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ルークの告白

 しかし、余裕ではない。張り詰めすぎて緊張の糸が切れないようにというシュナイダーさんの気遣いだというのはすぐに分かった。

 まだ、避難している人の姿がいくつも見えるのだ。

 その中に、肩を支えられヤンさんがリーアさんとやってきたのが見える。

 目が見えないため、一人で走ってくることができないのだ。

 しかも、四方八方からやってくる低級モンスターを避けることもできない。

「あっ!」

 スライムに攻撃され、頬が赤くなった。

 うっとヤンさんが顔をしかめる。

 リーアちゃんも、両手でヤンさんを支えているために襲ってくるスライムを振り払うことができず、あちこち赤い。

 今も3匹のスライムに同時に腕や足を攻撃され顔をしかめるのが見える。

 いくら致命傷を与えられることはないとはいえ、次々に痛みを与えられたらさぞ苦しいだろう。

 と、ヤンさんとリーアさんの姿に気を取られていたら、

「入口を開けて」

 洗い場で一緒に食器を洗っていた女性の声が聞こえた。

 ドアを開けると、血の流れるお腹を押さえた青い顔の子供を抱えた女性が入ってきた。

「誰か、回復魔法を……」

「これはひどい、一番回復魔法が強いのはレイナ様だが……、今は戦闘で手一杯だろう、今は応急処置になるが、我慢しておくれ【回復】」

 青い顔をした男の子は7、8歳だろうか。

 魔法をかけられたとたんに、「痛いよぉ~」と力無く泣き出した。

 魔法をかける前は、声を出す元気もなかったということか。……。

「痛い、痛い……」

「ルーク!」

 子供の泣き声に耐え切れずにルークに声をかける。

「【回復】」

 ルークは何もいわずに魔法を唱えた。

「ありがと……」

 お礼の言葉は、部屋に入ってきたリーアさんの声に掻き消された。

「おばぁーちゃんっ!しっかりしてっ!やだ、せっかく逃げて来たのにっ!」

 青を通り越して紫色の顔をしたヤンさんの姿がそこにあった。

「息……をしていない……」

 リーアさんの言葉に、すぅっと血の気が引く。

 そんな……。ヤンさんが……。

 私のいいところをもう見つけたって、昨日笑ってくれたヤンさんが……!

「ヤンさんっ!」

 どうして、どうして……!

 駆け寄って手を取ると、取った手がぴくりと動いた。

「ルークっ!ルークっ!」

 悲鳴にも近い声でルークに助けを求める。

「【回復】」

 ルークが呪文を唱えると、ヤンさんの呼吸が戻った。

「モンスターから毒を受けたんだね。喉が腫れて呼吸ができなくなって死に至る毒を持ったモンスターがいたはずだ……」

 誰かの言葉に、思わずルークを抱きしめた。

「ルーク……」

 言葉にならない。よかった。ヤンさんが死ななくて……。

「エイル、頼む!」

 息をつく暇もないというのはこういうことだろうか。シュナイダーさんから声がかかった。

 そうだ、矢!

 再び窓の外を見れば、ずいぶんモンスターの数が減っていた。

 よかった。

 いいや、よかったと思ったのはほんのつかの間だ。

「ドミンガの魔力が切れそうだ。滝が終わる。避難を急いでくれ!」

 イズルさんの声が届いた。

 滝が終わる!

 せっかくモンスターの数が減ったのにまた増える……!

 避難は……。

 まだ、何人も人の姿がある。

 やっぱり、収納魔法でモンスターを収納できることをカミングアウトしてでも……と思った瞬間、ドアを開けてルークが外に飛び出した。

「ファーズ、僕をドミンガのところへ連れていって!」

 叫んだルークの元に、慌ててファーズ来た。

「馬鹿、危ない!中に入っているんだルーク!」

 ファーズの言葉に、ルークが少しだけ躊躇したあと、すぐに口を開いた。

「回復できる。僕は……」

 次のルークの言葉に、聞いていた皆は息を飲んだ。

「魔力を回復させることができる」

 すぐに口を開いたのはファーズだった。

「そんな回復魔法は聞いたことがない。魔法で回復できることは怪我と病気だけだろう?もしそんなことができるなら、回復魔法を使えば回復魔法を使った魔力が回復されて無限に回復魔法が使えることになるじゃないか」

 いいや。

 違う、ルークが言うことはきっと本当だ。

 私たち魔欠落者の魔法は普通とどこか違う。

 ドミンガさんの水魔法は温度調整ができて、私の収納魔法は生き物を収納できる。

 だから、普通は回復できない魔力を回復することもルークなら……。

「僕には秘密がある。僕は魔欠落者だ。唯一使える魔法が回復魔法。僕の回復魔法は普通とは違う」

 ファーズさんはすぐにはルークの言葉を信用できないようだ。

 いや、万が一危険な崖側に連れていって効果がなかった場合を考えると確証がないと動けないのかもしれない。

「私、さっき、回復魔法を何度も使ってもう魔力がないわ」

 リーアさんが声をあげた。

 そうだ、ドミンガさんはリーアさんにとって大切な人であるはずだ。何か方法があるのなら、藁にもすがりたいだろう。

「【回復】」

 ルークはリーアさんに回復魔法をかけた。

 リーアさんは、すぐに「【光】」と皆にもわかりやすい光魔法を出して見せた。

「よし。わかった。頼む、ルーク。ドミンガのところへ連れて行こう。悪いが時間がない」


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