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道を探して、街を目指す

「手伝ってね」

 収納から、桶やコップ、鍋に水筒……。水の入れられそうなものを出して水を満たす。

 それからまた収納にしまう。

「時間停止がないから、2,3日で水が腐っちゃうかもしれないけれど……。1日2日は大丈夫なはずだから」

 とはいえ、器が少なくて量的に2日分もない。

 それでも、なんとか当面の水は確保できた。

 次にしないといけないのは、食料の確保だ。川には魚の姿も見える。

 収納して陸地に取出すれば、素手で捕まえられるかもしれない。でも、火魔法が使えないから食べられない。

 探すのは、火を入れなくても食べられる木の実だ。

 街に出れば、パンや干し肉を買えば火が使えなくても何とかなる。

 お金は……ほんの少しだけ持ってる。使えばすぐになくなっちゃうから、何とかして稼がないと。

 いや、今は一刻も早く森を抜けて、ルークを探している男たちから距離をとらないと……。

 どれくらい離れれば安全かな?

 二人で手をつないで川を離れる。

 街を目指すなら、道を探さなければいけない。太陽の位置からなんとなくだけれど方角を確認して足を進める。

 お腹が空いた。

 ルークもきっとペコペコだろう。

「あ、あれ、ナナバ?」

 ルークが突然一方を指さした。

「本当、食べられるかしら?」

 2メートルほどの高さの木に、細長い黄色い実が房になって何十本となっている。

 手を伸ばして届く位置から実をとり皮をむいて口にする。

 ルークも一つ取って同じように口にした。

「ううう、」

「んんん、」

 二人で絶句。

 食べられないことはない。だけど、青臭い。ほんのり甘くておいしい実だったはずだ。これは、なんていうか……。

「まだちょっと食べるには早いみたい」

 でも、お腹が空いていたので、二人とも1本何とか食べきった。

「あと何日か置いておいたら食べごろになるね」

 残りの実を収納しておく。時間停止がないから、収納の中で熟すはずだ。

 その近くに、まだ青い実をたくさんつけたナナバの木も何本かある。

「これは、今収穫してもダメだよね……」

 次に、いつ食べられる物を手に入れられるか分からないから収納できるものがあればしておきたいところだけど。

 早すぎる時期に収穫しても熟すわけではない。

 あ、そうだ。

「ルーク、これ、丸ごと収納しようかな?根っこと土もつけて……時間停止もないから収納魔法の中で育たないかな?」

「エイルの収納の中、すっごく広かった。それから、暖かくて明るかった。育つ気がする……」

 おお、それはいい!だめで元々だ。まだ収納スペースに余裕があるんだから、やってみて損はないよね。

「じゃぁ、【収納】」

 目の前にあった3本のナナバの木を根こそぎ、土もつけて収納。地面にあいたでっかい穴は……どうしようもないのでそのままにしておく。

 それから、3本ほど別の実をつける木を見つけて同じように収納。

 時々出てくるモンスターも収納しながら進む。スライムと、角兎。


 1時間ほど歩いて、轍の残る道に出た。

「わっ、牙兎っ!」

 ルークの声に牙兎の姿を探したが、見つからない。

「え?どこ?」

「上、危ないっ!」

 姿が見えなければ収納できない。上を見ると、顔よりも大きな牙を見せ、口をぱっかり開けた牙兎が目前に迫っていた。

「【収納】」

 危機一髪、牙が頬を掠る前になんとか収納に成功する。

 心臓がどくどく激しく波打つ。

「こ、怖かった……」

 かじられるかと思った。

「初めて見た……すごく動きが速くて、中級冒険者じゃないと倒せないって意味、分かった」

 ルークも胸元を押さえているから相当びっくりしたんだろう。

「中級冒険者が倒すようなモンスターが出てくるなんて……?だいぶ、森の奥に進んできたのかな?」

 道の先に視線を移す。まだ森の終わりは見えない。怖い。けれど、戻っても、追い出された町があるだけだ。

「大丈夫。死ななければ、僕がどんな傷だって治す」

 ルークが、ぎゅっとつないだ手に力を入れてくれた。

 どんな傷も治せるか……たとえ魔欠落者だったとしてもそれってすごいことなんじゃない?

 私のポンコツ収納魔法と違って、人の役に立つんじゃないのかな?

 それなのに、命を狙われるのはなぜ?


 手から伝わるルークの温かさは、一人じゃないという安心感はある。

 けれど、やはり森の影が濃くなっていくにしたがって、怖さは拭い去れなくなってきた。

 あと1時間もすれば、完全に日が落ちて、真っ暗になるだろう。

 ……しまった。暗くなる前に、洞窟とか身を隠せる場所を見つけるべきだった。

 モンスターや獣は、火を恐れる。だから、暗闇でも火を起こせばいい。

 また、光で照らして明るくすれば、モンスターや獣が近づいてきても分かる。

 ……私もルークも火魔法も光魔法も使えない。暗闇で身を守るすべがないのだ。

 自然と足が速くなる。

 まだ、森は抜けないの?

 どうしよう……。

「エイル、アレ」

 ルークが指さす先に光が見えた。

「あれは、火を焚いているの?誰かがいる?」

 助かった。いや、もしかするとルークを狙っている男たちかもしれない。足音を立てないように近づいていく。火に照らされて、一人の男の姿と、馬。そして、荷馬車が見えた。

 背を向けていた男が、剣を構えて振り返った。

「ひぃっ!」

 剣先をこちらに向けられ、思わず悲鳴が上がる。

「あ、ごめん。なんだ、子供か?驚かせちゃったね。物音がしたから、モンスターかと思ったんだ」

 男はすぐに剣を鞘に納め、安心させるように両手を広げて見せた。

「ん?君たち二人かい?こんな森の奥に、子供が二人で……一体どうしたんだい?」

 口調から判断するに、ルークを追っていた人たちとは違うようだ。

「おじさんこそ、馬もあるのに、ここで野宿をするの?この森は、まだそんなに先まで続いてるの?」

 念のためルークを背にかばうようにして立つ。

「これ、置いていくわけにはいかないからね。今、相棒が町に車輪を取りに行ってるところなんだ」

 30代と思われる物腰の柔らかなおじさんが、これと言って指示したのは荷馬車の車輪だった。

 真っ二つに割れてとても使い物にならない状態になっている。

「馬の足で、あと1時間もあれば森を抜けられるんだが……」

 あと1時間で森が抜けられる!それだったら!

「おじさん、あの、私たち森で迷ってしまって、馬に乗せてもらえませんか?町まで連れて行ってくださいっ!」

「それは構わないが……さっきも言った通り、荷物を置いて行くくわけにはいかないから、一晩はここで過ごすことになるぞ?」

「荷物が運べればいいんですよね?それなら、すぐに森を抜けてくれるんですね?」

 よかった。中級モンスターが出るような場所で野宿しなくて済むんだ。

「【収納】」


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