよ?中位モンスターとなら戦えるわ」

 私の言葉に、剣を振りながら、ファーズさんが付け足した。

「けっこうじゃないぞ。人間としてはかなり強い」

 今も、中位モンスターをずばずば切り刻み、躊躇なく火魔法を飛ばしている。

 ルークがいれば魔力切れを心配しなくていいからだろうか。

 火魔法の制限のないファーズさんは、かなりどころか、めちゃくちゃ強い。

「俺も、なかなか強いぞ」

 シュナイダーさんが、次々に矢を飛ばしながら口を開いた。

 矢の回収はレイナさんがしている。

 魔力切れの心配がないためか、シュナイダーさんの風魔法は、矢の方向を制御するだけではなく加速にも使われているようだ。先ほど以上にの殺傷力を持って、モンスターに向かっていく。

 それから、ファーズさんの指示で村長の家を取り囲むように配置されている騎士たちも、そこそこの腕前のようだ。

 そう。

 巨大な敵……バジリスクの登場と、眷属である蛇型モンスターを目の前に騎士たちはファーズの指揮に従って動いたのだ。

 もちろん、ルークの先ほどの脅しも効いていると思う。が、巨大な敵を前にし、どうしたらよいのか心が停止してしまったのだろう。命に従うという行為が、騎士としては一番今は楽な選択なのかもしれない。

「中位モンスターなら、人間でも倒せる。でも、バジリスクは……青い狼さんにしか倒せない。私は大丈夫だから、倒して……」

 青いモンスターさんの体から、キラキラとしたものが立ち上るのが見えた。

 肌のピリピリが酷くなる。産毛が逆立つ……。

 この、綺麗なキラキラが気?ピンクで綺麗な気がフワフワと青い狼さんの体の周りに浮かんでは消えている。

『伝説級のモンスターを口にするのは久しぶりだ』

 ポタリ、ポタリと、青い狼さんの口からよだれが滴り落ちた。

 モンスターの味の良しあしは全然分からないけれど、青い狼さんにとってはバジリスクは美味しい部類なんだろうか。

 蛇はうまいって言っていたし……。

『人間たち、ヌシに万が一があれば容赦はせぬぞ』

 青い狼さんの言葉にそれぞれが覚悟のある顔を見せる。

「【火】最大球圧縮、行け」

 ファーズさんが、火魔法の呪文を唱えた。

 手の平から頭の大きさ程度の火の玉が勢いが、青い狼さんに向かって放たれた。

「【回復】」

「【火】行け」

 ルークがすぐにファーズさんに回復魔法をかけ、再び火の玉を放つ。

 3度、青い狼さんい向けて放たれてた火の玉。

 何で!

 青ざめている私とは対照的に、青い狼さんは微動だにせず、全ての火の玉をただ、黙って見送った。

 火の玉は、いずれも青い狼さんの毛を少しだけ焼いて、後方の地面に大穴を開けた。

 土が溶けているの?

 まさか……?

『くっ、人間、名はなんと申す』

 青い狼さんがファーズに名を問う。

「ファーズ」

『ファーズか……くくくっ』


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