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平和の終わり

 村長の家には、すでにパンときのこのスープが並べられていた。

 円になるように、私、ルーク、レイナさん、イズルさんファーズの順に座って食べる。

 パンは、ゴーシュさんの作ったものよりも少し硬かったけれど、スープと一緒に食べると味が染みておいしかった。

 ゴーシュさん……。

 この村は、魔欠落者にみんな優しい。だけど、忘れちゃいけない。グリッドさんみたいに魔欠落者に優しい人が、この村の外にもいるってこと。

 ラァラさんのように、母様のように、魔欠落者の家族を愛している人がいるってことを。

 そういう人が増えていけば、この村のようにとは行かなくても、村の外でも魔欠落者が生きやすくなるはずだ。

 ……どうしたら、増えるんだろう?

 魔欠落者が人々のために役に立てばいいのかな?

 ……神殿の言うことは嘘なんだよって悪魔とは関係ないんだよって知ってもらえばいいのかな?

 ……そんなことできるの?教会には、神殿と国から派遣される回復魔法の力の大きな神父がいる。

 教会にはお世話になる人も多い。神殿の言葉に逆らえば……。

「足りる?足りなかったらお変わりしていいのよ?」

 空になった皿を見て、レイナさんが声をかけてくれた。

 塩は村の外から運ばないといけないから不足することもあるけれど、小麦は村の畑で十分な量が作れるらしい。きのこは森の恵だ。少しだけ入っていたベーコンも森の動物のものだそう。塩があるときにしか動物も加工できないので少しだけ貴重らしい。

「いえ、もうお腹いっぱいです」

「じゃぁ、お皿を片付けましょう。教えるから付いてきて」

 と立ち上がったのはレイナさん。

 ええ?お姫様が?あ、もう姫じゃないんだっけ?

 えーっと……。

「今の時間なら共同洗い場が使えるのよ。ドミンガがいるからね。そうじゃない時間なら、川の水を汲んで使うか、水魔法で水を出して洗うことになるの」

 共同洗い場と言われて連れた来られたのは、村長の家の少し西側だった。大きなタライがいくつかおいてあり、地面は石が敷いてあって水で土がぐちゃぐちゃにならないようになっている。その水は掘られた溝で川の下流側に流れるようにしてあった。

 タライに絶え間無く水を満たすドミンガさん。村人は次々に来て食器を洗ったり調理器具を洗ったり、洗濯をしたりしている。

 作業をしていた女性たちが私とレイナさんとルークの姿を見て声をかけてくれた。

「あら、エイルちゃんいらっしゃい。ふふ、この共同洗い場は本当に便利よ」

「そうそう。私なんてこの村に来て、水魔法の使い方忘れちゃったわ」

「分かるわぁ。私もよ。一度に出せる水なんてせいぜい鍋一つ分だったから、1時間おきに水瓶に水を貯めて使うのめんどくさかったもの。うっかり貯め忘れると、ろくに洗い物もできなくてねぇ。こういうところが前に住んでた町にもあれば便利だったのに」

 え?

 水魔法を使える人も、不便だったの?今の方が便利なの?

「本当に。ドミンガ一人が、家を回って水瓶を満たせば、いちいち1時間おきに水を貯めるのを忘れないように時間を気にすることもないのにねぇ」

「魔欠落者に頼み事をするなんて恥だって考えの人がいることが馬鹿みたいよねぇ。水仕事をする女の立場になってほしいよ、まったく」

「まぁ、私も……世間の目が怖くて魔欠落者と仲良くしようとは思わなかったからね、同罪かもしれないけれど……」

 あれ?

 ここって、魔欠落者の村だよね?

 目の前で会話を続ける女性3人は、どうも魔欠落者ではないみたいだ。

「あの、皆さんは何故、この村に?」

 みんなそれぞれ事情があるから、だから私とルークも事情を聞かれることはなかった。

 だから、尋ねていいものかどうか迷ったけれど、見た目が子供であることを利用して無邪気なふりをして聞いてみる。

「妹がね、魔欠落者を産んで離縁されてうちを頼ってきたんだ。それで、まぁいろいろあってね。妹と甥っ子連れて逃げてきたのさ」

「私はあれだよ。ファーズさんと一緒。魔欠落はしてないんだけれど、どの魔法も力が小さすぎて……」

「ふふ、ゴメンね、レイナ様やリーアのようにそれほどドラマチックな理由じゃなくて」

 ん?

「ドラマチック?」

「だって、そうだろう?好きな人と一緒にいたくてこの村に来たんだからさ」

 レイナさんに聞こえないように女性の一人が私の耳元で声をひそめた。

 うわー。やっぱり、レイナさんの気持ちはみんなにバレバレみたいです。

 リーアさんっていうのは……目の見えないヤンさんのことだけじゃなくて、やっぱり魔欠落者のドミンガさんのことも大きくてここに来たんだ。……二人はもう付き合ってるのかな?それとも、レイナさんたちみたいにみんなに気持ちがバレバレなだけ?

 レイナさんは、丁寧にルークにお皿の洗い方を教えていた。

 その横顔はどや顔にも見える。きっと二人ともこの村に来るまで洗い物なんてしていなかったんだろう。だから、洗い物一つ教えるのも教わるのもちょっと楽しそうだ。

 その時だ。

 突然、何か大きなものが衝突したような、地面が揺れる程の大きな音が聞こえてきた。

 音に驚いて、鳥達が一斉に飛び立つ。

「え?何の音?」

 皆がキョロキョロと音の正体を確かめようと顔をあちこちに向けている。

「大丈夫か、レイナ!」

 すぐに、ファーズさんとイズルさんが駆けつけてきた。

「ええ、私は大丈夫だけれど、今の音は何かしら?村に声を飛ばすわ。【風】村いっぱいに届け「みんな大丈夫?何かあれば村長の家に情報を」」

 そして、すぐに情報は届けられた。

「大変だ!滝の水が止まった」

 声は、村長の家の回りにいた人間皆に届いた。

「何?滝の水が?」

 イズルさんが滝のある崖に目を向け、本当だとつぶやいた。

 他の皆もいつものように大量の水が落ちていないのを見て驚いている。

「さっきの音が原因か?いや、原因などどうでもいい……」

 まだ唖然としている皆とは対照的に、ファーズさんは顔を青くしている。

「滝がなくなれば……」

 そうだ!

 滝があるから、モンスターが寄って来ない……滝がなくなれば……。

「【風】村中に声を届けて「みんな落ち着いて、アネクモの糸が貼ってある方角からは大きなモンスターは来ない。当面は様子を見て安全を確保するために、村長の家に集合」」

 どうしよう!それしか考えられなかったのに、レイナさんはすでに具体的に指示を出している。

「【風】村中に「アネクモの糸をすり抜けられる小さいモンスターや、崖上から落ちてモンスターが現れるかもしれない。力の無いものを助けながら避難に協力を。助けが必要な者は声を」

 レイナさんが次々と指示を出していく。

 そして、恐れていた声が、風魔法で届いた。

「大変です、崖上からモンスターが降るように次々とやってきます」

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