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片腕の戦士

 崖を見れば、ここからも、モンスターが降ってくるのがしっかり確認できた。

 ほとんどはまめ粒のような大きさに見えるけれど、時々もう少し大きなモンスターの姿も見える。

 何故、落ちてくるのだろう。落ちてそのまま息絶えることもあるだろうに……。凄まじい数のモンスターが降っているのが遠目で確認できる。

「大変だ、ヤンさんのように人の助けが必要ですぐに避難できない者もいるというのに」

 イズルさんがすぐにどこかへ駆けつけようと体の向きを変えた。

 その服の裾を掴んで止めたのはドミンガさんだった。

「僕が……、水魔法で滝を作ります。その隙に避難を!ただ、僕は身を守る手だてがない。連れてってくれませんか、滝まで」

 ドミンガさんの真剣な顔。

「俺が、連れていく!」

 と、ファーズさんが剣に手をかけた。

「いや、何かあったときに風魔法で連絡を取ってほしいから」

 と、申し訳なさそうにドミンガさんが首を横に降った。

「あ、ああそうか。そうだな……」

 強さでいえば、イズルさんよりもファーズさんが上だろう。しかし、この場面では、総合力が必要なのだ。

「イズル、ドミンガ、お願いします。ファーズはここで逃げた来た人たちの安全を確保。戦える人が少ないけれど、ファーズ一人で何人分も戦えるよね?」

 レイナさんがファーズの気持ちを鼓舞するように指示を出す。

「じゃぁ、私たちは耳の遠い人間や子供達が逃げ遅れてないか見てくるよ」

 女性達も、食器をそのままおいてすぐにすべきことをするために立ち上がった。

「エイル……」

 ルークが私の顔を見る。

 うん。私たちにも何かできないかって考えてるんだよね。

「さぁ、早く、入って。村長の家にはアネクモの糸が張り巡らされている。大丈夫、大丈夫よ」

 レイナさんが逃げてきた人たちを安心させるように声をかける。

「来た!」

 足のは速いモンスターたちが現れた。

 ほとんどがスライムだが、中には双角兎などの中級モンスターもまざっているようだ。

「せやぁっ!」

 低級モンスター達には目もくれず、ファーズさんが中級モンスターを次々と一刀両断していく。しかし、ほとんどが崖側から現れるとしても、まったく森側から来ないわけではない。

 一人ではとても360度の敵をカバーできない。

「はぁっ!」

 レイナさんも剣を手に取った。

 一撃ではやっつけられないものの、モンスターの足を止めることはできている。

「さぁ、二人とも早く中へ!」

 私とルーク……戦えない私達は足手まといだ……。

 何もできないことが悔しいけれど、何もしないことが今一番の私たちにできることなのだろう。

 モンスターを収納できるってことを言えれば……役にたてるけれど。

 こんな特殊な能力があることを言うとどうなるのか想像がつかない……。

 下唇を強く噛む。

「危ないっ!」

 どこから飛んで来たのか、牙兎が目の前に現れた。

「【収……」

 呪文を唱える前に、目の前の牙兎は横から矢を受けて地面に縫いとめられた。

「大丈夫か?」

 建物に背を預け、片足と片腕で弓を構えるシュナイダーさんの姿があった。

「入口側は俺にまかせな。さ、入った入った」

 ドアは逃げてきた人がすぐに避難できるように開けたままだ。スライムなどの低級モンスターは子供にも倒せるため放置されている。

 中位モンスターばかりを狙って、シュナイダーさんが次々に矢を放つ。

「【風】目標物捕捉」

 片腕なのに弓の名手というのは本当のことだった。

 風魔法で矢の軌道をうまく修正し、放った矢のどれもが的となっているモンスターに吸い込まれるように刺さっていく。

 すごい……。

 私がシュナイダーさんの弓の腕に見惚れている間に、ルークはり木刀を持ってきて構えていた。

 アネクモの糸が使われているので、火魔法でスライムを倒す者がいない。低級モンスターを物理的な方法で退治するしかない。

 ただ、その数が途方もなくて、打ち下ろす腕の力が次第に弱くなっていって倒すのが大変になる。

「僕なら、疲れない」

 ルークが、何度も木刀を振り下ろし、建物に侵入しようとするスライムを倒していく。時々中に入り込んだスライムを避難した村人たちが始末する。

「おお、滝が復活した」

 入口から見える崖に白い筋が現れた。

 ドミンガさんの水魔法だ。

 元々の滝の半分の幅もないけれど、滝が復活して落ちて来るモンスターの数が明らかに減っている。

 ほっとしたのもつかの間、

「やばいっ!ドアを閉めるぞ!矢が切れた!」

 焦ったシュナイダーさんの声が響き、すぐにドアが閉められた。でも、これじゃぁ、逃げてきた人が入れなくなっちゃう。

 明かり取りのための窓から外を見る。

 窓には細かく編まれたアネクモの糸があるので光は通してもモンスターは通さない。

 矢なら……ある。

 私の目には、窓の外には矢がたくさん見えた。

 モンスターに刺さった矢が。

 1本ずつ引き抜いて集めてて回る余裕はない。

 だけど……、私にはできる。

「シュナイダーさん、ここに矢を出します!」

「え?どういうことだ?」

 建物の外にいるシュナイダーさんに声をかけ、視界になるべく矢がたくさん入る方向を向く。

「見えている矢をすべて【収納】」

 矢だけまるごと収納が完了する。モンスターは収納されない。これで、モンスターから矢を引き抜く手間がなくなる。

 それから、移動してきたシュナイダーさんの足元に

「【取出】」

 どさっと、矢が落ちる。

「収納魔法か!切り株を引き抜くみたいに、矢を……!助かる!」

 シュナイダーさんが矢を一度に何本か広い、すぐにまたモンスター目掛けて放つ。

 モンスターが動きを停止すればすぐに収納魔法で引き抜き、シュナイダーさんの足元に取り出した。

「はっ、俺とエイルのコンビは最高だな!」

 ピュゥっと気持ちに余裕が出たのかシュナイダーさんが小さく口笛をふいた。


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